シングルFETのA級「Larson」と最新ICEPOWERのD級「Crosby」
A級アンプとD級アンプはどう違う? M2TECHの“ロックスターシリーズ”で徹底検証!
最新のEDMで「Crosby」の音質をチェック
編集部 では早速聴いてみましょう。まずは「Crosby」を1台のステレオアンプとして使用した場合です。楽曲はチャーチズというEDMグループ『Every Open Eye』というアルバムから、「Leave A trace」のハイレゾ音源でいきます。
♪チャーチズ 「Leave A trace」 Crosbyをステレオアンプとして使用
土方 いや、これはすごくいいですね。サイズ感からは考えられないほどパルシブで、スピード感とパワー感のあるサウンドですね。低域をしっかり出しかつ止めていて、エレクトリックシンセの透明感なども素晴らしい。ヴォーカルのキレの良さや口元のコンパクトなサイズ感など、D級の一番良いところをしっかり出している感じがします。
菅沼 今回のレファレンススピーカーはB&Wの「803 D4」というなかなか鳴らしづらいスピーカーなんですよね。
土方 B&Wはそもそも、甘いアンプで鳴らすような設計にはなっていないんです。良いアンプが必須なんですが、Crosbyは音の立ち上がりも良くて、パッと聴いた印象が非常に良いです。出力もですが、数字以上にしっかり止めているように思います。
菅沼 この曲はマスタリングがボブ・ラドウィックなんですよね。EDMですが音質的にもいい曲を持ってきて、その良さがどれだけ出るかなと思ったのです。でもあえていうと、ちょっとスピーカーが勝っているかな、という印象もあります。ということで、ここで続いてCrosbyを2台使用してブリッジ接続しての再生をやってみたいなと。
土方 Crosbyはブリッジ再生もできるんですね! ただ、ブリッジの良し悪しにも諸説ありますね。
菅沼 プラスマイナスの駆動点がずれるとか歪みが出るとか、力強さはあるけれど滑らかさはどうなのか、となかなか賛否両論あるところではあります。では先ほどと同じ「Leave A trace」を聴いてみましょう。
♪チャーチズ 「Leave A trace」 Crosby2台をブリッジで使用
土方 これはブリッジのほうが全然いいですね! 先程菅沼さんが言っていた「駆動しきれていないんじゃないか」というところがすごくしっかりしてきています。全体の力感も密度も違うし、B&Wが「音楽を奏で出した」という印象です。高級なアナログアンプを使用した時のような艶の出方や余裕がありますよね。
菅沼 ありがとうございます。M2TECHのCrosbyは、いままでD級に対してネガティブなイメージを持っていた方にも聴いて欲しいと思っています。
土方 ブリッジで聴くと、熱気や色艶の良さが伝わってきますね。アナログの銘アンプと呼ばれるような音の表現に近づいてくる感じがします。血の通ったヴォーカルや熱気のある中低域など本当に魅力的です。
菅沼 Crosbyに搭載されているのは最新世代のICEPOWERのモジュールになります。今までのICEPOWERって、これはスペック上の話ですが高域にかけて歪み率が上がる、あるいはスピーカーのインピーダンスが一定ではないとその負荷に対応できなかったりといった欠点があるとされていました。しかし最新世代になって、そういった欠点はかなり低減されたようですね。
土方 1台でも良いですが、ブリッジにすると劇的に改善されて、これはコストパフォーマンス高いと感じました!
菅沼 Crosbyは1台で17万8000円、2台でも35万円ちょっと。まずは最初に1台入れてもらって、あとから2台目を追加するというのもありかなと思います。ちなみに切り替えは背面のスイッチでOKです。
土方 ハーフサイズだから、2台並べてもフルサイズのラックに収まるというのも嬉しいですね。
菅沼 ちなみに…実は最新のロットから、筐体のアルミが少し変わっています。これもウクライナ情勢の影響なのですが、もともとのアルミ筐体を作っていた会社が廃業してしまい、やむを得ず別の会社に変更することになったそうです。写真では違いは分かりづらいかもしれませんが、古い方はシックなつや消し、新しいほうがちょっとキラキラしています。今後はこのキラキラした筐体になります。もしすでに古いバージョンを買われた方で、新しい筐体に変えたい場合は無償交換いたしますのでお知らせください。
D級アンプはアコースティック楽器をどう表現する?
菅沼 いま試聴したのは、どちらかというとD級アンプと相性の良いEDMでしたので、今度はクラシックの音源を再生してみようと思います。ガーシュウィンのピアノコンチェルトの第3楽章。デニス・コジュヒン&スイス・ロマンド管弦楽団の演奏です。
♪デニス・コジュヒン(ピアノ)、山田和樹(指揮)、スイス・ロマンド管弦楽団 ガーシュウィン:ピアノ協奏曲 第3楽章
土方 うん、こちらもそんなに悪くないですね。聴感上のFレンジも出ていますし、ピアノの質感も悪くありません。
菅沼 増幅モジュールはICEPOWERですが、入力やバッファー段にはM2TECHの手が入っています。イタリアはやはりオペラやクラシック音楽の本場ですし、国民性としてもクラシック音楽をうまく鳴らすというのには長けていますね。
土方 昔のD級は音が冷たいと言われたこともありましたが、こうやって聴いてみると非常に躍動的ですね。B&Wはともすると分析的に鳴らしてしまうこともありますが、これはとても楽しく音楽を伝えてくれます。
菅沼 D級だからこういう音だ、ということではなく電源や回路構成のこだわりにM2TECHがこれまで培ってきたものが投入されている感じがします。
土方 やっぱりD級って言葉が良くないのかなぁ。
菅沼 あくまで増幅方式の違いなんですが、なんとなくイメージ的にもA級のほうがランクが高い感じはしてしまいますよね(笑)。D級ってデジタルアンプと言われる方もいます。入力信号をスイッチングでPWM変調させて出力していますが、昨今はかなり高い周波数でスイッチングさせているので、極めてアナログ波形に近いところになっていると思います。なので、AやABはアナログで、Dはデジタル、という区別の仕方ではなくなっているのかなぁと思っています。