【連載】佐野正弘のITインサイト 第43回
楽天モバイルの料金に再びメスは入るのか?
以前にも触れたが、2023年中の単月黒字化を目指す楽天モバイルにとって、今年は大きな正念場を迎える年でもある。それだけに同社は、年明け早々からいくつかの動きを見せているようだ。
なかでも大きな動きとなったのは、従来の「Rakuten UN-LIMIT VII」とは異なる新しいサービスの提供だ。その1つとして、先日1月26日に発表されたのが「Rakuten Turbo」である。
これは4G/5Gのモバイル回線を、固定ブロードバンド回線の代替として使用する「FWA」(Fixed Wireless Access)などと呼ばれるサービス。電源を入れて置いておくだけで、自宅でWi-Fiによる通信が利用できることから、主として賃貸契約の都合などで光回線を引けない住宅に住む人や、光回線の工事の手間を嫌う人などから利用されている。
実際、同種のサービスはNTTドコモの「home 5G」や、KDDI傘下のUQコミュニケーションズが提供する「UQ WiMAX」、ソフトバンクの「SoftBank Air」など競合他社も手掛けているもの。それゆえ、楽天モバイルがRakuten Turboを提供したのは、競合に対抗する狙いが強いだろうし、この時期に提供開始したのも、新たに大学生や社会人になるなどして一人暮らしする人が増え、FWAの需要が増える春先を狙ったがためだろう。
端末を屋内に設置する必要がある関係上、エリア面で不利な要素が多い楽天モバイルの現状を考えると、FWAサービスの展開は不利なようにも思えるのだが、戦略自体は真っ当なものだといえる。その一方で気になるのは料金だ。
Rakuten Turboは、固定ブロードバンドの代替ということもあって、Rakuten UN-LIMIT VIIのような段階制ではなく、最初から定額制の料金が採用されているのだが、その月額料金は4,840円となっている。この料金を競合先と比べてみると、NTTドコモの「home 5G プラン」が月額4,950円、KDDIのauブランドで提供している「ホームルータープラン 5G」が月額5,170円、ソフトバンクの「基本料金 Air 4G/5G共通プラン」が月額5,368円だ。
それらと比べればRakuten Turboは確かに安いが、スマートフォン向けのRakuten UN-LIMIT VIIが競合よりかなり安いのと比べると、お得感はあまり高くない印象だ。もちろんRakuten Turboは、3年間の月額料金が3,685円になるキャンペーン施策も同時に打ち出しているが、他社も何らかのかたちでキャンペーンを展開していることが多く、大差がつく程ではないように思えてしまう。
そしてもう1つ、楽天モバイルが1月30日に打ち出したのが「楽天モバイル法人プラン」である。これは名前の通り、企業向けのモバイル通信サービスであり、個人向けサービスと同様、法人向けの専用アプリ「Rakuten Link Office」を用いることで、国内通話が無料でかけ放題になるというのが大きな特徴となるようだ。
実は楽天モバイル法人プランは、正式発表に先駆けて1月26日に実施された、「楽天市場」への出店者に向けたイベント「楽天新春カンファレンス2023」で披露されたもの。楽天グループと結びつきの強い企業を足がかりとして、法人契約を拡大することで楽天モバイルの契約数を増やしたいのが、このプランに込められた狙いといえそうだ。
だが、こちらも気になるのは料金である。なぜなら、コンシューマー向けのRakuten UN-LIMIT VIIとは異なり、段階制ではなくデータ通信量に応じてプランを分ける、サブブランドやMVNOで多く見られる料金体系がとられているからだ。
実際の料金を見ると、3GBのプランで月額2,178円、5GBのプランで月額2,618円、30GBのプランで月額3,058円となっている。最も通信量が多いプランでも30GBと、個人向けサービスのようにデータ通信量が使い放題にはならないというのも気になるところだ。
Rakuten Turboと楽天モバイル法人向けプランが、Rakuten UN-LIMIT VIIと異なる料金体系だったことから、SNSなどでは「楽天モバイルはワンプランを止めたのか」という声も見られた。もちろん、コンシューマー向けの料金プランはRakuten UN-LIMIT VII以降変わっておらず、スマートフォン向けに関してワンプランは維持されているのだが、新しいサービスで異なる料金体系を採用するに至ったことを考えると、やはり料金面で何らかの戦略転換を図ろうとしているのではないか?と見えてしまうのは正直なところだ。
そもそも段階制の料金プランは、通信量を使わなかった月の料金が下がることからユーザーには優しいが、携帯電話会社にとってはARPUを上げづらく、稼ぎにくいプランとされている。それゆえ、段階制プランを提供している携帯大手も、通信量の上限は3〜7GBと小容量に抑えており、大容量通信を利用したい人は別途、定額制で料金が高いプランを提供するというのが一般的だ。
それだけに、「Rakuten UN-LIMIT VI」で段階制を全面的に導入したことに対しては、月額0円から利用できることも含め収益性に不安の声が少なからず挙がっていた。Rakuten UN-LIMIT VIIへの移行で月額0円の仕組みこそなくなったものの、段階制は維持されていることで、楽天モバイルが収益面で厳しい戦いを強いられていることに変わりはない。
それだけに、Rakuten Turboでは定額制、楽天モバイル法人向けプランでは通信量毎のプランを提供したことからは、段階制を止めてよりビジネス的に現実的な料金プランを提供したいという、楽天モバイルの本音を見て取ることができそうだ。だが、それを実際にできるのか?という部分では、非常に大きな課題がある。
というのも楽天モバイルは、Rakuten UN-LIMIT VIIへの移行に伴い、月額0円施策を廃止したことがユーザーからの大きな反発を招き、契約数を40万以上減らしている。一層の解約を招き、イメージが悪化することを防ぐためにも、価格に敏感なコンシューマー向けサービスの料金プラン変更には、かなりの慎重さが求められるのも確かだ。
だが一方で、大きな売り上げが見込めるボリュームゾーンは、やはりコンシューマー向けサービスとなってくるのも確かだ。収益向上のため、コンシューマー向け料金でさらなるメスを入れるのかどうかが、今年再び大きな関心を呼ぶことになるかもしれない。
■モバイル回線を用いた固定ブロードバンドの新サービス「Rakuten Turbo」
なかでも大きな動きとなったのは、従来の「Rakuten UN-LIMIT VII」とは異なる新しいサービスの提供だ。その1つとして、先日1月26日に発表されたのが「Rakuten Turbo」である。
これは4G/5Gのモバイル回線を、固定ブロードバンド回線の代替として使用する「FWA」(Fixed Wireless Access)などと呼ばれるサービス。電源を入れて置いておくだけで、自宅でWi-Fiによる通信が利用できることから、主として賃貸契約の都合などで光回線を引けない住宅に住む人や、光回線の工事の手間を嫌う人などから利用されている。
実際、同種のサービスはNTTドコモの「home 5G」や、KDDI傘下のUQコミュニケーションズが提供する「UQ WiMAX」、ソフトバンクの「SoftBank Air」など競合他社も手掛けているもの。それゆえ、楽天モバイルがRakuten Turboを提供したのは、競合に対抗する狙いが強いだろうし、この時期に提供開始したのも、新たに大学生や社会人になるなどして一人暮らしする人が増え、FWAの需要が増える春先を狙ったがためだろう。
端末を屋内に設置する必要がある関係上、エリア面で不利な要素が多い楽天モバイルの現状を考えると、FWAサービスの展開は不利なようにも思えるのだが、戦略自体は真っ当なものだといえる。その一方で気になるのは料金だ。
Rakuten Turboは、固定ブロードバンドの代替ということもあって、Rakuten UN-LIMIT VIIのような段階制ではなく、最初から定額制の料金が採用されているのだが、その月額料金は4,840円となっている。この料金を競合先と比べてみると、NTTドコモの「home 5G プラン」が月額4,950円、KDDIのauブランドで提供している「ホームルータープラン 5G」が月額5,170円、ソフトバンクの「基本料金 Air 4G/5G共通プラン」が月額5,368円だ。
それらと比べればRakuten Turboは確かに安いが、スマートフォン向けのRakuten UN-LIMIT VIIが競合よりかなり安いのと比べると、お得感はあまり高くない印象だ。もちろんRakuten Turboは、3年間の月額料金が3,685円になるキャンペーン施策も同時に打ち出しているが、他社も何らかのかたちでキャンペーンを展開していることが多く、大差がつく程ではないように思えてしまう。
そしてもう1つ、楽天モバイルが1月30日に打ち出したのが「楽天モバイル法人プラン」である。これは名前の通り、企業向けのモバイル通信サービスであり、個人向けサービスと同様、法人向けの専用アプリ「Rakuten Link Office」を用いることで、国内通話が無料でかけ放題になるというのが大きな特徴となるようだ。
実は楽天モバイル法人プランは、正式発表に先駆けて1月26日に実施された、「楽天市場」への出店者に向けたイベント「楽天新春カンファレンス2023」で披露されたもの。楽天グループと結びつきの強い企業を足がかりとして、法人契約を拡大することで楽天モバイルの契約数を増やしたいのが、このプランに込められた狙いといえそうだ。
だが、こちらも気になるのは料金である。なぜなら、コンシューマー向けのRakuten UN-LIMIT VIIとは異なり、段階制ではなくデータ通信量に応じてプランを分ける、サブブランドやMVNOで多く見られる料金体系がとられているからだ。
実際の料金を見ると、3GBのプランで月額2,178円、5GBのプランで月額2,618円、30GBのプランで月額3,058円となっている。最も通信量が多いプランでも30GBと、個人向けサービスのようにデータ通信量が使い放題にはならないというのも気になるところだ。
Rakuten Turboと楽天モバイル法人向けプランが、Rakuten UN-LIMIT VIIと異なる料金体系だったことから、SNSなどでは「楽天モバイルはワンプランを止めたのか」という声も見られた。もちろん、コンシューマー向けの料金プランはRakuten UN-LIMIT VII以降変わっておらず、スマートフォン向けに関してワンプランは維持されているのだが、新しいサービスで異なる料金体系を採用するに至ったことを考えると、やはり料金面で何らかの戦略転換を図ろうとしているのではないか?と見えてしまうのは正直なところだ。
そもそも段階制の料金プランは、通信量を使わなかった月の料金が下がることからユーザーには優しいが、携帯電話会社にとってはARPUを上げづらく、稼ぎにくいプランとされている。それゆえ、段階制プランを提供している携帯大手も、通信量の上限は3〜7GBと小容量に抑えており、大容量通信を利用したい人は別途、定額制で料金が高いプランを提供するというのが一般的だ。
それだけに、「Rakuten UN-LIMIT VI」で段階制を全面的に導入したことに対しては、月額0円から利用できることも含め収益性に不安の声が少なからず挙がっていた。Rakuten UN-LIMIT VIIへの移行で月額0円の仕組みこそなくなったものの、段階制は維持されていることで、楽天モバイルが収益面で厳しい戦いを強いられていることに変わりはない。
それだけに、Rakuten Turboでは定額制、楽天モバイル法人向けプランでは通信量毎のプランを提供したことからは、段階制を止めてよりビジネス的に現実的な料金プランを提供したいという、楽天モバイルの本音を見て取ることができそうだ。だが、それを実際にできるのか?という部分では、非常に大きな課題がある。
というのも楽天モバイルは、Rakuten UN-LIMIT VIIへの移行に伴い、月額0円施策を廃止したことがユーザーからの大きな反発を招き、契約数を40万以上減らしている。一層の解約を招き、イメージが悪化することを防ぐためにも、価格に敏感なコンシューマー向けサービスの料金プラン変更には、かなりの慎重さが求められるのも確かだ。
だが一方で、大きな売り上げが見込めるボリュームゾーンは、やはりコンシューマー向けサービスとなってくるのも確かだ。収益向上のため、コンシューマー向け料金でさらなるメスを入れるのかどうかが、今年再び大きな関心を呼ぶことになるかもしれない。