アニメから自主制作映画まで5タイトル
「人に本気で観てほしい作品」をぶつけ合え!推し語りバトル開幕!
伴:マニアックかつイロモノで申し訳ないんですけど……僕が紹介するのは映画『SR サイタマノラッパー』3部作です。
押野:ごめん、今日出てきた中で唯一ガチで名前を聞いたことがない……。
伴:世間的にはそこまで有名ではないですが、ヒップホップ好きはほぼほぼ通っている作品で、RHYMESTERの宇多丸さんも当時激奨していました。入江悠さんという監督の自主制作映画で、これが評価されたことでメジャー作品も手がけるようになった出世作ですね。
伴:タイトルにもある通り日本のヒップホップ、日本語ラップに焦点を当てた作品なんですけど、基本的にヒップホップのかっこいいところ、イケてるシーンは出てきません。日本語ラップのダサさや一般社会・常識との距離感、ヒップホップへの偏見などを生々しく描いているんです。
伴:田んぼしかない田舎、サイタマ県フクヤ市が舞台で、イック、トム、マイティというヒップホップ大好きな若者3人が話の中心人物です。3人は「SHO-GUNG」という名前のヒップホップグループを組んでいて、ある日フクヤ市の偉い人に呼ばれてライブをやることになるんですが、行ってみると公民館の会議室にラジカセ1個が置いてあって、「若者を知ろうってことでSHO-GUNGというヒップホップ? をやっている若者に来てもらいました」と、スーツのおじさんの前でライブをやらされるという……。
杉山:地獄……。
伴:地獄です。しかもこの映画の特徴として、基本的にカットせずワンカット長回しでずっと撮り続けてるんです。なので生々しさ、臨場感が半端なくてですね。最初はやる気ないけど音楽が流れてきたらノってきて、でもおじさん達はシラけている、というのをワンカットで撮り続けて、最後には質問タイムという名の公開処刑が始まって……。
伴:「市民税払ってねぇ」なんて歌うもんだから「なぜ市民税を払わないのですか?」と質問されるんですけど、「俺は本当に払ってない」と言うやつもいれば「誇張してます」「僕はそんなこと全然思ってないんですけどね」なんて言うやつもいる。彼らは結局ヒップホップっぽいことを歌詞にしているだけで、実力もなければ中身もない、本当にどうしようもない奴らなんです。
松永:共感性羞恥やばそう……。
伴:ただ、これも単に悪く描いているわけでもなく、めちゃくちゃリアルなんですね。実際にクラブに行くとイックくんやトムみたいな人が本当にいるし、先輩の強面な感じもリアルで、本当にヒップホップを好きな人が愛を込めて、あえてヒップホップのダメなところを描いて、現実を突きつける映画になっています。
伴:それで、これはネタバレになってしまうのですが……最終的にSHO-GUNGは解散、イックくんは夢をあきらめて居酒屋でバイトし始めるんですけど、そこに元メンバーがお客さんとしてやってきて、追い詰められたイックくんがフリースタイルを始めるんです。このシーン自体は非現実的ですけど、イックくんは自分の置かれた状況や、それでもラップをやりたいんだ、ヒップホップが好きなんだという思いを、初めて自分の言葉でラップにする。
伴:僕はラッパーのDOTAMAさんが言っていた「自分のリアルを歌うのがヒップホップだ。マリファナ吸うとかストリートのワルじゃないといけないわけではなくて、自分の身の回りにあること、生活を歌うのが1番のヒップホップだ」という言葉に共感するんですけど、イックくんは最後の最後にそれをやったんです。狭い居酒屋の中で、スキルは拙いけど彼なりのヒップホップが生まれる瞬間を目撃する。僕はいつもここで泣いてしまって……。
杉山:“音楽”じゃん……。
伴:最後のフリースタイルも一発長回しで、音楽好きな人や夢に向かって頑張っている人が観ると心打たれる作品です。基本的には1作目に全てが詰まっていますが、女性ラッパーが主人公の『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』、SHO-GUNGを抜けて東京に行ったマイティが主人公の3作目『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』も素晴らしい完成度でして。
伴:特に3作目は1作目より悲惨で、クラブのしがらみやドロドロが渦巻いている様子がものすごくリアル。あと、3作目ではライブシーンがあって、音楽映画のライブシーンって臨場感やリアリティを出すのがすごく難しいと思うんですが、それを自主制作ながらやってのけています。それに時計の音や環境音がビートに合わさるという、とんでもないことをやりつつ長回しで撮っていたりと素晴らしいです。どれも90分くらいでサッと観られるので、ゴールデンウィーク中に観たら背中を押してもらえると思います。もしかしたら仕事辞めちゃう人もいるかもしれませんが……。
松永:どこで配信してるんですか?
伴:3作ともU-NEXTで配信しています。あと配信はされていないものの、2017年にはドラマ版『SRサイタマノラッパー〜マイクの細道〜』も放送されました。
杉山:「ラッパーは育ちが悪ければ悪いほど偉い」という話を聞いたことがあって、アメリカだとスラムの生まれ育ちの人もいるけど、平和な日本だとそれが埼玉の田舎になるという……。
押野:「俺はサイタマ生まれフクヤ育ち」ってことでしょ。ちょっとバックボーンがなさそうな……。
伴:そういうこともギャグシーンとして描写されていて、田んぼの中で今後の方針を話しあっている時に「(アメリカの)西海岸系と東海岸系、どっちで行く?」「でもサイタマ海ないし……」って(笑)。日本のヒップホップの矛盾、おかしいところをあえて突いているのがヒップホップ好きとしては逆に面白いですし、それも引っくるめてラストシーンで感動するんです。
長濱:自主制作のワンカット長回しだと、映像としてドキュメンタリー的な雰囲気になりそうですね。
伴:画作りは安っぽいし荒削りですけど、ものすごく光るものがある単館映画、って雰囲気ですね。1作目の最後にはSHO-GUNGの曲が流れるのも最高で、めちゃくちゃ良い曲だけど、ストーリーの後で彼らが成功したゆえの曲なのか、それとも成し得なかった未来なのか、そこがわからないところも含めて最高です。
長濱:こういう作品を観れるのって配信の良いところだよね。レンタル店でジャケットを手に取ったとして、前情報ナシだったらお金払ってまで観ようとはならない気がするけど、見放題だったら「とりあえず観るか」って思える。
杉山:ヒップホップって怖い人がやってるイメージで縁遠かったけど、この作品はヒップホップがどうこう抜きで純粋に面白そうですね。
杉山:……全員を沼に引きずり込んでやると意気込んで臨みましたが、普通に全作品とも観たくなっちゃいましたね。
押野:冷静に考えてバトルである必要なくない?
長濱:それはそう。
伴:でも自分では手を伸ばさなかったであろう作品がいっぱい知れたので、ゴールデンウィーク中にどれか観てみたいですね。
松永:もう全員が一等賞ってことでいいんじゃないでしょうか。……『HiGH&LOW』のBlu-rayどなたか貸しましょうか?
伴:帰ってHuluで観ます。