サウンドクリエイトでのイベント模様をレポート
ミュンシュ、カラヤン、ロト。録音で味わうベルリオーズ「幻想交響曲」の革新性
現代の録音技術だからこそ“過激さ”が伝わる
黒崎 ベルリオーズは「管弦楽法」という本を書いているんですよね。楽器をどう組み合わせるとどう鳴るか、という教科書を書いているんです。それをリヒャルト・シュトラウスが改編してベルリオーズ・シュトラウス版として今でも売っているんですよね。
山之内 フルートとホルンを重ねる効果とか、チェロを駒に近い位置でわざと弾くとかね、いろんなところで使われていると思います。そういう弾き分け、吹き分けの技術はベルリオーズが考えたものが結構あるらしいです。当時の彼が強い思い入れで描き上げた作品を、今こうして正確にやればやるほど結構過激な曲なんだ、と改めて分かりました。好きになったとは言わないけど、改めて興味が沸いてきましたね。
黒崎 それは良いことでございました。先程のカラヤンの演奏、あれが昔の「幻想」っていう感じで、ミュンシュの弾き方は、まとまりで塊で大きく。そこをいくとロトの盤は結構分析的にきっちり入っていて、かつそれでいて別に「お勉強」になってないという。
山之内 ロト盤は結構過激じゃないですか?カラヤンもミュンシュも「自分ならこうするぞ」っていう指揮者の主張がすごく強い。それに対してロトの演奏は、自分が前面に出てくるわけではないのですが、曲の持っている異常さがよく出てくる。かえってその過激さや異常さが際立ちますね。
黒崎 それをこのオーディオによってやっと再現できたっていうのは幸せなこと。面白い時代になりました。200年前に編み出された芸術でも、例えば絵画ならば、我々の目が良くなるってことはあんまりありません。せいぜい洗ってきれいになるくらい。だけど、作曲家が当時五線譜に書き込んだものがこういう形で表現されて、我々がそれを体験できるというのは、ものすごく面白いですね。聴き古されたというよりはむしろ、録音なり再生なりさまざまな装置の向上によってさらに引き出されるものがある。
山之内 まだ掘り起こされてなかった音がこんなにあったかと。ロトは次から次へと録音していますが、こういう演奏家が出てくるとどれも聴き逃せないですね。「ダフニスとクロエ」も出しましたし、ラヴェルもものすごくいいですよね。クラシックを良い音で聴くっていう面白さが際立ちます。
また、ロト自身がすごく耳がいい人で、私は指揮者の中でも特に耳がいいと思うんです。そういう耳で演奏に向き合ってくれると、こういう新しい発見がいっぱい出てくる。
黒崎 最後はロト賛美に終わってしまいましたけども、とても面白かったです。どうもありがとうございました。