評論家は「曲のどんなポイント」を聴いている?
Mrs. GREEN APPLE、ジェイコブ・コリアー、パット・メセニー……オーディオ評論家が試聴に使った2024年の曲はこれだ!【Part.2】
海上先生が執筆したレビュー記事はこちら
リファレンスとしてよく使った2024年の新譜を紹介するこのコーナー。これまでも書いているが、筆者は少なくとも1年以上繰り返し聴いた曲でなければリファレンスとして使用しないポリシーなので、正確には「2024年に巡り合った将来のリファレンス候補曲」ということになる。あらかじめ承知おき願いたい。
メセニーでバリトンギターといえば、2003年発表のアルバム「One Quiet Night」を思い出すが、本作もバリトンギター1本、そのうえ弦は特注のナイロン製。同じくオーバーダビングなしで録音された本作は、アコースティックギターの魅力を丁寧に引き出しつつ、その枠を超えた独特の音世界を眼前に描き出してくれる。
カバー曲を中心に構成されているが、新鮮味すら感じさせるところにメセニーというミュージシャンの真骨頂がある。入手するなり聴き込み、惚れ込み、筆者としては珍しく1年を経たずしてリファレンスに昇格させた、本年随一のアルバムだ。
欧州では10年以上前に上映された映画が、レーベル55周年記念という節目でようやく本邦初公開、そのサウンドトラックも発売と相成った。
回顧的な内容かと思いきや、マンフレート・アイヒャー御大を中心とした制作ロードムービーという意外な趣向だったが、撮影時に録音された音源を中心に構成されたサントラはいかにもECMの音。なんとはなしに腰を据えて聴く機会がなかったディノ・サルーシなど、ECM所属アーティストの再発見、ひいては将来のリファレンスの発掘という意味で、本年における重要なアルバムとなった。
筆者のリファレンスには、録音時の条件が優れた、ポスプロ工程が緻密な楽曲を選ぶ傾向にあるが、メロディーや演奏技術を無視することはない。繰り返し聴く運命の曲ゆえに、聴き飽きない、聴き疲れないという要素も重要だからだ。
フィリピンの音楽シーン(フィリピンはAOR調の曲の宝庫なのだ)を追う過程で偶然発見したこの曲は、音質という観点からはもう一声だが、繰り返し聴けるという点では文句なし。往年のGRP風味とでも言えばいいのか、全体を通じた心地よいアレンジと絶妙なレイドバックが印象的なギターが秀逸だ。それもそのはず、共演者にYutaka Yokokuraの名前が! 筆者2024年度No.1ヘビロテに輝くこの曲、ストリーミングで楽しめるので是非。