その殺人は正義か悪か?42人を殺した男と検事の対峙を通して描く、介護の厳しい現実
『ロストケア』(2023年・日本)
(配信:Amazon Prime Video / Netflix / U-NEXT / Hulu )

Blu-ray&DVD発売中
Blu-ray:6,490円(税込)DVD:4,290円(税込)
発売・販売:東映ビデオ
第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した葉真中顕の同名小説を、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『花まんま』などで知られる前田哲監督のメガホンで映画化。早朝の民家で発見された老人と訪問介護センター所長の死体。容疑者として挙げられたのは、仕事熱心で誰からも慕われる介護士・斯波宗典(松山ケンイチ)。彼が働く訪問介護センターで、決まった曜日に41名もの老人が死亡していることに気が付いた検事・大友秀美(長澤まさみ)。その事実を突きつけるも、自分がしたことは“殺人”ではなく“救い”、そして、その対象は42名であると斯波は答えるのであった……。
その経験をする人もいれば、その経験をしない人もいる。何事にも言えることではあるが、「介護」という観点で考えてみた時、あなたはどちらに当てはまるだろう。団塊世代が75歳以上となり、国民の5人に1人が後期高齢者となる「超高齢化社会」を迎えた2025年。出生率も低下を続けており、少子高齢化にもますます拍車がかかっている。そんな現代社会において、誰もが直面し得る介護の厳しい現実を映し出す本作。介護疲れなどが原因とされる親族間での殺人や無理心中事件は後を絶たず、潤沢な金があれば解決できることもあるが、誰もがそういった選択をできるとは限らない。つまりは、 自らがどの立場に立っているかによって、作品との向き合い方も大いに変わってくる。
無論、人を殺めることは罪であるが、時にそれが救いとなり得ることもあると思う。事件を巡る斯波と大友による問答、斯波の過去や大友の今を通して、あなたの心はさまざまな問いを投げかけられる。また、42人目の真実が明らかになった時、あなたの心は何を思うことだろう。万人共通の明確な答えを見出すことが難しい事柄に焦点を当てた力作です。
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ミヤザキタケル 1986年生まれ、長野県出身。2015年より「映画アドバイザー」として活動を始める。 宝島社sweetでの連載をはじめ、WEB、雑誌、ラジオなどで、心から推すことのできる映画を紹介。そのほか、イベント登壇、MC、映画祭審査員、BRUTUS「30 人のシネマコンシェルジュ」など、幅広く活動中。 |