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公開日 2006/10/04 14:53

ドキュメンタリー映画注目の秋 第1弾。連日盛況が続く家族を見つめる新作2作品と監督の言葉

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現在、東京の映画館ポレポレ東中野で、家族を扱った二つのドキュメンタリー作品が上映中だ。「両作品は、監督が自分の身近な家族の姿を撮影している」と聞いただけで、家族を写して映画か! と思った方。この二つの作品は、そう思ったあなたにも関係のある映画です。


映画「ありがとう」より 初詣をする奈緒ちゃん一家
ひとつは、ベテランドキュメンタリー監督伊勢真一の「ありがとう」。知的障害を持つ長女のいる実の姉の一家を25年以上にわたり撮影し続け、今回の映画では長女の奈緒ちゃんが2005年に32歳になり自立を目指して家を離れるまでを追っている。

子どもの親離れ、親の子離れ、青年の社会での自立、定年後の夫婦のあり方など、どの家庭でもおこることが奈緒ちゃん一家にもおこる。奈緒ちゃん、父母、弟、それぞれがこの事態にどう対処してゆくだろうか。

家族各々の繊細な心のゆれを追うカメラの視線は淡々としているが、もう二度とくり返せない家族のドラマを伝えている。「奈緒ちゃんがいて良かった」。家族や監督を含めた奈緒ちゃんの周りの人のいつわらざる心境だそうだ。伊勢監督は以下のように書いている。


著書「カントクのつぶやき」を手にする伊勢真一監督(2006.4.14 東京の試写会会場にて)
「『ありがとうって言って』が口グセの姪っ子の奈緒ちゃんの言葉をそのままもらってのタイトル『ありがとう』は、私が奈緒ちゃんに言いたいお礼の言葉でもあります。25年間も撮影させてもらってありがとう、と……
 クランクインは奈緒ちゃんが8才の冬、家族そろっての初詣のシーンでした。てんかんと知的障害を合わせ持つ奈緒ちゃんは、長くは生きられないのではないか、という両親やまわりの人達の心配をブッ飛ばして、薬の世話になりながら今も、元気一杯です。」(引用者略)

「『しあわせ』のカタチは似ているけど『不幸』のカタチはそれぞれに違う……というらしいけど、私は『しあわせ』のカタチはそれぞれに違うのだと言いたい。『不幸』と思い込むことよりも、ひとりひとりがそれぞれの『しあわせ』に気づくことが大切なのだと思う。」(伊勢真一監督HP より引用)
 

同じポレポレ東中野で同時期交互に上映されているのが新人監督山本起也(たつや)の「ツヒノスミカ」だ。

こちらは、実の祖母が住んでいた家の取り壊しの様子を中心に映画化。高年の祖母が周囲の人と交わす会話のユーモアや微妙な雰囲気。山間部にある祖母の実家や祖母と祖父が商売を興した商店のある市街地の商店街など、日本の地方都市の現在の姿も伝えている。谷川賢作の音楽が厳粛なテーマの映画に温かみを加えて心に残る。


映画「ツヒノスミカ」より
山本監督は作品について以下のように語っている。

「今回、私は何かに取り憑かれたかのように、どこにでもある出来事、だれにでもある時間、つまり“家の取り壊し”までを撮り続けた。私にとっての“家の取り壊し”は今しかない。それを逃したら、二度と“次”はやっては来ない。出来上がった映画が観客と対面する。その時、不思議なことが起こる。それぞれ全く違った過去を持ったひとりひとりが、自身にとっての記憶、例えば“家”にまつわる記憶であったり、“親”や“おばあちゃん”についての記憶だったり、どこか懐かしいものとの再会を果たすことになるようなのだ。」(ドキュメンタリー映画の最前線neoneo 66号より引用)

世代の異なる二人が自分の周囲の家族をみつめた二つの映画は地味だが、こういう時ってあるなあとか、そうか、他の人の家ではこうなのか、などの発見がたくさんある。興味本位というわけではなく、他の人の家族について、その人間関係や日常を知るということが、私たちにとって、とても大切なこともある。日本の普通の家族に起こるどこにでもある問題だからこそ、これを見せていただけることはありがたい。家族の姿を勇気をもって見せてくださった出演者や製作者の方々に感謝である。

どのような家族にもドラマがあり、年月を経て家族がどのように自立し、支えあっていくのかという問いがある。映画の家族の姿は、見る人それぞれ、自分のこととして感じられるだろう。
 
 
映画、上映会の詳細については下記を参照。各回入れ替だが、二つの映画を両方みる人には割り引きあり。また、連日、両映画ともに豪華なゲストのトークショーが予定されている。製作者、ゲストと直接語ることも可能だ。
作品と上映の詳細は以下を参照してほしい。

・伊勢真一監督HP http://www2.odn.ne.jp/ise-film/
・ポレポレ東中野 http://www.mmjp.or.jp/pole2/
  TEL:03-3371-0088

(取材・文:山之内優子)

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