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公開日 2008/01/04 16:46

【日仏監督インタビュー/日本編3】諏訪敦彦『不完全なふたり』撮影秘話

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諏訪敦彦(すわ のぶひろ):1960年広島市出身。東京造形大学教授。2007年フランス映画祭には『不完全なふたり』を出品。脚本のない、即興的な演出で知られる
諏訪監督へのインタビューは、ぴあフィルムフェスティバルのロバート・アルトマン監督作品特集上映後に行われた。

― 映画を本格的に撮るには、フィルムからスタッフを揃えて撮らないと映画にならないというのが映画の人にはあるんじゃないかと思ってたんですが、諏訪さんは、そういうことは、最初から感じなかったですか?

諏訪:うーん。僕はあんまり。むしろ、そういうことが嫌だった。映画の作法みたいな。映画を撮るにはこういう風にしなきゃいけない。映画はフィルムじゃなきゃいけない。脚本がなきゃいけない。そういう業界が持っている作法みたいなものは嫌だったですね。あの頃の映画ってその当時の映画が嫌だからやってるわけですよ。ああいう風にはなりたくないね。ああいう大人にはなりたくないねと思ってやってるんですよ。つまり日本映画を見ていて、日本映画に全然自分たちの見たい映画はない。こんなのうそだ。こんな映画は自分たちの映画じゃない、と思うから自分たちの映画を作る。それにとりこまれたくないわけですよ。それで、その一つの規範となるのがアメリカ映画だったりして、アメリカ映画はこんなに撮影しているじゃない、こんな照明でやっているじゃない、こんな脚本じゃないとか、いちいち、日本映画とは別のレファレンスとしてあって、そういう意味で、自分たちの映画は日本映画からは距離をおきたいという気持ちはあったと思いますよ。

― テーマを持ち続けるのは、大変ではなかったですか。

諏訪:今、僕の映画はインディペンデントでもあるけれど、商業映画でもあるしね。自分の金でやっているわけじゃないでしょう。あまり強く僕はインディペンデントなんだとおもっているわけじゃないですよ。ただ、比較すればあまり面倒くさいことはない。つまり、こういう役者を使ってくれとか、こういう話じゃないといけない、この脚本家を使えとかそういう制約の中でやっているわけではないんで。

日本インディペンデントの世界にいたのは、80年代ですよ。『2/DUO』 っていうのは97年で、だから随分時代がちがうよね。だから、ずっと映画をやり続けていたわけではないっていうところがあって、TVやったり、PR映画やったり、そういうことを続けていたんですよね。そこからふっと95年ぐらいに、友達からもう一辺、映画やってみないといわれ、そこからもう一度映画をやることになったという。

― それまでは映画を諦めていたというか?

諏訪:諦めていたというより、それまでは、目の前の仕事を一生懸命やっていただけですよ。TVのドキュメンタリーも楽しかったし。最初は助監督も楽しかったし。何が何でも映画をやっていようと思っていたわけではない。ただ、どこにいても自分の居場所はないという感じはあったんですよ。つまり、ドキュメンタリーの業界にいくと、こいつはフィクションから来た奴だといわれるし、『2/DUO』なんか撮っちゃうと、こいつは映画の人間じゃないからと思われちゃうの。『2/DUO』って、変な映画じゃない。映画界の作法にそぐわないところがあるわけじゃない。脚本がないとか。役者のインタビューが入っているとか、そういう変なことをするのは、こいつがドキュメンタリーから来たからだと思われちゃう訳ですよ。それでドキュメンタリーやっているときは、フィクションから来た奴だという感じで、いつもどっちにいてもどっちつかずに見られて、今は、フランスと日本の間にいるみたいな感じで、結局どっちから見ても外国映画にみられるみたいな感じで。そういう感じがずっとあるのね。

― 『2/DUO』以来、二人の男女の映画を順調に撮られているようですがそれは計画されていますか?

諏訪:計画っていうのは別にないよね。一本、一本大事に撮っているだけで。そんな計画は考えられないですよ。次1本撮るだけで精一杯で。『2/DUO』は興行的には全然成功していなくて、東京での公開はレイトショーで2週間で終わりですよ。だからほとんどの人は公開当時みていない。フランスでも成功しなかった。それで、興行的に成功しなければ次は撮れない訳ですよ。

― キャロリーヌ・シャンプチエは『H STORY』は気に入ってたんですね。

諏訪:そう、彼女は自分の仕事の中でもベストの1本って言ってくれてるから。そういう意味でのコアな理解者はいたし、フランスでも、大きなメディア、新聞、雑誌は、積極的に応援してくれたんだけれども、日本ではほとんど無視というか、ほとんど書かれていないと思います。存在しなかったような形になっていて。それで日本に撮り続けるのは難しいなという認識はあったんです。

― それでフランスに?

諏訪:フランスに言ったのは、とにかく日本を出てどこか行きたかったんです。文化庁の在外研修という形でフランスに行くことになったのは、とにかくサバイバルで生きるために。日本には自分の映画が理解される環境っていうのは、もうないという感じもありました。『H STORY』が2000年の撮影で、『不完全なふたり』が二人は2004年の撮影なんで、4年は映画を撮っていないです。でも映画を何年も撮れなくなる状況なんて当たり前なんで、そういう意味ではまだ、僕は恵まれているなと思うけれどね。


― 諏訪さんの撮影では、男女二人の役者がディスカッションをしながら、自発的に演技をしながら撮るということですが、役者がちがうと全然ちがう展開になり得るんですか。それとも、諏訪さんの意図のもとに、この台詞はちがうとやりなおしてもらったりしますか?

諏訪:しない。だから、相手が変われば変わりますね。僕にもしイメージがあって、そのイメージのようにいてもらいたいなら、やはり脚本を書くべきなんです。それで指示をすべき。そのことで僕が責任を追うっていうことになるわけですね。だけど、今回はヴァレリアと会うところから始まって、どんな話にしようか、どんな映画にしようかって、だんだんできてくる訳で、人間って、出会うことによってお互いに変化するわけで、はじめからキャスティングというと、制作者があるイメージを持って、そこにある役者をあてはめていくような感じがあるかもしれないけれど、僕の場合、そういうことをしたいから映画をやっているわけではなくて、その人がどんな人なのだろうとか、何を考えているのだろうということを経験することで、自分も変わっていく訳ですね。そういうものを映画の中にとりいれたいというか、そういうことが映画の中で見えてくるのが自分にとって面白いのね。そういう意味では、映画を撮る事は自分にとってドキュメンタリーの要素が強いわけです。

つまり、これは、決定的にちがうのは、形式的に、ドキュメンタリーでも、フィクションでもいいのだが、描こうとしている作品世界というのがあって、それを、自分が知っているから描いていると言うふうに考えるのか、その世界を知らないからやろうとするのか、動機が全く二つちがうと思うんです。僕は知らないからキャメラを向けたいんです。この人は何を考えているのだろうとか、どんな人だろうとか。その人じゃなくても、人間って何なんだろうとか。そういうことを知らないからキャメラを向けるわけです。ドキュメンタリーを撮るときも、今、インタビューするときもそうでしょう。それを知らないから、知ろうとしてカメラを向けたり、マイクを向けたりするわけですよね。僕にとっては、映画っていうのは、そういうもののひとつのメディアなんですよね。自分が思い描いた世界をここに描きたいわけじゃないんです。だからキャメラが適しているわけです。キャメラというのは、そのまま撮ってくれるわけです。

― 諏訪さんの考えているキャメラの方法論って、そこにキャメラがあると真実が見えるという、ジガヴェルトフのキャメラの真実みたいなところとか、ありますか?

諏訪:何かこう、響きあうところはあるんじゃないんですかね。ただ、キャメラを置けば真実が見えるなんてことは、絶対あり得ない。一方で。真実が映るわけではないという面も両方あるわけです。常に。だから、こういう形式になっていくわけです。映画っていう形式、僕の場合、フィクションっていう形式になっていく。単にキャメラを置いていれば一方的に映るっていう面もあると同時に、何も映らないという面も、両方あるんだよね。

― 『不完全なふたり』で、マリーが延々としゃべるところは、ヴァレリアが、その場で即興的にしゃべっているんですか?

諏訪:全編そうです。

― カットって、いつ言うかって、諏訪さんはどうやって決めるんですか?

諏訪:大体決着ついたなと思ったら切りますね。マリーがずっとしゃべるところをスリリングと見てくれる人もいるし、退屈だと見る人もいますね。その時間の形式というのは、通常の映画だと、コントロールされて、重要なことだけが再構成されていくんだけれど、僕の映画では、そういう意味ではいろんな要素がそこに入ってきて、それが延々と続くわけですから、そのことを面白いと思う人も、つまらないと思う人もいるでしょうね。

― シャンプティエのカメラの切り取り方は古典的な感覚を感じますが。

諏訪:そういう面を持っています。かなり明快ですし。ただ明快だけれども、映画を非常によくわかっているから、そこに全部を囲い込んでしまうわけではないんだな。そこから人物がふーっと出て行ったりという、外の空間にすっと広がっていくという現実に対する完成があるんですね。そこに閉じ込めてしまわないという。

それはやっぱりね。ヌーヴェル・ヴァーグの伝統だと思うよ。ヌーヴェル・ヴァーグの連中の考えているフレームというのは、マスクなんですよ。これは伝統的にはっきりしているんだけれど。フレームというのは、絵画の場合はカドラージュで囲い込む画面構成で、その外側はないのよ。これは日本のスタジオシステムはそうですけれど、フレームを切ったら、その中にいろんなものを構成していくわけです。でも、ヌーヴェル・ヴァーグの連中の考え方というのはフレームというのは窓なんだと。窓なんだから、その外側もずっと続いているんだと。たまたま何かが隠されているだけで、その外側というのがあることを常に意識している。だからキャロリーヌがすごく厳格なフレームであると同時に、その外側というのを常に持っている。それで田村さんの場合は、それを意識化されないようにされないように、ずっとずらしている訳ですよ。それで、中心がない映像にしたいわけですよ。

― 『不完全なふたり』では人がフレームから出ていった後も画面が空間を追っていたりします。

諏訪:それは共犯的なところがあって、編集者がそこで切る可能性がある。でも、僕はそれは残したいわけですよね。それは、その時に初めて想像力が動いていく訳ですよ。見えなくなったときに、映画っていうのは、みんなそうやって見ているんですよ。実は。二人が見つめ合っているときは、僕たちはその外側は意識しない訳ですよ。だけど、こちらの人物がふと画面から消えてしまって、ここでフレームが消えてしまったら、観客は、もう一人の人が見ている事実は知りながら、何を見ているか知らないわけです。だからそこで何を見ているんだろうという意識が、フレームの外側に開かれていく。こちらの人物が戻ってきたらまた閉じてしまう。そういう運動というのを常に繰り返しているわけです。外に出て行って消えてしまった。でも見えない。だからぱっとカットを割った瞬間に、その見えなかったものをぱっと埋めてくれるわけです。

ショットを編集していくということは、そういうことを利用しているわけです。僕たちは、そういうイメージの映像と、見えている映像のダイアローク、対話みたいなことを常に行っているわけです。映画を見る人はね。それがないと映画ってつながらないの。意識していないんだけれど、小さい子供でも、そうやって映画を見ているんです。だから常に想像力、外側、内側、見えているものと、見えていない物との関係が映画を息づかせているわけですね。

― 今回は、大変長時間に渡り、映画作りについてお話いただき、ありがとうございました。

(インタビューと文/山之内優子 諏訪監督ポートレイト撮影/丸谷 肇)

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