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公開日 2015/01/07 11:58

【CES】ソニー平井社長が語る「変わり始めたソニー」。スピードとチャレンジで“感動”生み出す製品を

CESの出展内容にも手応え
山本 敦
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ソニーの平井一夫氏による日本人記者向けのラウンドテーブルが開催された
2015 International CESの本開催初日となる1月6日、ソニーの平井一夫社長による邦人記者を対象としたラウンドテーブルが開催された。

平井氏はCESの同社出展内容について、ソニー独自のプロセッサー「X1」を搭載した液晶テレビ“BRAVIA”シリーズに、ハイレゾオーディオの新商品のラインナップなど、コンシューマ商品のイノベーションを着実に示す商品が発表できたとコメントした。

CESの開幕初日に賑わうソニーブース

ソニーのイノベーションを示すかたちの一つとして、昨年のCESで発表した、生活空間を活用する「Life Space UX」コンセプトに引き続き注力する。今回は音と光で部屋の中を満たす“シンフォニックライト”というコンセプトを、特設リビングスペースで参考展示している。

プレスカンファレンスの壇上でスピーチする平井氏

「Life Space UX」の新しいコンセプトモデル“シンフォニックライト”

4K短焦点プロジェクター(関連ニュース)は今回も展示しているが、昨年9月からアメリカ市場に導入が始まっている。平井氏は日本市場への導入時期について「今年度中には発売したい」と述べた。発売時期と価格については正式発表を待ちたい。

平井氏は改めてCES出展の手応えについてこう語った。「ソニーの商品コンセプトは私が就任以来繰り返し伝えてきた、お客様の好奇心を刺激して“感動”をもたらすというもの。それをバックアップするような商品・サービス・コンテンツをお届けする会社でありたいという強い思いを込めた商品を、今回のCESに向けて揃えた。実際の商品を手にとって、音のすばらしさ、映像の美しさを体験して欲しい」

以下、平井氏が記者の質問に対して応えた内容について一問一答形式で紹介する。

ー 「Life Space UX」のコンセプトが今回のCESではとてもわかりやすく展示されている。昨年に比べてアイテム数も増えて活気づいてきた印象を受ける。オーディオではハイレゾに力を入れているが、それぞれ今年の展開はどうなるのか。

平井氏:昨年に引き続き4K短焦点プロジェクターを出展したが、本機はアメリカで発売できた。限られた人数でやっているプロジェクトなので、いっぺんに多くの商品を出すのは難しいが、今回展示したような製品は昔からコンセプトとして温めてきたものだ。4K短焦点プロジェクターが落ち着いたので、ますます商品展開が広げられそうな期待感がある。

「シーリングプロジェクター」は今回のCESで初めてベッドを置いた特設スペースに設置し、天井に映像を映し出してみたが、思った以上に手応えを感じている。寝る前に映画やテレビを鑑賞するという、新しい楽しみ方を提案できそうだ。

「Life Space UX」の中の一つのコンセプトモデルとなる「シーリングプロジェクター」

Life Space UXの関連製品は多数ある、と平井CEOは語っていた

オーディオはソニーの原点。ハイレゾはコンテンツ、ハードともに力強くドライブしていきたいという、個人的に思い入れも強い分野。ウォークマンの最上位「NW-ZX1」を出して、お客様のハイレゾへの反応がとても良いことを実感した。去年は入門機のAシリーズも手頃な価格で投入したが、ハイレゾが様々な客層に広がりつつあることが見えてきた。ヘッドホンやスピーカーなど、ハイレゾ対応の機器を揃えながらハイレゾの世界を色々な場面に広げられるよう積極的に展開したい。

北米初のハイレゾ対応ウォークマン高級機となる「NW-ZX2」

ー 以前からソニーのイメージング技術を様々な分野に応用するという戦略を表明されてきて、今回はオートモーティブへの展開がカンファレンスで紹介された。こちらは実際に進行しているプロジェクトなのか、あるいは単なるコンセプトなのか。車以外の展開もあり得るのか。

平井氏:自動車についてはリアカメラなど色々なメーカーに商品やデバイスとして納品してきた実績がある。カンファレンスで発表したものは、次の自動車産業にソニーが参入していくための一つの方向性。実際に名前を挙げることは控えたいが、現在様々なパートナーと議論しているところ。イメージセンサーの展開方法は様々だが、デジタルカメラと車とでは使用時の要求が違うはずだ。自動車メーカーの皆様とも議論を重ねながら、車への応用を広げていきたい。長期的な視野でじっくりと丁寧に可能性を探りながら参入していくことが大事だ。将来は台数も出るし、大きなBtoBビジネスに育つと期待している。

ー 「Life Space UX」や色々なガジェットなど、小さいチームで素速く展開する技術開発も含めて色々な商品を開発していくという考えを昨年から示しているが、実際に商品化される件数はまだそれほど多くない。その積み重ねがソニーのエレクトロニクスの復活にとって大事であるということだと思うが、商品としてかたちにして市場に問いかけ、そのフィードバックを得ていくというスピード感について、現状をどう考察するか。

平井氏:スマートロック「Qrio(キュリオ)」は“SAP(Seed Acceleration Program)”という、新しいビジネスを社内で創出するプロジェクトの一貫。第一弾はソニー不動産だった。

特にQrioに関してはビジネスと商品のコンセプトを含めて、こんなに速く回せるのかというほど短期間でプロトタイプをつくり、ビジネスモデルを構築、会社を立ち上げてきた。その間わずか7ヶ月でやり遂げたプロジェクトは、近年のソニーとしては稀に見る速さ。シリコンバレーのベンチャー企業から見ればまだまだ遅いのかもしれないが、ソニーとして見るならば、いよいよスピード感が出てきたと実感している。

Life Style UXやスマートロックなどのプロジェクトがすぐに経営のボトムラインに貢献するとは思わないが、これまでは余りにチャレンジを避けてきたという反省もある。安全な方向ばかりを採ると企業は伸びない。次につながる種を蒔くことが大事。プロダクトデザイナーが持っている夢などをすくい上げて、ビジネスに発展させていく仕組みを作る必要もある。その中から次のソニーの軸になっていく商品カテゴリーができると私は思っている。

このような夢を社員には共有して欲しいし、そういう場を持ちたい。特にSAPに関して言えば、CESなど展示機会を含めてアイデアのかたちを外に向けで発信していくことが効果的であることも見えてきた。

ー 今年のCESの展示全体を見てもスタートアップ系の企業が増えている印象だが、大手企業がそこに絡みながら革新を生み出すのも難しくなっているとも言われつつある。傾向をどう受け止めている。

平井氏:これまでは特にソニーがそうだったのかもしれないが、コンセプトからプロトタイプの制作、マーケティングから商品のポジショニングまで全部1社単独で完結して行うというやり方が現状に即していない面もある。むしろ今は外部のナレッジを上手に活用することが重要ではないだろうか。

当社のSAPのプロジェクトでも外部の方々の知見が流れ込むよう、例えば評価委員など外部関係者にも参加いただいている。彼らに指摘をいただいてスピード感も出てくる。良い意味で外からの空気や知見を、社内の技術的資産と上手に組み合わせればビジネスに大きな広がりが生まれる。ビジネスの形態によっては別途会社を立ち上げて、そこに経営のリソースは与えながらも、小さな会社でなるべく独立してまわしていくことも推進してきた。

SAPで言えば、現在は6つほど、全く種類の異なるプロジェクトが動いている。内容は今後適切なタイミングで発表するが、同時進行で年に複数のプロジェクトが動いている。もともと300以上のアイデアがあって、何回かのプロセスで絞り込んで6つ残っている。狭き門だ。いったんアイデアがリジェクトされた後に、次の公募には全く新しいアイデアを持ってくるパワーに満ちた社員もいた。SAPを通じてソニーには熱い社員が大勢いることを知り、頼もしく感じている。

ー 先般ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(SPE)のサーバーがハッキングを受けた関連で、ソニーのコーポレートガバナンスの仕組みについて改めて問いたい。最初に配給が見送られ、直後に再開が決まった経緯についてはどうか。

平井氏:最初に攻撃を受けた際、私は偶然アメリカに滞在しており、そこで第一報を受けた。以後、米SPEと連携を取りながら、毎日最新状況のアップデート報告を受けて事態に対処してきた。外部に対するコミュニケーションについてはSPEにフロントエンドの対応を任せていたが、バックでは私がしっかりと指揮を執っていた。

映画の公開がキャンセルされるという事態については、SPEとしては粛々と公開準備を進めてていたが、4大メジャーの劇場から公開を見送りたいという申し出を受けたために起こった出来事。その後、SPEは12月25日に決まっていた劇場公開を見送らざるを得ないという発表をした。決して、以後二度と公開しないという話ではそもそもなかったのだが、次第に話が大きく膨らんでしまった。結果として25日に公開できたわけだが、その期間はSPEからの連絡を受けて、最終的な意志決定は私が行っていた。ソニー本社でも本件の対策チームをつくって、それぞれのカウンターパートが綿密に連絡を取り合いながら事態に対処してきた。

これはFBIが後に出したコメントだが、今回のサイバー攻撃はかなりレベルの高いもので、アメリカでならばもしも他社が同じアタックを受けたら9割が同じ結果になるだろうとされたほど。これまで当社が経験してきたものとは全くレベルの異なるサイバー攻撃であると認識している。

ー カンファレンスでは未来の成長に向けた発言もあったが、その大前提として今年度中に新しい中期計画が発表され、次年度への道筋を付ける必要があるのではないか。次年度以降も覚悟をもって道筋を付けていくのか。エレキ事業の今後の位置付けについては、どのように再定義していくのか考え方を聞きたい。

平井氏:今年度の3月末で私がソニーの社長に就任して3年になるが、その間に出来たことと、出来なかったことそれぞれに色々ある。現状としては会社を回復基調に持ってきて、成長を新たなフェーズに向けるところまで辿り着いた。ここからがソニーらしさが問われる所で、エレクトロニクスに関して一段とソニーらしくなっていく段階だと認識している。ただこれは決して最終的なゴールではない。お客様に感動してもらえる商品にもっと力を入れたいし、もっと時間を割くべきだ。

先日国内で開催したIRデーの際にも説明したが、当社にとってエレクトロニクスは金融とエンターテインメントの二つの柱とともに重要な事業。各分野でビジネスのドライブの仕方は変わってくるが、総じて言えばエレクトロニクスはビックピクチャーで言えばこれからもソニーにとって重要なビジネスだ。

ー ソニーモバイルは社長が交代するなど人事異動もあったが、これから“Xperiaらしさ”はどうなる。

平井氏:どこに“Xperiaらしさ”を求めるかによって答えは変わってくるところだ。ソニーが持っている様々な資産を良い形で融合させながら、素晴らしいデザインとUXを届けることが“Xperiaらしさ”であると、私なりに定義させてもらうのであれば、これはソニーがエレクトロニクスビジネスを続けて行く限りは色々なビジネスの革新が生まれる。それらをモバイルにも余すところなく注入していくことは続けて行かなければならないと思う。この考え方はマネージメントが変わっても、一番根本にある“ソニーのスマホとは?”という所になるので、安易に路線を変更すべきではない。

また今回の展示でもウェアラブル関係の製品をスマホ連動で楽しんでもらうという、世界観の広がりを見せている。このあたりも今後、ソニーのポータブルエンターテインメントの“らしさ”を追求していく上で重要だと認識している。

ー 日本国内では格安スマホブームだが、XperiaでSIMフリー端末は手がけるのか。

平井氏:バイオは別会社なので、先方の経営判断になる。

ー パナソニックはプレスカンファレンスで4Kブルーレイを発表したが、光ディスクに限らず入れ物である記憶媒体が今後5年、10年のスパンでどう変化していくかビジョンをうかがいたい。

平井氏:実際に当社が4Kブルーレイのソフトを出すかは別の議論だと思うが、私はオンラインではない記録媒体を前提としたコンテンツが市場として大きくなっていくとは思っていない。ただ、メディアを介して楽しむプリレコーレコーデッドコンテンツは、市場によってはかなり長続きすると見ている。

日本で言えば、CDのセールスが減少していると言われる中で、アーティストによってはベスト盤を出せばCDの売上が少し増加するという動きもあった。ディスクなど実物を所有したり、ショップでジャケットを見ながら検索するという行為も一つのエンターテインメントだと私は考える。それがいきなり全てダウンロードに取って代わられるとは思わない。利便性の観点からはオンラインの方が格段に高いものの、CDをはじめとする録音盤コンテンツの市場はまだ大きいと思っている。

ー 今年のCESでXperiaの新商品が発表されなかった理由は。その分フォーカスが当てられているウェアラブルやIoTについてコンセプトをうかがいたい。

平井氏:一つはXperia Z3V(北米大手キャリアのベライゾン用モデル)が発売された矢先なので、新商品を発表しづらい部分もあった。今後はXperiaの一部としてウェアラブルを位置づけて展開していくこともしたい。ブラビアのAndroid対応に伴い、モバイル連携の部分も強調したつもり。マネージメントが変わったから意図的に話す量を減らしたということはない。

フラグシップのあり方については社内で議論している。フラグシップには新しい技術やサービスが搭載されていることが前提。上手い形で回れば商品サイクルは柔軟に対応できると思う。必ず年に2回リリースする必要はないと考えるし、あとはキャリアと相談しながら決めていきたい。

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