公開日 2009/10/01 18:14
低周波を確実に除去する画期的な吸音材! 昭和電線DTの「クワイセントパネル」
井上千岳氏が試聴レポート
低周波除去の研究で最先端の技術力を持つ昭和電線デバイステクノロジー社がオーディオファンに向けて吸音パネルを発売している。膜振動による吸音原理を使うことで薄型でも低周波吸音が確実にできるという画期的な吸音材で、定在波対策にも有効な製品であるといえる。
■昭和電線デバイステクノロジー社とは?
社会インフラに貢献してきた信頼性高い技術力を応用
昭和電線はいわずと知れた電線の大手メーカーである。3年前からホールディングス化され、そのグループの中で昭和電線デバイステクノロジー株式会社は、非電線部門を受け持っている。
現在最も大きな事業は、コピー機など事務機器の定着用ローラー部品だという。ゴムのラミネート接着技術を活用したものだそうだが、電線とゴムはイメージの上で結びつきにくい。しかし元を正せば電線にはゴムや樹脂が多層で使われているわけで、その高い接着技術や耐久性も電線から来ているのだという。
またそのゴムに関する技術を応用して、建築用の免震は一番の老舗である。これが二番目の事業だ。
ここまで来ると制振との関係が見えてくる。7年前から音に着目し、吸音技術の開発・応用に踏み出した。特に低周波除去の研究では特許を持ち、制振から制音テクノロジーへと発想を広げている。
クワイセントはこうした制音テクノロジーに対して与えられたブランドである。すでにスタジオやコンサートホール、建築物などはもちろん、意外なところでは半導体製造検査装置などのナノテク機器にも欠かせないのだという。その性能・機能を満たすための振動対策はもとより環境騒音対策の重要性が増してきており、独自の低周波吸音材や制振材が活用されている。
その素材や製品形態は多岐にわたり、吸音材、防振ゴム、制振・遮音材などさまざまな形で応用されている。ビルや街中を見回してみると、至るところにこれらの製品が使用されているのを見ることができるはずで、表立って目につくことはないが、社会インフラへの貢献という点で高い信頼性を感じる。
クワイセントというのはこのようなテクノロジーブランドだが、これをオーディオに応用したのがここで紹介するクワイセントパネルである。
■画期的な吸音原理
定在波も吸収! 「膜振動」原理の威力
従来の吸音材はグラスウールなど素材の特性に頼っていた部分が大きい。しかしそれだと効果の及ぶ周波数に限界があるし、また吸音しきれなかった音が反射して固有の音色を作ることもわかっている。このため吸音ではなく拡散という考え方も最近では広がってきた。ただ拡散だけで本当に定在波など有害反射の除去が可能なのか、定量的に効果が測定された例はあまりないようである。
クワイセントパネルは、これまでとはまったく違う原理に基づいている。特殊な吸音皮膜を多孔質体に積層し、音波をこの膜の振動に変換することで吸音を行う。すでに特許も出願し、建物や産業機器などに広く実用化されている。
この原理をオーディオ用に特化して作られたのが、SQR25とSQ25R50だ。SQR25は厚さ3cm、SQ25R50は厚さ8cmのパネルである。
クワイセントパネルの最大の特徴は、従来吸音の難しかった低域反射を効果的に吸収することができるという点である。グラスウールのような多孔質の場合、低域の波長は長いので、よほど厚くしないと吸音効果は働かない。しかしこれを膜で受け止めれば、音波を逃がすことなく効率的に解消することができる。これがクワイセントパネルの原理である。
SQR25は特に300Hz付近にポイントを定めた設計で、300〜400Hzの不要反射に狙いをつけて吸音する。もうひとつのSQ25R50は広帯域型で、200〜2kHzの広い範囲の吸音を行う。構造や厚みの違いである。
■音元出版にて試聴
フラッターエコーが消え、音の質感と音程が明瞭になった
調音を施していない本誌ユーティリティールームで実際に使ってみた結果では、かなり強力な定在波をはっきり効果がわかる程度にまで吸収し、音の輪郭が明瞭になって生き生きとした再現性が得られた。特に中・低域でのもやもやした濁りが消え、音の質感と音程が明確になる。そして音に色がつかないことも特徴といえる。
定在波の立ちやすいコーナーなどにSQR25を置いて低域を抑え、サイドの壁面やスピーカーの対向面はSQ25R50で広帯域に吸音すれば、非常に条件の悪い室内でもリスニング環境として満足のゆく状況を実現することができる。
クワイセントパネルの特徴はそれだけではない。構造が極めてシンプルなため、どのようにでも発展・応用が利くこともひとつだ。また形状もサイズも自由だから、どんな需要にも応じられるし、また無駄がない。素材が軽量なので、天井などに使うことも不可能ではなさそうだ。
今回発売された2モデルは、木枠に収めたパネル型。これ以外にも製品開発のアイデアは様々にあるようで(半分の大きさのものを検討中。写真参照)、今後の展開が楽しみである。類のない吸音効果を持つクワイセントパネルが、オーディオ環境を劇的に変えることになりそうだ。
井上千岳
東京都大田区出身。慶應大学法学部・大学院修了。有名オーディオメーカーの勤務を経て、翻訳(英語)・オーディオ評論をはじめる。神奈川県葉山に構える自宅視聴室でのシビアな評論活動を展開、ハイエンドオーディオはもちろん高級オーディオケーブルなどの評価も定評がある。趣味は5歳より始めたピアノで、本格的な演奏を楽しむ。ほかに、登山をたしなみ、鮮魚料理(いわし)、日本酒にも目がない。
■昭和電線デバイステクノロジー社とは?
社会インフラに貢献してきた信頼性高い技術力を応用
昭和電線はいわずと知れた電線の大手メーカーである。3年前からホールディングス化され、そのグループの中で昭和電線デバイステクノロジー株式会社は、非電線部門を受け持っている。
現在最も大きな事業は、コピー機など事務機器の定着用ローラー部品だという。ゴムのラミネート接着技術を活用したものだそうだが、電線とゴムはイメージの上で結びつきにくい。しかし元を正せば電線にはゴムや樹脂が多層で使われているわけで、その高い接着技術や耐久性も電線から来ているのだという。
またそのゴムに関する技術を応用して、建築用の免震は一番の老舗である。これが二番目の事業だ。
ここまで来ると制振との関係が見えてくる。7年前から音に着目し、吸音技術の開発・応用に踏み出した。特に低周波除去の研究では特許を持ち、制振から制音テクノロジーへと発想を広げている。
クワイセントはこうした制音テクノロジーに対して与えられたブランドである。すでにスタジオやコンサートホール、建築物などはもちろん、意外なところでは半導体製造検査装置などのナノテク機器にも欠かせないのだという。その性能・機能を満たすための振動対策はもとより環境騒音対策の重要性が増してきており、独自の低周波吸音材や制振材が活用されている。
その素材や製品形態は多岐にわたり、吸音材、防振ゴム、制振・遮音材などさまざまな形で応用されている。ビルや街中を見回してみると、至るところにこれらの製品が使用されているのを見ることができるはずで、表立って目につくことはないが、社会インフラへの貢献という点で高い信頼性を感じる。
クワイセントというのはこのようなテクノロジーブランドだが、これをオーディオに応用したのがここで紹介するクワイセントパネルである。
■画期的な吸音原理
定在波も吸収! 「膜振動」原理の威力
従来の吸音材はグラスウールなど素材の特性に頼っていた部分が大きい。しかしそれだと効果の及ぶ周波数に限界があるし、また吸音しきれなかった音が反射して固有の音色を作ることもわかっている。このため吸音ではなく拡散という考え方も最近では広がってきた。ただ拡散だけで本当に定在波など有害反射の除去が可能なのか、定量的に効果が測定された例はあまりないようである。
クワイセントパネルは、これまでとはまったく違う原理に基づいている。特殊な吸音皮膜を多孔質体に積層し、音波をこの膜の振動に変換することで吸音を行う。すでに特許も出願し、建物や産業機器などに広く実用化されている。
この原理をオーディオ用に特化して作られたのが、SQR25とSQ25R50だ。SQR25は厚さ3cm、SQ25R50は厚さ8cmのパネルである。
クワイセントパネルの最大の特徴は、従来吸音の難しかった低域反射を効果的に吸収することができるという点である。グラスウールのような多孔質の場合、低域の波長は長いので、よほど厚くしないと吸音効果は働かない。しかしこれを膜で受け止めれば、音波を逃がすことなく効率的に解消することができる。これがクワイセントパネルの原理である。
SQR25は特に300Hz付近にポイントを定めた設計で、300〜400Hzの不要反射に狙いをつけて吸音する。もうひとつのSQ25R50は広帯域型で、200〜2kHzの広い範囲の吸音を行う。構造や厚みの違いである。
■音元出版にて試聴
フラッターエコーが消え、音の質感と音程が明瞭になった
調音を施していない本誌ユーティリティールームで実際に使ってみた結果では、かなり強力な定在波をはっきり効果がわかる程度にまで吸収し、音の輪郭が明瞭になって生き生きとした再現性が得られた。特に中・低域でのもやもやした濁りが消え、音の質感と音程が明確になる。そして音に色がつかないことも特徴といえる。
定在波の立ちやすいコーナーなどにSQR25を置いて低域を抑え、サイドの壁面やスピーカーの対向面はSQ25R50で広帯域に吸音すれば、非常に条件の悪い室内でもリスニング環境として満足のゆく状況を実現することができる。
クワイセントパネルの特徴はそれだけではない。構造が極めてシンプルなため、どのようにでも発展・応用が利くこともひとつだ。また形状もサイズも自由だから、どんな需要にも応じられるし、また無駄がない。素材が軽量なので、天井などに使うことも不可能ではなさそうだ。
今回発売された2モデルは、木枠に収めたパネル型。これ以外にも製品開発のアイデアは様々にあるようで(半分の大きさのものを検討中。写真参照)、今後の展開が楽しみである。類のない吸音効果を持つクワイセントパネルが、オーディオ環境を劇的に変えることになりそうだ。
東京都大田区出身。慶應大学法学部・大学院修了。有名オーディオメーカーの勤務を経て、翻訳(英語)・オーディオ評論をはじめる。神奈川県葉山に構える自宅視聴室でのシビアな評論活動を展開、ハイエンドオーディオはもちろん高級オーディオケーブルなどの評価も定評がある。趣味は5歳より始めたピアノで、本格的な演奏を楽しむ。ほかに、登山をたしなみ、鮮魚料理(いわし)、日本酒にも目がない。