公開日 2013/06/18 10:39
パイオニア「SC-LX57」レビュー − BDからDSDまで鳴らしきる進化したAVアンプ
進化した「ダイレクトエナジーHDアンプ」や、ESS製DACを採用した新AVアンプ「SC-LX57」が登場した。先進機能を備えつつ音質向上も図った新モデルを山之内 正が早速レポートする。
進化するクラスDアンプ。ESS製DACも新搭載
多チャンネルのアンプ回路を限られた容積に収めることがAVアンプ最大の制約であることはいまも変わらず、音質や出力にそのしわ寄せがくることが大きな課題になっている。そんな制約から解放する有力な手法の一つがデジタルアンプの導入で、優れた設計の素子や回路を選べば音質、出力、効率すべての要素で既存アナログアンプを上回る可能性が高い。
それを実証した技術の筆頭がパイオニアの「ダイレクトエナジーHDアンプ」である。2008年にフラグシップ機SC-LX90に導入して驚異的な同時多ch出力を達成。さらにIR社のデバイスを採用した2011年以降は音質面でさらなる向上を果たすなど、着実な進化を続けている。SC-LX57はIRのダイレクトパワーFETを積む3世代目に相当し、スピーカー駆動能力を改善したことがポイントだ。
心臓部のDACにESS製のSABRE32 Ultra DACを新たに導入したことも注目に値する。低ジッターでS/Nの良い再生音が高く評価され、採用例が急速に増えているが、パイオニアはプリメインアンプA-70に先行して採用した実績があり、使いこなしのノウハウには一日の長があるはずだ。
ネットオーディオ関連機能では対応フォーマットの多様さなどでパイオニアのAVアンプが最先端を切り開いてきた感があるが、ここにきて再び大きな進化を遂げた。まずはUSB-A端子経由でのDSDファイル再生は、PCM変換に加えて変換なしのネイティブ再生にも対応。新たにAIFFとALACの各データもデコードできるようになった。さらにDLNAとUSBの両方でギャップレス再生に対応するなど、ネットオーディオ専用機に匹敵する柔軟かつ高度な仕様を獲得している。
iPadにも対応する操作アプリ「iControlAV2013」のリスト表示機能が見やすく改善されたことで操作面の不満も一気に解消し、ファイル再生の使い勝手は大きく向上している。
DSDネイティブ再生は生々しいピュアサウンド
AVアンプの基本性能を左右する重要な要素の一つがS/Nであり、特に静寂感の再現性は音楽、映画いずれにおいても決定的な役割を演じる。SC-LX57はアナログ/デジタルどちらの入力も静寂感を引き出す能力が高く、余韻が消える瞬間まで密度の高い空気を感じ取ることができた。ピリオド楽器で演奏したヘンデルのオルガン協奏曲ではオケの低弦とオルガンの音域が重なってもそれぞれの動きを明瞭に描き分け、曲に備わる躍動感を見事に再現。厚い響きの中にバイオリンの旋律が埋没することもなく、輪郭をしっかり描き出すことにも感心した。
マーティン・テイラーのギターを聴くと、スムーズな音の立ち上がりとリズムの切れの良さが両立し、スチール弦の澄んだ音色がステレオ音場に広がる。その瑞々しい感触はまさにこの演奏の聴かせどころで、本機はその魅力をストレートに聴き手に伝えてくる。
本機のピュアダイレクトモードをオンにした状態では、USBメモリーに保存したDSD音源をPCMに変換せず、そのままデコードして再生することができる。変換プロセスが介在しないのでDSD録音本来の生々しさがあり、ディスク再生とは一線を画す鮮度の高さが実感できる。5.6MHz音源のなかでは、「NAMA」の付帯音が一切乗らないピュアなサウンドに強い印象を受けた。
マルチchは余裕のパワーと精密な空間再現で他を圧倒
音楽ソースで本機の透明感の高い音調を確認したが、サラウンド音場も見通しが良く、効果音と音楽のセパレーションの高さは群を抜く。『トータル・リコール』はどの場面も音数が多く、情報があふれている印象を受けるが、本機で聴くと一つひとつの効果音の音色の違いがよくわかり、素材感や音源の方向を正確に再現していることがわかる。音が塊にならず、映像のスピード感に同期したテンションの高いサウンドが展開するのだ。サウンドエフェクトにこだわった作品ほど、アンプの実力が自然に浮かび上がってくるものだが、『トータル・リコール』と本機の組み合わせはまさにその代表的な例と言えそうだ。
磁力ドライブのクルマ同士で繰り広げる追跡シーンはサラウンドchにも大きめの音圧で効果音が入っているが、試聴室において飽和する寸前の大音量で再生しても音の輪郭がくずれることがなく、インパクトの強いサウンドを引き出せた。今回はエラックの240BEシリーズと組み合わせて試聴したが、FS247BEの15cmツインウーファーを見事に鳴らし切っていた。ダイレクトエナジーHDアンプが生み出す音圧感にはまだ余裕が感じられたので、さらに大型のスピーカーとの組み合わせも視野に入りそうだ。
『アメイジング・スパイダーマン』ではサラウンド音場の見通しの良さが聴きどころだ。宙吊りのクルマから子供を救うシーンの前後、映像のパースペクティブが一気に広がる部分で音響的な空間も同時に拡大する。本機のサラウンド再生はその広がりに十分な余裕があり、フロントスピーカーの背後やリア音場のさらに奥まで、環境音が自然に広がっていく。その広がりのなかにいろいろな種類の効果音が埋め込まれているのだが、本機はその仕掛けをきめ細かく鳴らし分けて見せた。
ダイレクトエナジーHDアンプが生み出す余裕のパワー感と精密な空間再現。その2つを見事に両立させたことに本機の実力を読み取ることができる。
進化するクラスDアンプ。ESS製DACも新搭載
多チャンネルのアンプ回路を限られた容積に収めることがAVアンプ最大の制約であることはいまも変わらず、音質や出力にそのしわ寄せがくることが大きな課題になっている。そんな制約から解放する有力な手法の一つがデジタルアンプの導入で、優れた設計の素子や回路を選べば音質、出力、効率すべての要素で既存アナログアンプを上回る可能性が高い。
それを実証した技術の筆頭がパイオニアの「ダイレクトエナジーHDアンプ」である。2008年にフラグシップ機SC-LX90に導入して驚異的な同時多ch出力を達成。さらにIR社のデバイスを採用した2011年以降は音質面でさらなる向上を果たすなど、着実な進化を続けている。SC-LX57はIRのダイレクトパワーFETを積む3世代目に相当し、スピーカー駆動能力を改善したことがポイントだ。
心臓部のDACにESS製のSABRE32 Ultra DACを新たに導入したことも注目に値する。低ジッターでS/Nの良い再生音が高く評価され、採用例が急速に増えているが、パイオニアはプリメインアンプA-70に先行して採用した実績があり、使いこなしのノウハウには一日の長があるはずだ。
ネットオーディオ関連機能では対応フォーマットの多様さなどでパイオニアのAVアンプが最先端を切り開いてきた感があるが、ここにきて再び大きな進化を遂げた。まずはUSB-A端子経由でのDSDファイル再生は、PCM変換に加えて変換なしのネイティブ再生にも対応。新たにAIFFとALACの各データもデコードできるようになった。さらにDLNAとUSBの両方でギャップレス再生に対応するなど、ネットオーディオ専用機に匹敵する柔軟かつ高度な仕様を獲得している。
iPadにも対応する操作アプリ「iControlAV2013」のリスト表示機能が見やすく改善されたことで操作面の不満も一気に解消し、ファイル再生の使い勝手は大きく向上している。
DSDネイティブ再生は生々しいピュアサウンド
AVアンプの基本性能を左右する重要な要素の一つがS/Nであり、特に静寂感の再現性は音楽、映画いずれにおいても決定的な役割を演じる。SC-LX57はアナログ/デジタルどちらの入力も静寂感を引き出す能力が高く、余韻が消える瞬間まで密度の高い空気を感じ取ることができた。ピリオド楽器で演奏したヘンデルのオルガン協奏曲ではオケの低弦とオルガンの音域が重なってもそれぞれの動きを明瞭に描き分け、曲に備わる躍動感を見事に再現。厚い響きの中にバイオリンの旋律が埋没することもなく、輪郭をしっかり描き出すことにも感心した。
マーティン・テイラーのギターを聴くと、スムーズな音の立ち上がりとリズムの切れの良さが両立し、スチール弦の澄んだ音色がステレオ音場に広がる。その瑞々しい感触はまさにこの演奏の聴かせどころで、本機はその魅力をストレートに聴き手に伝えてくる。
本機のピュアダイレクトモードをオンにした状態では、USBメモリーに保存したDSD音源をPCMに変換せず、そのままデコードして再生することができる。変換プロセスが介在しないのでDSD録音本来の生々しさがあり、ディスク再生とは一線を画す鮮度の高さが実感できる。5.6MHz音源のなかでは、「NAMA」の付帯音が一切乗らないピュアなサウンドに強い印象を受けた。
マルチchは余裕のパワーと精密な空間再現で他を圧倒
音楽ソースで本機の透明感の高い音調を確認したが、サラウンド音場も見通しが良く、効果音と音楽のセパレーションの高さは群を抜く。『トータル・リコール』はどの場面も音数が多く、情報があふれている印象を受けるが、本機で聴くと一つひとつの効果音の音色の違いがよくわかり、素材感や音源の方向を正確に再現していることがわかる。音が塊にならず、映像のスピード感に同期したテンションの高いサウンドが展開するのだ。サウンドエフェクトにこだわった作品ほど、アンプの実力が自然に浮かび上がってくるものだが、『トータル・リコール』と本機の組み合わせはまさにその代表的な例と言えそうだ。
磁力ドライブのクルマ同士で繰り広げる追跡シーンはサラウンドchにも大きめの音圧で効果音が入っているが、試聴室において飽和する寸前の大音量で再生しても音の輪郭がくずれることがなく、インパクトの強いサウンドを引き出せた。今回はエラックの240BEシリーズと組み合わせて試聴したが、FS247BEの15cmツインウーファーを見事に鳴らし切っていた。ダイレクトエナジーHDアンプが生み出す音圧感にはまだ余裕が感じられたので、さらに大型のスピーカーとの組み合わせも視野に入りそうだ。
『アメイジング・スパイダーマン』ではサラウンド音場の見通しの良さが聴きどころだ。宙吊りのクルマから子供を救うシーンの前後、映像のパースペクティブが一気に広がる部分で音響的な空間も同時に拡大する。本機のサラウンド再生はその広がりに十分な余裕があり、フロントスピーカーの背後やリア音場のさらに奥まで、環境音が自然に広がっていく。その広がりのなかにいろいろな種類の効果音が埋め込まれているのだが、本機はその仕掛けをきめ細かく鳴らし分けて見せた。
ダイレクトエナジーHDアンプが生み出す余裕のパワー感と精密な空間再現。その2つを見事に両立させたことに本機の実力を読み取ることができる。