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公開日 2015/10/21 11:15

パナソニック「SC-PMX100」オリジナルインシュレーター開発秘話 − 誕生!攻めのアクセサリー

VGP2015SUMMER W受賞キャンペーン
鴻池 賢三
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この夏のVGPで「リビングオーディオ大賞」と「金賞」をダブル受賞したパナソニックの傑作ハイレゾコンポ「SC-PMX100」。そのポテンシャルを余すことなく引き出すべく、鴻池賢三氏が特別仕様のインシュレーターを発案!このたび、なんとそれが期間限定キャンペーンのノベルティとして、限定500セットに付属されることになった(キャンペーンの詳細はこちら)。このキャンペーンでしか手に入らない、至高の逸品!この貴重なアクセサリーが誕生するに至った一部始終をお届けしていこう。




攻めの姿勢のアクセサリー 鴻池流インシュレーター

ハイレゾブームをキッカケに、いま再び、ハイコンポが注目を浴びている。ミニマムでライフスタイルに沿いつつ、クオリティも飛躍的に向上した、質実剛健な好モデルが多数登場しているためだ。そんな人気ジャンルにおいても、突出した実力を持ち、評論家陣を驚かせたのが、パナソニック「SC-PMX100」である。

VGP2015SUMMERでは、パナソニック独自のフルデジタルアンプ「LincsD-AmpIII」の搭載などによって、ハイコンポの常識を打ち破る、ハイレゾ時代の高音質を実現。その音質が高く評価され、ジャンル金賞(システムオーディオ/ハイコンポ8万円未満)が授与された。

さらに、特別賞の審査でも、審査員満場一致で高く評価され、ジャンル金賞の上位に位置づけられる「リビングオーディオ大賞」に輝いた。主要賞をW受賞する快挙を成し遂げたのである。このようなクオリティの向上は、同社が昨年テクニクスブランドを復活させたこととも無関係ではなく、長年培われた確かな技術の集大成と言ってもいい。

W受賞に見て取れる通り、類希なる実力を持つ本機だが、そうであれば尚更、そのポテンシャルを十二分に引き出したいと思うのがマニア心。そこで今回は、パナソニック全面協力の下、音質向上の基本かつ定番アイテムと言える、「インシュレーター」の共同開発に乗り出した。

今回のプロジェクトに参加してくださった、パナソニックのみなさん。主幹技師を務める西村高明氏をはじめ、精鋭エンジニアの英知が結集され、鴻池氏のアイデアが具現化された

プロジェクトのコンセプトは「攻めのスタイル」。インシュレーター自体が音質向上に寄与するのはもちろん、オーディオファンの楽しみが広がるよう、ユーザーの視聴環境、好みのジャンル、好みの音調に応じて、無限のパターンが創り出せる「遊び心」や、飽くなき「探求心」にも応えようという試みだ。

検討に際しては、まず、パナソニック技術陣からスピーカーの設計思想や構造の細部に至るまでをヒアリング。インシュレーターによる改善の余地が何処に残っているのかを探ることからスタートした。インシュレーターが音質向上に役立つメカニズムは、原則として、スピーカーの振動が設置面に与える影響または、設置面からの振動がスピーカーに与える影響をコントロールすることにある。スピーカーを知れば、インシュレーターに必要とされる要素も見えてくるかもしれないと思った為だ。

検証は大阪/門真にある試聴室でおこなっている。ちなみに現在、オーディオ機器が開発されているのは、長年テクニクスブランドの製品も生み出してきた「16号棟」(写真左)。テクニクスの創始者の1人であり、現在も石井式リスニングルームの提唱者として知られる石井伸一郎氏が設計に携わった試聴室が隣の15号棟に今もなお3つ存在し、音づくりに活用されている。写真のとおり、別棟の研究所には無響室(写真右)も備えられており、スピーカーユニットから完成品まで、開発される製品はグレードを問わず測定による確認が実施される。西村氏によると、測定データで音質の全てを明らかにはできないが、長年データを蓄積することで職人的な感性も鍛えられるという。手作り試作、量産試作、量産品の各段階における性能確認にも欠かせない重要な施設を備えている点に、大手メーカーならではのアドバンテージを感じた

ノウハウを結集させた完成度の高いスピーカー

技術陣に詳細を聞いて驚いたのは、スピーカーボックスが“ただの木の箱”ではないことだ。カタログなどでは、スピーカーの振動板の材質や、スーパートゥイーターが100kHzの再生に対応しているなどの情報しか掲載されていない。しかし、じっくりとエンジニアと膝を突き合わせて話をすると、長年の経験から、いろいろなノウハウが詰まっていることが分かった。

六面を形成する木材は強度と制震性に優れたMDF材で、端面は斜め45度にカットされ、接着面積、言い換えると結合強度を14倍に高めている。また、各コーナーに補強材を追加する念の入れ様だ。本機の場合、容積確保の観点で奥行き方向に余裕があり、この際に側面、天面、底面の振動が心配だが、これは梁の役割を果たすパーチクル材の補強板で制御されている。余談だが、補強板に設けられた開口の形状と大きさにも秘密があり、これは試聴を繰り返して煮詰められたものだという。


手頃な価格帯のハイコンポに対し、これほどのこだわりが詰まっているとは驚きだが、設計担当の西村氏は、長年スピーカー設計を手がけてきたベテランエンジニア。コストを抑えつつ音質向上を達成するためのノウハウが、語らずとも隅々に宿されているのだ。

また、振動の度合いについては、高度な振動測定による科学的な解析も行われているとの事で、さすがは大手総合家電メーカーならではのスケールを感じずにはいられない。

インシュレーター革命!その理想のカタチを求めて

先述の通り、スピーカーの完成度は極めて高い。インシュレーターの役割は、スピーカーの欠点を補うと言うよりは、設置環境に応じてスピーカーの能力を最大限に引き出す“柔軟性”が重要に感じた。

たとえば過去の試聴では、デスクトップのような条件で再生すると、低域が机上で反射して低域を中心に音全体が不明瞭になる感があった。そこで、インシュレーターには、スピーカーの高さや仰角を与えられる機能性を持たせることを第一のテーマとした。

ちなみに、前モデルの「SC-PMX9LTD」では、円柱型のインシュレーターがバンドルされた。音質向上効果は明らかだったが、設置バリエーションとしては3点または4点支持が選べるものの、後はそれらの位置を微調整するに止まっていた。そこで今回は、そうしたインシュレーターの常識を打ち破るべく、次の4案を打ち上げた。

第一案は長方形。3辺の長さが異なる長方形にすることで、設置方向により高さを変えられるのがミソだ。縦、横、奥行きで3パターンの高さが得られ、さらにそれらを組み合わせることで、合計約20パターンが生み出せる算段だ。

第二案は、円柱型を基本に、接点となる滑り止めの面積を上面と底面で変える、円柱改版。先述の通り、円柱型は実績がある。これをベースに、スピーカーへの接触面積を大きくするか小さくするか、裏を返せば、設置台への接触面積を小さくするか大きくするかのバリエーションが生み出せるという算段である。

第三案は円錐型。インシュレーターとしては定番とも言える形状。上下を入れ替えると、スピーカー又は設置台への接触面積を大きく変えることができる。今回は見た目の美しさも考慮して、直径と高さの関係を黄金比率に整えた。また、頂点の角度は、実在するピラミッドの稜線を意識して52度に設定し、いわゆる「ピラミッドパワー」にもあやかろうというコンセプトも含めた。

第四案はルーローの三角。ルーローの三角は、回転しても高さが一定という不思議な三角形。円の普遍性と三角の神秘性を併せ保ち、インシュレーター界に革命を起こせるかもしれないと考えた。決して、パナソニックのロボット掃除機を意識したものではない。

それぞれの能書きは以上だが、想像通りの音が出せるかどうかは実際に試してみないと分からない。今回は、ユーザーの楽しみを広げたいという筆者とパナソニック技術陣の熱い願いから、時間とコストを度外視し、上記のコンセプトを図面に落とし込んで試作を行い、実際に比較試聴して最終選別を行うこととした。

サンプルをじっくり検証 満場一致で円錐型に決定!


約1ヶ月もの時間を掛け、最終図面への落とし込みを経て全4パターンの試作が完成した。まず長方形は、当初の狙い通り高さを変えながら全てのパターンを試したが、どう置いても音が鈍る。どうやら四角型は根本的に向いていないようだ。また、設置面から最も距離を稼いで高さが得られるようにすると、竹馬を履いたように不安定になり、音質的にも安全性の面でも好ましくないことから不適と判断した。

円柱型は期待通りの音質改善効果が得られたが、面白みに欠けるので保留。ルーロー型は製造装置の制約から、断面にルーロー型を採り入れた結果、錘形状になった。設置面が丸くゆらゆらするので、音質面でも設置性の面でも不安定な要素が拭い切れない。


残るは円錐型。まず、基本音質は他のどれよりも突出して良い。長方形には無い透明感が得られるのだ。円錐という形が適しているのか、ピラミッドパワー&黄金比率が功を奏したのかは謎だが、使いこなしで伸びしろも大きそうな直感を得た。

また、安定性も申し分なく、位置を探ったり上下を入れ替えると、音質は少なく無い変化を見せるのも狙い通り。2個重ねて前方に設置すれば仰角が得られ、また、インシュレーターの角がスピーカーに接触したり、スピーカー底面に付属のゴム製うしろ足がグリップを失うような不具合もない。パナソニック技術陣の内部検討でも同様の印象を得ていたとの事で、満場一致で円錐型の採用が決定した。


恐るべしピラミッドパワー 使いこなしの幅も広い

円錐型インシュレーターを、想定されるシチュエーションで試聴した。まずはラック設置。先述の通り、スピーカーの完成度は非常に高いものだが、ラックに直置きすると、音像がラックに引っ張られるかのように収縮して沈みがちだ。これはスピーカーとラックの共振による不要な音が原因と考えられる。低域の量感が得られる点では、コンパクトシステムの弱点を補って音全体のバランスが良いが、ハイファイ的とは言い難い。

次にインシュレーターを設置すると、左右にすーっと音場が広がるのが印象的で、ボーカルも空中に浮かんでピシッと定位する。広がった空間に音源が的確に配置されて引き出される立体感は、ハイレゾ音源が持つ空間情報の再現にもプラスに働く。

次はデスクトップ設置。本機は前モデルに対し、新たにUSB-DAC機能を備え、パソコンとの組み合わせによる「デスクトップPCオーディオ」として利用するユーザーも多いだろう。デスクトップでは、特にウーファーから放たれた音が机上で反射し、低域を中心に特性の乱れが気になる。

インシュレーターを2段重ねにして前面バッフル部に二組設置すると仰角が得られ、机上の反射が緩和されることで、低域の解像度が向上して締まりも良くなる。またトゥイーターが耳に向くことで、指向性の高い高域音もより原音に近い音色とパワーバランスで耳に届く。結果、デスクトップでも空間の見通しが効き、特にボーカルのフワッと開放的に広がる様子が心地良い。筆者もパナソニック技術陣も、円錐型のピラミッドパワーに確信を得たのであった。




※この記事は月刊「AVレビュー」2015年11月号所収記事を転載したものです

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