公開日 2023/12/29 07:00
『ぼっち・ざ・ろっく!』レコードならではの聴きどころは? サブスク/CD/ハイレゾと聴き比べてみた
レコードの個人的ポイントも紹介
もう1年が経とうとしているが、『ぼっち・ざ・ろっく!』のアニメは最高だった。面白さのためならセルアニメ、そして「まんがタイムきらら」の枠にとらわれないハチャメチャっぷり、絶妙に省略しつつ動きを巧みに捉えた演奏作画、それらを実現させたスタッフ陣のセンスと能力の高さ……あれ以来、CloverWorksに足を向けて寝られない日々が続いている。
アニメ自体はもちろん、楽曲も同様に素晴らしい出来だった。アルバム「結束バンド」は、著名ミュージシャンや音楽評論家の方々も絶賛しているので今更多くを語るべくもないが、「青春コンプレックス」から「転がる岩、君に朝が降る」カバーまで、ロックへの愛と情熱が詰まった1枚だ。
また、本編に出てくるバンドの趣味嗜好を見ている限り、作者のはまじあき氏は記者(1991年生まれ)と近い世代だろうと思っているのだが、最終回EDで「転がる岩、君に朝が降る」が流れたとき、「好きな音楽・バンドをテーマに描いた漫画がアニメ化して大ヒット、主要キャラの元ネタにしたアジカンにも届いたうえ、そのキャラがアジカンの曲をカバーする」という、(おそらく)同世代の人間の人生が報われる瞬間に立ち会った気がして、ちょっと泣いた。
そんな「結束バンド」のリリース1周年を記念して、12月27日にアナログレコード盤の発売が決定。記者は発表後すぐにポチったので26日には届いてくれた。自宅でも聴けるものの、弊社には取材用の試聴室があるので、せっかくならハイエンド機材でじっくりと聴きたい。
だが、普通に聴くだけでは面白くない。ということで、サブスクにCD、ハイレゾ、そしてレコードと、今出ている全フォーマットでの聴き比べも行った。
■「結束バンド」レコード/サブスク/CD/ハイレゾで聴き比べ
「結束バンド」LP盤は重量盤のLP2枚組で、CDと同じく全14曲を収録。カッティングはSony Music Studios Tokyoのカッティングエンジニア・堀内寿哉氏が手掛けている。
全フォーマットを聴き比べるにあたって、サブスクはSpotifyを、ハイレゾは各ストアで販売されている48kHz/24bitのものを使用。試聴機材は以下の通りだ。
アナログプレーヤー:テクニクス「SL-1000R」
フォノアンプ:アキュフェーズ「C-47」
プリアンプ:アキュフェーズ「C-3900」
ステレオパワーアンプ:アキュフェーズ「A-80」
スピーカー:B&W「803 D4」
サブスク/ハイレゾ再生:MacBook Air
それぞれを横並びで聴いてみての印象として、レコードは低域がパワフルな一方、高域は控えめで角の取れた、いわゆるピラミッド型のサウンドバランスだ。最も、これはレコードという媒体そのものの特徴でもあるので、他の作品で聴き比べても概ね同じような印象を抱くかと思う。
では「結束バンドのレコードはどんな音か」と言えば、まず、ベースの音圧が他と比べて圧倒的に強い。と言ってもベースが前に出ているというより、ライブハウスのように、低音が空気に満ちているような印象だ。
またボーカルの存在感も強く、高域成分が少ないためビビッドさこそないが、逆に耳の疲れない、スッと入ってくる柔らかな質感。ドラムはスネアやバスドラム、ハイハットの音に張りがあって、アコースティックで生々しい響きを味わえる。さらに全パートに共通して、アナログで温かみのある残響感がある。
反面、ギターはどちらかというと控えめな印象。ボーカルを中心としたバンドサウンドと考えれば問題ないが、ぼっちちゃんのギタープレイをしっかり聴きたい場合は、高域成分の多さと解像度の高さからエッジの効いたサウンドが味わえるハイレゾ、または中域に重心が置かれ、太くコシの強いギターが聴けるCDをおすすめしたい。
音の輪郭もやや丸めで、純粋な解像感もサブスクやCD、ハイレゾに軍配が上がる。ただし解像感が甘い分、レコードには全パートが渾然一体となったグルーヴ感があるので、決してネガティブだとは思わない。
それぞれレコードと比較してみると、サブスクの音は明るく聴きやすいが全体的に軽く、迫力に欠ける。CDは中域の押し出しが強く、ギターに特化して聴きたいならピッタリ。ハイレゾはレコードと対照的で、上方向への音像の広がりがあり、特にボーカルをクリアに聴くのに適している、という印象を受けた。
ちなみに社内の他の人にも聴いてもらったところ、「確かにレコードは音がエモいけど、このアルバムで制作陣が意図していたのはCDの音な気がする」という意見が何人かから挙がったことも記しておきたい。
■D面が魔境。「結束バンド」レコードの個人的ポイントを紹介
どの曲も最高なのだが、個人的に特にレコードで聴いて気持ちの良かった曲・ポイントを挙げていきたい。
まずはB面1曲目の「ギターと孤独と蒼い惑星」。Aメロのベースとドラムが4ビートで刻むリフがズンズンと腹に響き、ライブハウスにいるかのような高揚感が味わえる。同じくB面3曲目「あのバンド」も、元々が高域の削れたダークなサウンドをしているからか、レコードにマッチする。特にボーカルの残響の具合がライブハウスっぽく、アニメ8話、STARRYでのライブに参加しているような感覚を覚える。
C面1曲目「カラカラ」もイチオシ。ベースはもちろんのこと、リョウ先輩のかすれたような歌声のニュアンス、呼吸の質感が際立っており、ほんのり色気を感じられる。C面3曲目の「なにが悪い」は虹夏ちゃん曲なだけあってか、スネアやハイハットの刻み、サビで使われるタンバリンまで、ドラムセクションの音がとにかく気持ち良い。
そしてD面2曲目の「星座になりたい」。アルバム全体を通して、喜多ちゃんボーカル曲の中で最もレコード映えするのは、ちょっとメロウな歌い方をしているこの曲だと思う。特にギターソロからのCメロ明け、ほぼボーカルソロの状態になるところは必聴のエモさ。
そこから畳み掛けるように始まる3曲目「フラッシュバッカー」がまた素晴らしい。先でレコードの特徴として輪郭の甘さを挙げたが、この曲ではシューゲイザーにも似たノイジーで飽和感あるギターリフ、ゆったりしたベース、ドラムが溶け合い、ひとつの大きな音の波となるので、ぜひ目を閉じて聴いてみてほしい。この流れのまま「転がる岩、君に朝が降る」を聴けば、完璧にキマってしまうはずだ。
◇
記事執筆の2023年末時点では、アニプレックスオンラインにて本レコードの三次受付が行われており、2024年2月下旬より順次お届け予定となっている。ただ完全限定生産盤である以上、いつ受付終了になるかは分からないので、欲しい方は早めに購入しておく方が良いだろう。
また、買ったはいいがレコードの聴き方が分からない、肝心のプレーヤーを持っていないという方は、アニプレックス公式がアップしている動画「青山吉能と学ぶアナログレコードの楽しみかた」を参考にしてみてほしい。
今回の『ぼっち・ざ・ろっく!』に限らず、ここ最近はアニメ系のレコードも色々とリリースされているし、ターンテーブルもBluetooth機能がついていたりと、お手頃価格で使いやすいモデルがたくさんある。もちろん大盤ジャケットを飾って楽しむのも良いが、せっかくなら聴いて楽しんでみてほしい。
とりわけ本アルバムは昨今のアニソンとしては珍しいほどに純粋なロックサウンドで、レコードとの相性もバッチリだ。だからみんなもレコードで聴いてよ、ぼっちちゃんのロック……「ぼっち・ざ・ろっく!」を! (ここでED曲「なにが悪い」が流れる)
アニメ自体はもちろん、楽曲も同様に素晴らしい出来だった。アルバム「結束バンド」は、著名ミュージシャンや音楽評論家の方々も絶賛しているので今更多くを語るべくもないが、「青春コンプレックス」から「転がる岩、君に朝が降る」カバーまで、ロックへの愛と情熱が詰まった1枚だ。
また、本編に出てくるバンドの趣味嗜好を見ている限り、作者のはまじあき氏は記者(1991年生まれ)と近い世代だろうと思っているのだが、最終回EDで「転がる岩、君に朝が降る」が流れたとき、「好きな音楽・バンドをテーマに描いた漫画がアニメ化して大ヒット、主要キャラの元ネタにしたアジカンにも届いたうえ、そのキャラがアジカンの曲をカバーする」という、(おそらく)同世代の人間の人生が報われる瞬間に立ち会った気がして、ちょっと泣いた。
そんな「結束バンド」のリリース1周年を記念して、12月27日にアナログレコード盤の発売が決定。記者は発表後すぐにポチったので26日には届いてくれた。自宅でも聴けるものの、弊社には取材用の試聴室があるので、せっかくならハイエンド機材でじっくりと聴きたい。
だが、普通に聴くだけでは面白くない。ということで、サブスクにCD、ハイレゾ、そしてレコードと、今出ている全フォーマットでの聴き比べも行った。
■「結束バンド」レコード/サブスク/CD/ハイレゾで聴き比べ
「結束バンド」LP盤は重量盤のLP2枚組で、CDと同じく全14曲を収録。カッティングはSony Music Studios Tokyoのカッティングエンジニア・堀内寿哉氏が手掛けている。
全フォーマットを聴き比べるにあたって、サブスクはSpotifyを、ハイレゾは各ストアで販売されている48kHz/24bitのものを使用。試聴機材は以下の通りだ。
アナログプレーヤー:テクニクス「SL-1000R」
フォノアンプ:アキュフェーズ「C-47」
プリアンプ:アキュフェーズ「C-3900」
ステレオパワーアンプ:アキュフェーズ「A-80」
スピーカー:B&W「803 D4」
サブスク/ハイレゾ再生:MacBook Air
それぞれを横並びで聴いてみての印象として、レコードは低域がパワフルな一方、高域は控えめで角の取れた、いわゆるピラミッド型のサウンドバランスだ。最も、これはレコードという媒体そのものの特徴でもあるので、他の作品で聴き比べても概ね同じような印象を抱くかと思う。
では「結束バンドのレコードはどんな音か」と言えば、まず、ベースの音圧が他と比べて圧倒的に強い。と言ってもベースが前に出ているというより、ライブハウスのように、低音が空気に満ちているような印象だ。
またボーカルの存在感も強く、高域成分が少ないためビビッドさこそないが、逆に耳の疲れない、スッと入ってくる柔らかな質感。ドラムはスネアやバスドラム、ハイハットの音に張りがあって、アコースティックで生々しい響きを味わえる。さらに全パートに共通して、アナログで温かみのある残響感がある。
反面、ギターはどちらかというと控えめな印象。ボーカルを中心としたバンドサウンドと考えれば問題ないが、ぼっちちゃんのギタープレイをしっかり聴きたい場合は、高域成分の多さと解像度の高さからエッジの効いたサウンドが味わえるハイレゾ、または中域に重心が置かれ、太くコシの強いギターが聴けるCDをおすすめしたい。
音の輪郭もやや丸めで、純粋な解像感もサブスクやCD、ハイレゾに軍配が上がる。ただし解像感が甘い分、レコードには全パートが渾然一体となったグルーヴ感があるので、決してネガティブだとは思わない。
それぞれレコードと比較してみると、サブスクの音は明るく聴きやすいが全体的に軽く、迫力に欠ける。CDは中域の押し出しが強く、ギターに特化して聴きたいならピッタリ。ハイレゾはレコードと対照的で、上方向への音像の広がりがあり、特にボーカルをクリアに聴くのに適している、という印象を受けた。
ちなみに社内の他の人にも聴いてもらったところ、「確かにレコードは音がエモいけど、このアルバムで制作陣が意図していたのはCDの音な気がする」という意見が何人かから挙がったことも記しておきたい。
■D面が魔境。「結束バンド」レコードの個人的ポイントを紹介
どの曲も最高なのだが、個人的に特にレコードで聴いて気持ちの良かった曲・ポイントを挙げていきたい。
まずはB面1曲目の「ギターと孤独と蒼い惑星」。Aメロのベースとドラムが4ビートで刻むリフがズンズンと腹に響き、ライブハウスにいるかのような高揚感が味わえる。同じくB面3曲目「あのバンド」も、元々が高域の削れたダークなサウンドをしているからか、レコードにマッチする。特にボーカルの残響の具合がライブハウスっぽく、アニメ8話、STARRYでのライブに参加しているような感覚を覚える。
C面1曲目「カラカラ」もイチオシ。ベースはもちろんのこと、リョウ先輩のかすれたような歌声のニュアンス、呼吸の質感が際立っており、ほんのり色気を感じられる。C面3曲目の「なにが悪い」は虹夏ちゃん曲なだけあってか、スネアやハイハットの刻み、サビで使われるタンバリンまで、ドラムセクションの音がとにかく気持ち良い。
そしてD面2曲目の「星座になりたい」。アルバム全体を通して、喜多ちゃんボーカル曲の中で最もレコード映えするのは、ちょっとメロウな歌い方をしているこの曲だと思う。特にギターソロからのCメロ明け、ほぼボーカルソロの状態になるところは必聴のエモさ。
そこから畳み掛けるように始まる3曲目「フラッシュバッカー」がまた素晴らしい。先でレコードの特徴として輪郭の甘さを挙げたが、この曲ではシューゲイザーにも似たノイジーで飽和感あるギターリフ、ゆったりしたベース、ドラムが溶け合い、ひとつの大きな音の波となるので、ぜひ目を閉じて聴いてみてほしい。この流れのまま「転がる岩、君に朝が降る」を聴けば、完璧にキマってしまうはずだ。
記事執筆の2023年末時点では、アニプレックスオンラインにて本レコードの三次受付が行われており、2024年2月下旬より順次お届け予定となっている。ただ完全限定生産盤である以上、いつ受付終了になるかは分からないので、欲しい方は早めに購入しておく方が良いだろう。
また、買ったはいいがレコードの聴き方が分からない、肝心のプレーヤーを持っていないという方は、アニプレックス公式がアップしている動画「青山吉能と学ぶアナログレコードの楽しみかた」を参考にしてみてほしい。
今回の『ぼっち・ざ・ろっく!』に限らず、ここ最近はアニメ系のレコードも色々とリリースされているし、ターンテーブルもBluetooth機能がついていたりと、お手頃価格で使いやすいモデルがたくさんある。もちろん大盤ジャケットを飾って楽しむのも良いが、せっかくなら聴いて楽しんでみてほしい。
とりわけ本アルバムは昨今のアニソンとしては珍しいほどに純粋なロックサウンドで、レコードとの相性もバッチリだ。だからみんなもレコードで聴いてよ、ぼっちちゃんのロック……「ぼっち・ざ・ろっく!」を! (ここでED曲「なにが悪い」が流れる)