同社初のUSB-DAC/ヘッドホンアンプの全貌に迫る
マランツ澤田氏に訊く、ヘッドホンアンプ「HD-DAC1」で実現したHi-Fiアンプの理想形とは?
DSD対応DACデバイスの創世記に音決めに関わった資産
■DACデバイスはDSDダイレクト変換に対応
HD-DAC1が採用したDACデバイスは、NA8005と同じ、シーラス・ロジック製「CS4398」である。DSDの処理についてはダイレクト変換を行う仕様としている。
「CS4398はDSD信号を入力したとき、ダイレクトに処理する方法と、途中でプロセッサーを通る方法の2つから選択ができます。DSDはPCMよりレベルが低いため、ハイブリッドのSACDでは、CD層とSACD層のレベルを揃える必要がありました。そこで、DSDはDACチップの中でプロセッサーを通してレベルを調整して、PCMと音量を揃えていたのです」。
「しかしNA-11S1以降では、プロセッサーを通さずにダイレクトに出力する方式に切り替えました。HD-DAC1でも同様にDSDダイレクト変換を行います。よってDSD再生時のレベルはPCMより低くなりますが、レベル合わせをパスしてシンプルに処理できるので、音質面では当然こちらが有利になります」。
■マランツのシーラス・ロジック製DACへのこだわり
シーラス・ロジック製「CS4398」を使い続ける理由のひとつに、マランツがデバイスの原型となるDACの音決めに関わり、その素性を深く理解しているということがある。少し長くなるが、DSD黎明期の非常に興味深い話なので、澤田氏の語ってくれたエピソードをここに記しておきたい。
1999年にSACDが登場した。SACDはフィリップスとソニーが共同で提唱した次世代フォーマット。当時のマランツはフィリップス・グループの傘下にあり、グループ全体の初号機となるSACDプレーヤー「SA-1」はマランツから発売された。
「当時、フィリップス/マランツ陣営では、SACD専用のD/Aコンバーターを持っていませんでした。そこで、マルチビットを1ビットにデルタシグマで変換する『ビットストリーム方式DAC』を4回路パラレルに使うことで、SACDに対応したのです」。
「それでも、やはりSACDのDSD信号に対応したDACデバイスが必要ということで、フィリップスのセミコンダクターグループが開発を進めていました。しかし結果的にはフィリップスがセミコンダクター部門を手放すことになり、シーラス・ロジック社にフィリップスの開発部隊が移りました。そして最終的にはシーラス・ロジック社から『CS4397』というデバイスが出ました。これは今回のCS4398のひと世代前ですね」。
このCS4397の開発に際して、マランツ陣営は音質向上のためのアイデアを求められた。「もちろん我々はアナログ畑の人間ですから、DACのLSIの中身なんてわかりませんでした」と澤田氏は当時を回想する。「まさに畑違いだったのですが、アナログ畑の人間として、正確な計算能力のあるデバイスを作っていただくのもいいが、最後はアナログになって出て行くので、アナログ部分に十分な電流を流せるようにしてください、と要求しました」。そして澤田氏は、その試作品を段階ごとに音質評価することになった。
「最初の試作品は“なんだこりゃ”というレベルでした。普通に再生するだけでノイズが出ているという状態です。次の段階では、ある程度の改善は行われていたものの、音質には不安を覚えました。ところが、ステージ3まで来ると、それまでのビットストリーム方式DACを使った場合と比べても、霧が晴れたような音になっていたのです」と澤田氏。そこからさらに音質の追い込みが行われ、完成したDACがマランツのSACDプレーヤーに搭載されることとなった。
「DAC開発に協力したというか、我々からすると否応なく音を聴かされてレポートを書かされた、というような感じでした(笑)。『これが将来君たちの機械に乗るんだ』と言われて、首を捻りながら音質評価をしたものですが、最終的にはその甲斐あったと思えるものができました。それもあって、当時の技術が継承されているCS4398には親近感がありますね。それにしても、CS4398は登場から10年が経つDACですが、当時から5.6MHz DSDに対応していたのだから、大したものです」。
■DACデバイスはDSDダイレクト変換に対応
HD-DAC1が採用したDACデバイスは、NA8005と同じ、シーラス・ロジック製「CS4398」である。DSDの処理についてはダイレクト変換を行う仕様としている。
「CS4398はDSD信号を入力したとき、ダイレクトに処理する方法と、途中でプロセッサーを通る方法の2つから選択ができます。DSDはPCMよりレベルが低いため、ハイブリッドのSACDでは、CD層とSACD層のレベルを揃える必要がありました。そこで、DSDはDACチップの中でプロセッサーを通してレベルを調整して、PCMと音量を揃えていたのです」。
「しかしNA-11S1以降では、プロセッサーを通さずにダイレクトに出力する方式に切り替えました。HD-DAC1でも同様にDSDダイレクト変換を行います。よってDSD再生時のレベルはPCMより低くなりますが、レベル合わせをパスしてシンプルに処理できるので、音質面では当然こちらが有利になります」。
■マランツのシーラス・ロジック製DACへのこだわり
シーラス・ロジック製「CS4398」を使い続ける理由のひとつに、マランツがデバイスの原型となるDACの音決めに関わり、その素性を深く理解しているということがある。少し長くなるが、DSD黎明期の非常に興味深い話なので、澤田氏の語ってくれたエピソードをここに記しておきたい。
1999年にSACDが登場した。SACDはフィリップスとソニーが共同で提唱した次世代フォーマット。当時のマランツはフィリップス・グループの傘下にあり、グループ全体の初号機となるSACDプレーヤー「SA-1」はマランツから発売された。
「当時、フィリップス/マランツ陣営では、SACD専用のD/Aコンバーターを持っていませんでした。そこで、マルチビットを1ビットにデルタシグマで変換する『ビットストリーム方式DAC』を4回路パラレルに使うことで、SACDに対応したのです」。
「それでも、やはりSACDのDSD信号に対応したDACデバイスが必要ということで、フィリップスのセミコンダクターグループが開発を進めていました。しかし結果的にはフィリップスがセミコンダクター部門を手放すことになり、シーラス・ロジック社にフィリップスの開発部隊が移りました。そして最終的にはシーラス・ロジック社から『CS4397』というデバイスが出ました。これは今回のCS4398のひと世代前ですね」。
このCS4397の開発に際して、マランツ陣営は音質向上のためのアイデアを求められた。「もちろん我々はアナログ畑の人間ですから、DACのLSIの中身なんてわかりませんでした」と澤田氏は当時を回想する。「まさに畑違いだったのですが、アナログ畑の人間として、正確な計算能力のあるデバイスを作っていただくのもいいが、最後はアナログになって出て行くので、アナログ部分に十分な電流を流せるようにしてください、と要求しました」。そして澤田氏は、その試作品を段階ごとに音質評価することになった。
「最初の試作品は“なんだこりゃ”というレベルでした。普通に再生するだけでノイズが出ているという状態です。次の段階では、ある程度の改善は行われていたものの、音質には不安を覚えました。ところが、ステージ3まで来ると、それまでのビットストリーム方式DACを使った場合と比べても、霧が晴れたような音になっていたのです」と澤田氏。そこからさらに音質の追い込みが行われ、完成したDACがマランツのSACDプレーヤーに搭載されることとなった。
「DAC開発に協力したというか、我々からすると否応なく音を聴かされてレポートを書かされた、というような感じでした(笑)。『これが将来君たちの機械に乗るんだ』と言われて、首を捻りながら音質評価をしたものですが、最終的にはその甲斐あったと思えるものができました。それもあって、当時の技術が継承されているCS4398には親近感がありますね。それにしても、CS4398は登場から10年が経つDACですが、当時から5.6MHz DSDに対応していたのだから、大したものです」。