公開日 2019/03/15 06:00
「WE-407/23」が進化して復活
親子二代の縁が伝説のトーンアームを蘇らせた − サエク「WE-4700」の詳細をキーマンが語り尽くす
聞き手・記事構成:山之内 正
LPレコード全盛期の1970年代初頭、日本の精密加工技術を活かしたトーンアームの名機がいくつか誕生した。その代表的な存在がSAEC(サエク)の「WE-407/23」である。ダブルナイフエッジ機構に代表される精度の高い作りと優れたトレーシング性能は今日まで語り継がれ、多くのアナログファンの手元でいまも愛用され続けている。
そのWE-407/23が誕生から約40年を経て再び私たちの前に姿を現すことになった。外見はほとんどオリジナルと瓜二つ。往年の勇姿を懐かしく思い出すレコードファンは少なくないと思うが、このトーンアーム、たんなる復刻ではなく、型番も「WE-4700」に変更されている。外見からはうかがうことができないが、中身がどのような進化を遂げているのか、リバイバルのキーパーソン、サエクコマースの北澤慶太氏と内野精工の内野誠氏にその全貌を語っていただく。
■内野精工との出会いがあったから、WE-4700の開発に至った
WE-4700は昨年の5月にミュンヘンで行われたHigh End 2018で初公開されたが、その場で新しいアームの構想を熱く語っていたのがこの2人である。オリジナルモデルの高い評価を背景にアーム復刻の思いが募っていた北澤氏と、それに応えて設計、生産を手がける内野氏の間には、思いもよらぬ深い因縁があったという。まず二人の出会いから紹介することにしよう。
ーー なぜ今この時期にトーンアームの名機「WE-407/23」のリニューアルに取り組んだのか、まずはその背景を教えてください。
北澤氏 もともとサエクは「WE-308」というトーンアームで1974年にスタートしました。レコードの高忠実再生にふさわしいダブルナイフエッジ方式を採用したアームです。ところが、1983年にCDが発売されると急速にデジタルへの移行が進み、この先どうなってしまうのだろうっていう想いを感じてたのですね。当時私は大学生でした。数字で見ると1980年のレコード生産枚数は2億枚弱ありましたが、2000年になるとレコードは200万枚でCDは4億枚と完全に逆転しています。CD時代に突入したわけですね。
それではなぜ、いま復活させるのかということですが、そもそも私が2005年に父から会社を引き継いだ時から、サエクの原点であるトーンアームに回帰したいという思いがあったのです。諸先輩方からも「サエクはアーム出さないの? まだまだニーズがあるよ」とお声がけいただきました。その時はまだ「いつかアームをやりたいな」という漠然とした思いでした。私も多少は図面が引けるので、当時の製品をバラして作図をしてみたら、とても大変で自分一人の手には負えない。アームの原理もきちんと理解していなければ、作るのはとても難しいと感じました。そういう漠然とした思いが内野精工さんとの出会いによって現実的なものに動き始めていったのです。
ーー 以前から内野精工とのお付き合いはあったのですか?
北澤氏 いや、ありませんでした。少なくとも最近は・・・。
内野氏 実は当社は30〜40年くらい前にオーディオのパーツを作っていました。その頃サエク製品の部品も一部やらせていただいていたようなのですが、それ以降は接点はありませんでした。
北澤氏 私も昔のWE-407/23がどこで作られていたかを追いかけていて、おおよそはわかるのですが・・・。
ーー 当時をリアルに体験していたわけではないですからね。
北澤氏 しかし、ある人を介してたまたま内野さんと出会って、お互い父親同士がつながっていたことがわかりました。そして、あらためて内野精工さんの技術力の高さや情熱を知りました。長岡にある内野精工さんの大きな工場を見せていただいた時に、超精密加工が本当に得意なのだということを実感させられました。このとき、製品化できる確信を得たのです。
ーー 強力なパートナーと出会った。
北澤氏 そうですね。大きな出会いでした。
内野氏 当社もずっとオーディオ部品を手がけていましたが、レコードからCDに移行して仕事が一気に減りました。それからいま主力となっている医療機器の製造へ進んだのです。私が入社した16年前、作る力はあるのにオリジナルのものがなく、いわば完全な受注型の切削加工屋でしたが、いつか自分たちの製品を作りたいと思っていました。北澤さんと会う前からオリジナル製品を模索するなかで、トーンアームも挙がっていました。
ーー やはりオーディオ製品を作りたかった?
内野氏 はい。「(公財)東京都中小企業振興公社」で中小企業向けのチャレンジ道場という講座があります。そこでは受注型の企業が1年間、講座を通して自社ブランド・製品を出すことに取り組むのですが、その時すでにアームをやろうと決めていて、オリジナルのアームの構想も進めていました。そんなときに北澤さんを紹介していただいて、それだったらサエクさんのアームを先にやろうということになりました。タイミングが良かったですね。
■名機WE-407/23はどのようなトーンアームだったのか
ーー さきほどWE-308の話が出ましたが、WE-407はその後に発売された製品です。今回のWE-4700はその「WE-407/23」をベースにしていますが、40年近く経っているので、そもそもどんなアームだったのか改めて教えてください。
北澤氏 サエクはWE-308でデビューし、その後「WE-308N」という改良型や「WE-308L」というロングアーム、WE-308のナイフエッジ部分をカバーしてある「308SX」、さらに「506」という放送局用のロングアームと進化していきました。この流れの中でWE-407/23は、ショートモデルの最上位機種として登場したのです。パイプ部分を強度の高いジュラルミンにしたり、ナイフエッジの強度を上げるなど、細かい部分をブラッシュアップして最上位モデルにふさわしい設計がなされました。
そのWE-407/23が誕生から約40年を経て再び私たちの前に姿を現すことになった。外見はほとんどオリジナルと瓜二つ。往年の勇姿を懐かしく思い出すレコードファンは少なくないと思うが、このトーンアーム、たんなる復刻ではなく、型番も「WE-4700」に変更されている。外見からはうかがうことができないが、中身がどのような進化を遂げているのか、リバイバルのキーパーソン、サエクコマースの北澤慶太氏と内野精工の内野誠氏にその全貌を語っていただく。
■内野精工との出会いがあったから、WE-4700の開発に至った
WE-4700は昨年の5月にミュンヘンで行われたHigh End 2018で初公開されたが、その場で新しいアームの構想を熱く語っていたのがこの2人である。オリジナルモデルの高い評価を背景にアーム復刻の思いが募っていた北澤氏と、それに応えて設計、生産を手がける内野氏の間には、思いもよらぬ深い因縁があったという。まず二人の出会いから紹介することにしよう。
ーー なぜ今この時期にトーンアームの名機「WE-407/23」のリニューアルに取り組んだのか、まずはその背景を教えてください。
北澤氏 もともとサエクは「WE-308」というトーンアームで1974年にスタートしました。レコードの高忠実再生にふさわしいダブルナイフエッジ方式を採用したアームです。ところが、1983年にCDが発売されると急速にデジタルへの移行が進み、この先どうなってしまうのだろうっていう想いを感じてたのですね。当時私は大学生でした。数字で見ると1980年のレコード生産枚数は2億枚弱ありましたが、2000年になるとレコードは200万枚でCDは4億枚と完全に逆転しています。CD時代に突入したわけですね。
それではなぜ、いま復活させるのかということですが、そもそも私が2005年に父から会社を引き継いだ時から、サエクの原点であるトーンアームに回帰したいという思いがあったのです。諸先輩方からも「サエクはアーム出さないの? まだまだニーズがあるよ」とお声がけいただきました。その時はまだ「いつかアームをやりたいな」という漠然とした思いでした。私も多少は図面が引けるので、当時の製品をバラして作図をしてみたら、とても大変で自分一人の手には負えない。アームの原理もきちんと理解していなければ、作るのはとても難しいと感じました。そういう漠然とした思いが内野精工さんとの出会いによって現実的なものに動き始めていったのです。
ーー 以前から内野精工とのお付き合いはあったのですか?
北澤氏 いや、ありませんでした。少なくとも最近は・・・。
内野氏 実は当社は30〜40年くらい前にオーディオのパーツを作っていました。その頃サエク製品の部品も一部やらせていただいていたようなのですが、それ以降は接点はありませんでした。
北澤氏 私も昔のWE-407/23がどこで作られていたかを追いかけていて、おおよそはわかるのですが・・・。
ーー 当時をリアルに体験していたわけではないですからね。
北澤氏 しかし、ある人を介してたまたま内野さんと出会って、お互い父親同士がつながっていたことがわかりました。そして、あらためて内野精工さんの技術力の高さや情熱を知りました。長岡にある内野精工さんの大きな工場を見せていただいた時に、超精密加工が本当に得意なのだということを実感させられました。このとき、製品化できる確信を得たのです。
ーー 強力なパートナーと出会った。
北澤氏 そうですね。大きな出会いでした。
内野氏 当社もずっとオーディオ部品を手がけていましたが、レコードからCDに移行して仕事が一気に減りました。それからいま主力となっている医療機器の製造へ進んだのです。私が入社した16年前、作る力はあるのにオリジナルのものがなく、いわば完全な受注型の切削加工屋でしたが、いつか自分たちの製品を作りたいと思っていました。北澤さんと会う前からオリジナル製品を模索するなかで、トーンアームも挙がっていました。
ーー やはりオーディオ製品を作りたかった?
内野氏 はい。「(公財)東京都中小企業振興公社」で中小企業向けのチャレンジ道場という講座があります。そこでは受注型の企業が1年間、講座を通して自社ブランド・製品を出すことに取り組むのですが、その時すでにアームをやろうと決めていて、オリジナルのアームの構想も進めていました。そんなときに北澤さんを紹介していただいて、それだったらサエクさんのアームを先にやろうということになりました。タイミングが良かったですね。
■名機WE-407/23はどのようなトーンアームだったのか
ーー さきほどWE-308の話が出ましたが、WE-407はその後に発売された製品です。今回のWE-4700はその「WE-407/23」をベースにしていますが、40年近く経っているので、そもそもどんなアームだったのか改めて教えてください。
北澤氏 サエクはWE-308でデビューし、その後「WE-308N」という改良型や「WE-308L」というロングアーム、WE-308のナイフエッジ部分をカバーしてある「308SX」、さらに「506」という放送局用のロングアームと進化していきました。この流れの中でWE-407/23は、ショートモデルの最上位機種として登場したのです。パイプ部分を強度の高いジュラルミンにしたり、ナイフエッジの強度を上げるなど、細かい部分をブラッシュアップして最上位モデルにふさわしい設計がなされました。
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