「WE-407/23」が進化して復活
親子二代の縁が伝説のトーンアームを蘇らせた − サエク「WE-4700」の詳細をキーマンが語り尽くす
ーー WE-308の世代から評価は非常に高かったですが、WE-407の登場で、サエクのトーンアームはさらに一段階高い評価になりましたね。
北澤氏 WE-407/23ではナイフエッジがコンパクトになり、デザイン面でも評価していただきました。
ーー 基本的なことですが、ロングアーム、ショートアームという言葉が出てきました。これ要するにパイプの長さですね。
北澤氏 はい。トラッキングエラーが少なくなるという点でロングアームの方が有利です。その一方で、振動や剛性、それからサイズなどから考えるとショートアームの方が有利になると思います。「SME 3009」をはじめ、当時はショートアームの方が数としては出回っていたと思います。
ーー その長さの基準は有効長ですね。WE-407/23の場合は、型番の通り23センチです。
北澤氏 はい。なぜ23センチかというと・・・。
ーー 9インチ相当ということですね。当時の有力ブランドであったSMEが「3009」や「3012」のようにインチ単位で製品を作っていたので、それを基準として各社出してきたのでしょう。もう1つ重要なキーワードとして、「ナイフエッジ」という名称が出てきました。
北澤氏 ナイフエッジ構造を説明するために、簡単な絵を描いてみました。パイプに対して下側にナイフの刃があり、その上にパイプが乗っているのが通常のナイフエッジ構造、シングルナイフです。この構造は針先の振動でパイプが揺れた時にナイフエッジから浮き上がってしまう可能性があります。それに対してダブルナイフエッジはアームの上側にもナイフの刃を当てており、アームの浮き上がりを完全に抑えられます。上下両方のナイフが一点で交わることによって、アームを上下させることなく動かせる。それがダブルナイフエッジ構造の一番のポイントです。
ーー ダブルナイフエッジは、アームの設計としては一般的なのものではありませんでした。
北澤氏 はい。サエクだけでした。
ーー 理論的にはすごく良さそうに思えますが、作るのは大変ですね。
北澤氏 精度が必要になるため、実現するのは容易ではありません。実は1970年代、某社にこの技術を買ってくれないかとリクエストしたことがあるらしいのですが、「製造できないから買わない」と言われたそうです。今回の製品化のために内野さんが当時のアームを分解して図面化してくれましたが、当時においても本当に苦労して調整していたというのがわかりました。
内野氏 実はWE-407/23の図面は一切残っていなかったので、まずオークションで実物を購入して分解し、図面を起こしました。さらにはエンジニアの協力を得て3D CAD化も進めました。その過程で、当時の加工精度の限界を補う意味があったのでしょう、いろんなところにシムとかワッシャーが入っていて、そういうもので調整していたことがわかりました。
ーー 苦労の跡ですね。
内野氏 相当苦労して作られてたのだろうと思います。
北澤氏 それが現在の内野精工さんの加工精度で製造すると、シムなど入れなくても必要な精度で組むことができるのです。当時の精度では、シムを入れたりネジのトルクを追い込んだりして調整していかないと、ちゃんとした動作は難しかったのです。通常のナイフエッジならいいのですが、ダブルだと上下から押さえるので、わずかでも誤差があると正常に動きません。
■WE-4700はオリジナルモデルからどのように進化したのか
ーー 今回、WE-4700をお持ちいただきましたが、仕様はすでに最終ですか?
北澤氏 はい、ほぼ決まってます。基本的には有効長も設置方法もWE-407/23と同じです。レコードの中心からアームの中心までの距離も同じ、アームパイプの太さも同じなので、極端に言えばかつてのWE-407/23をお持ちであればそれを抜いて、そのまま挿して使えます。実際にはベース部も改良しているので、ベースごと交換して欲しいのですけれども。
また、シェルも含めた対応カートリッジの重さは、2種類のウェイトで13〜35gに対応できます。
ーー ウェイトの仕様もオリジナルと同じですか?
北澤氏 はい、そのまま差し替えられます。ただ、厳密にいうと重さが違うので、目盛は合いませんが。
内野氏 オリジナルは2.5gまでの目盛ですが、今回は3gまで振っています。40年前とはトレンドが違うので、それも考慮して変更しています。