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「WE-407/23」が進化して復活

親子二代の縁が伝説のトーンアームを蘇らせた − サエク「WE-4700」の詳細をキーマンが語り尽くす

公開日 2019/03/15 06:00 聞き手・記事構成:山之内 正
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ーー ラテラルバランスやインサイドフォースキャンセラー、リフターなどの構造や位置関係も同じですか?

北澤氏 位置関係は一緒です。唯一違うのは、オリジナルはアームリフターの受けがアーム側についているのに対して、WE-4700では共振の問題も考慮して、受けをリフター側に付けています。

ーー どちらかというと、リフター側に受けがあるのが一般的ですよね。パイプの素材や仕上げ、ここはどうですか?

内野氏 パイプの素材はオリジナルとは若干異なりますが、特殊なアルミ合金を使用し、表面はブラストして硬質アルマイト処理を施しています。

ラテラルバランスやインサイドフォースキャンセラーの構造や位置関係もWE-407/23と同様。リフターのみ新規設計が行われた


加工精度の向上した現在だからこそできる仕様も

ーー トーンアームの共振は音質に大きな影響を与えるので、できるだけ抑えることが理想です。今回はその理想にかなり近付いているのでしょうか?

内野氏 その点についても工夫を行い、オリジナルモデルからの進化を実現しています。こちらのパーツ(下画像)はナイフエッジの下刃を支える“軸受け部”(ヨー・ベアリング軸)ですが、これがトーンアームの共振発生源になり得ます。音叉のような形をしていますが、ここに20Hzから20kHzの振動が乗ってきたときに、さまざまな振動モードが発生するのです。

ナイフエッジの下刃を支える“軸受け部”。オリジナルでは3つの部品から構成されていたが、WE-4700では一体成形されている

この振動モードについて、3D CADで部品ごとに応答特性を調べ、厚みなどを変えて共振点を下げるなどの工夫を行いました。結果、この“軸受け部”はオリジナルと比べるとだいぶ肉厚になっています。また、オリジナルの“軸受け部”は3つの部品で構成されていましたが、WE-4700では1つの部品になっています。

北澤氏 以前は1回で削り出すことができなかったので、縦と水平の部材を別に削り出して組み合わせていたのです。しかし、厳密にいうとそこで微小な誤差が出る可能性がありました。

内野氏 シャフトの部分も以前は別個の部品になっていて、ネジで嵌め込まれていました。今回、ナイフエッジの乗る部分とヨーベリアリングが入るベアリング軸受けのシャフトが一体になったことで、従来からは段違いの精度が実現できます。

ーー この音叉のようなかたちの軸受けを、シャフトの部分まで含めて削り出すことが難しいのは、容易に想像がつきます。

内野氏 大きな丸棒から複合旋盤で削り出して作るのですが、当社はこうした加工が得意なのです。オリジナルの精度は個体ごとに多少のばらつきがありましたが、WE-4700ではNCマシンによって高精度に加工できます。

ナイフエッジの下刃(左)とナイフエッジの軸受け部(右)

ーー 以前は使えなかった技術や工作機械が使えるいまだからこそできるというわけですね。精度が10倍になったという話も伺いましたが、具体的にはどういうことでしょうか?

内野氏 オリジナルのWE-407/23を分解して測定も行っているので断言できますが、この軸受け部も含めて、WE-4700における各パーツ形状の幾何公差的な精度は10倍というレベルで上がっています。

精度が上がったのは、構造の核となるナイフエッジ自体もです。オリジナルの上刃と下刃の高さを測定すると、設計上は同じ高さになるはずが、実際はわずかに寸法がずれていました。当社が用いる測定器では中心部を画像で投影的に確認でき、WE-4700ではナイフエッジの上刃と下刃の中心の高さ、左右の精度をミクロンオーダーで仕上げることができました。やはり当時のものと比べると実際に10倍ほど高精度になっています。

ーー 加工精度の向上は測定技術の向上とも関係がありますね。

内野氏 このナイフエッジの加工には、当時はフライスを使っていたのではないかと思います。いまは自動化されたNC機械を使うので1工程で済みます。加工の切削面を見ると、昔は旋盤で丸く削って違う機械で仕上げていたと推測できます。

ーー 僕らの世代だとレコードが身近な存在だったので、トーンアームを作るのにそれほどの苦労があったなんて意識しませんでしたが、当時はアナログ的に様々なノウハウを重ねて作っていたのですね。だからこそCD時代に移行した後、高精度なアームが作りにくくなってしまったのでしょう。

北澤氏 単純な機構なら作れるでしょうが、こういう凝った作りはなかなか難しかったと思います。

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