公開日 2020/01/16 06:40
ジョン・デイヴィス特別インタビュー
英メトロポリスのエンジニアが語ったマスタリングのトレンド。スマホやインスタ対応が必須に
本間孝男
イギリスのメトロポリス・スタジオはレコーディングやマスタリングなどの複合施設を持つヨーロッパ最大の独立系スタジオだ。創設以来約25年、クイーン、マイケル・ジャクソン、ローリング・ストーンズ、U2をはじめとする数多くのアーティストがここで音楽制作を行い、UKトップ40チャートの半数を占める曲には何らかの形で「メトロポリス」が関わっているとも言われている。
今回、エミー・ワインハウスやエド・シーランを手がけるスチュアート・ホークス、セックス・ピストルズを手がけたティム・ヤング、レッド・ツェッペリンの一連のリマスタリングを担当した一流エンジニアのジョン・ディヴィス氏が来日。特別インタビューで、いまの音楽業界やスタジオが抱える現状について、舌鋒鋭く問題点を炙り出してくれた。
■ロンドンにおけるマスタリングのトレンドは?
ーー来日は今回で何度目ですか?
ジョン・デイヴィス 今回が初めて。日本滞在をすごく楽しんでいるよ。昨日はマグロを丸ごと一匹食べた(笑)。食べ物も美味しい。日本に移り住みたいほど好きだね。
ーー 今日はカッティング・スタジオやミキシング・ルームを訪問してエンジニアと対談したそうですが、日本の音楽業界の印象はいかがですか?
ジョン・デイヴィス カルチャーがずいぶん違うなと感じた。ロンドンではマスタリングを頼んだ場合、サウンドを大きく変えることを期待する。色々いじって音を変えたり、押し出しを強くしたり。日本の場合は、エンジニアが音を大きく変えると悪く取られてしまうこともある。でも、もし俺に日本からオファーがあったら、安全路線のフラットなマスタリングではなく、色々いじる挑戦的なイギリス・スタイルでやるよ。結果は期待してもらっていい。
ーー英国ではマスタリングやカッティングに対する考え方や要望が日本とかなり違うのですね。
ジョン・デイヴィス ロンドンではアーティスト自身がミックスする場合も多い。ミキシング・エンジニアに頼んでいないので、その分マスタリング・エンジニアに負荷がかかってくる。ところで今日ソニーとユニバーサルを訪問したんだけど、働く環境もロンドンと違う。大きなフロアで皆が働いているんだけど、不思議に感じたのは音が鳴っていないんだ。すごく静か。誰も音楽をかけていない。こんなところもカルチャーが違うんだなって感じた。
ーーミキシング、マスタリング、ラッカーカッティング、リミキシングとさまざまなステップがありますが、それについてどう思っていますか。
ジョン・デイヴィス スタジオに要求されるいろんな工程があるけれど、今一番重要なのはインスタグラム向けのマスタリングだ。つまりスマホ向けのマスタリング。かつてはCDとヴァイナル(アナログ・レコード)の二つだけだったけど、今はそれに加えSpotify、Apple Music、TIDAL、そしてInstagramがある。
ーーインスタグラム用のマスタリングが流行りなんですか?
ジョン・デイヴィス インスタグラム用のマスタリングは流行りというよりトレンドだ。ほとんどの人がスマホを使ってイヤホンかヘッドホンで音楽を聴いている。デッカイ音にして低域を外すのがトレンド。エド・シーランなんか心を痛めているよ。音楽がボーカルとクラップ(手拍子)とベースラインだけになってしまうって。ベース、ドラム、キーボード、ギターのリズム隊を無視しているから、すべてがボーカルだけのアカペラだ。
ーーマスタリングが難しくなるんですか?
ジョン・デイヴィス 今まで通りのCD・アナログ用とHD(ハイレゾ)用の他に、インスタグラム用のマスターが必要になるから、マスターを2度作ることになる。俺には男の子が5人いるけど、もしボーカルの音量が低いと変に感じるみたい。
ーー子供向けを意識したマスタリングもあるのですね。
ジョン・デイヴィス ターゲットが18歳以下と18歳以上の場合とで、マスタリングのEQ(イコライズ)を変えている。18歳以下はダイナミックス(音の強弱)を忘れて音量を大きく、ブライトネス(高域)を上げる。18歳以上はダイナミックスとブライトネスは普通に。ま、50歳以上はどちらも必要ないかもしれないがね(笑)。
ーーサウンドをカッコよく仕上げればいいってものではないのですね。
ジョン・デイヴィス ゴルフのクラブを選択する時のように手段や方法に合わせなきゃ。サウンドをプロデューサーに合わせてエクセレントに仕上げても、子供達や若年層をスキップしているかもしれない。幸いなことに俺は子供達に囲まれているから、そんな危険性に気づきやすいだけ恵まれているかもしれないな。
ーーインスタグラム対応は容易なのですか?
ジョン・デイヴィス あるアーティストにインスタグラム向けにリマスターしてもらえますかと頼まれた時、やりますとは答えたものの、固まってしまった。帰ってから子供にどうマスタリングすればいいかって聞いてみた。答えは「父さん、イヤホンで聴いた時でかく聴こえりゃいいのさ」だってね。良い例が米国のHip Hopスター、ドレイクやケンドリック・ラマー。スーパーラウドでNOインスツルメント。ボーカルとキックだけ。サウンドはスマホにはグレイトにきまっている。ドレイクと同じ音量にするため、エド・シーランは色んなトラックを外して同じ音量になるように努力している。ちなみに近頃のレーベルのA&Rは、スマホを使ってサウンドチェックをしているって話だ。
ーー最近他にトレンドで目立つものはありますか。
ジョン・デイヴィス もう一つのトレンドは1曲の長さが2分になってきていること。コーラスで始まるとヴァース、コーラス、コーラスで終わる。2分の楽曲が25曲でアルバムになる。2分が何回もリピートされればカウントも上がって楽曲収入も多くなるし、全25曲だと登録や画面表示も有利だしね。Spotify、Apple Musicなんかのストリーミングの影響が大きい。
今回、エミー・ワインハウスやエド・シーランを手がけるスチュアート・ホークス、セックス・ピストルズを手がけたティム・ヤング、レッド・ツェッペリンの一連のリマスタリングを担当した一流エンジニアのジョン・ディヴィス氏が来日。特別インタビューで、いまの音楽業界やスタジオが抱える現状について、舌鋒鋭く問題点を炙り出してくれた。
■ロンドンにおけるマスタリングのトレンドは?
ーー来日は今回で何度目ですか?
ジョン・デイヴィス 今回が初めて。日本滞在をすごく楽しんでいるよ。昨日はマグロを丸ごと一匹食べた(笑)。食べ物も美味しい。日本に移り住みたいほど好きだね。
ーー 今日はカッティング・スタジオやミキシング・ルームを訪問してエンジニアと対談したそうですが、日本の音楽業界の印象はいかがですか?
ジョン・デイヴィス カルチャーがずいぶん違うなと感じた。ロンドンではマスタリングを頼んだ場合、サウンドを大きく変えることを期待する。色々いじって音を変えたり、押し出しを強くしたり。日本の場合は、エンジニアが音を大きく変えると悪く取られてしまうこともある。でも、もし俺に日本からオファーがあったら、安全路線のフラットなマスタリングではなく、色々いじる挑戦的なイギリス・スタイルでやるよ。結果は期待してもらっていい。
ーー英国ではマスタリングやカッティングに対する考え方や要望が日本とかなり違うのですね。
ジョン・デイヴィス ロンドンではアーティスト自身がミックスする場合も多い。ミキシング・エンジニアに頼んでいないので、その分マスタリング・エンジニアに負荷がかかってくる。ところで今日ソニーとユニバーサルを訪問したんだけど、働く環境もロンドンと違う。大きなフロアで皆が働いているんだけど、不思議に感じたのは音が鳴っていないんだ。すごく静か。誰も音楽をかけていない。こんなところもカルチャーが違うんだなって感じた。
ーーミキシング、マスタリング、ラッカーカッティング、リミキシングとさまざまなステップがありますが、それについてどう思っていますか。
ジョン・デイヴィス スタジオに要求されるいろんな工程があるけれど、今一番重要なのはインスタグラム向けのマスタリングだ。つまりスマホ向けのマスタリング。かつてはCDとヴァイナル(アナログ・レコード)の二つだけだったけど、今はそれに加えSpotify、Apple Music、TIDAL、そしてInstagramがある。
ーーインスタグラム用のマスタリングが流行りなんですか?
ジョン・デイヴィス インスタグラム用のマスタリングは流行りというよりトレンドだ。ほとんどの人がスマホを使ってイヤホンかヘッドホンで音楽を聴いている。デッカイ音にして低域を外すのがトレンド。エド・シーランなんか心を痛めているよ。音楽がボーカルとクラップ(手拍子)とベースラインだけになってしまうって。ベース、ドラム、キーボード、ギターのリズム隊を無視しているから、すべてがボーカルだけのアカペラだ。
ーーマスタリングが難しくなるんですか?
ジョン・デイヴィス 今まで通りのCD・アナログ用とHD(ハイレゾ)用の他に、インスタグラム用のマスターが必要になるから、マスターを2度作ることになる。俺には男の子が5人いるけど、もしボーカルの音量が低いと変に感じるみたい。
ーー子供向けを意識したマスタリングもあるのですね。
ジョン・デイヴィス ターゲットが18歳以下と18歳以上の場合とで、マスタリングのEQ(イコライズ)を変えている。18歳以下はダイナミックス(音の強弱)を忘れて音量を大きく、ブライトネス(高域)を上げる。18歳以上はダイナミックスとブライトネスは普通に。ま、50歳以上はどちらも必要ないかもしれないがね(笑)。
ーーサウンドをカッコよく仕上げればいいってものではないのですね。
ジョン・デイヴィス ゴルフのクラブを選択する時のように手段や方法に合わせなきゃ。サウンドをプロデューサーに合わせてエクセレントに仕上げても、子供達や若年層をスキップしているかもしれない。幸いなことに俺は子供達に囲まれているから、そんな危険性に気づきやすいだけ恵まれているかもしれないな。
ーーインスタグラム対応は容易なのですか?
ジョン・デイヴィス あるアーティストにインスタグラム向けにリマスターしてもらえますかと頼まれた時、やりますとは答えたものの、固まってしまった。帰ってから子供にどうマスタリングすればいいかって聞いてみた。答えは「父さん、イヤホンで聴いた時でかく聴こえりゃいいのさ」だってね。良い例が米国のHip Hopスター、ドレイクやケンドリック・ラマー。スーパーラウドでNOインスツルメント。ボーカルとキックだけ。サウンドはスマホにはグレイトにきまっている。ドレイクと同じ音量にするため、エド・シーランは色んなトラックを外して同じ音量になるように努力している。ちなみに近頃のレーベルのA&Rは、スマホを使ってサウンドチェックをしているって話だ。
ーー最近他にトレンドで目立つものはありますか。
ジョン・デイヴィス もう一つのトレンドは1曲の長さが2分になってきていること。コーラスで始まるとヴァース、コーラス、コーラスで終わる。2分の楽曲が25曲でアルバムになる。2分が何回もリピートされればカウントも上がって楽曲収入も多くなるし、全25曲だと登録や画面表示も有利だしね。Spotify、Apple Musicなんかのストリーミングの影響が大きい。