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公開日 2023/08/24 06:35
【特別企画】AXISS audio元社長にオンラインインタビュー

「エアータイトはなぜ世界で愛されるのか?」アメリカ&ドイツのディストリビューターに聞く

構成:ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈

エアータイトのアメリカ市場開拓に尽力したAXISS audio



世界でも高い評価を受ける国産アンプブランド、エアータイト(AIR TIGHT)。今年のミュンヘン・ハイエンド2023でも世界各国のディーラーやディストリビューター、そしてオーディオファンで賑わい、その音に耳を傾けていた。

2023年のミュンヘン・ハイエンドでのエアータイトブース。昨年と同じくドイツのスピーカーブランドWOLF VON LANGAと共同出展

エアータイトが世界で評価されるための礎を築いたキーパーソンの一人が、AXISS audio USAで長年社長を務めていたArturo Manzano(アートゥーロ・マンザーノ)さん(以下アートさん)である。「エアータイトはなぜ世界で愛されるのか」について、ミュンヘン・ハイエンドを終えたばかりのアートさんにオンラインインタビューで語っていただいた。

アートさん(下)にzoomにてオンラインインタビュー。左上は通訳としても参加してくれたエアータイト・2代目社長の三浦 裕さん

AXISS audioは、MSB technologyなどの輸入で知られる日本のアクシス(株)と深いつながりがある。1989年に、現・アクシス(株)社長の室井利夫さんが、アメリカでAxiss Distribution Inc.をスタート。アメリカのオーディオ製品の日本への輸入並びに日本製品のアメリカへの輸出、その双方のビジネスを手がけていた。

その後室井さんは日本市場に注力するために日本に帰国するが、その際に、AXISSのアメリカでのビジネスの権利をスタッフであったアートさんに売却した。アートさんはAxiss Distribution Inc.の社長に就任、それから30年以上に渡りアメリカのディストリビューターとして数多くの日本ブランドの展開をサポートしてきた(なお、その後社名をAXISS audioに変更、今年4月にAXISS audioの権利をCliff Duffeyさんに売却、現在は顧問という立場で関わっている)。

アートさん(奥)と、エアータイトブランドの創業者である三浦 篤さん(手前)

「AXISS audioでは、エアータイトの他に、Shelterのカートリッジなども手がけていました。他にもいくつかの日本のオーディオブランドを手がけていましたが、数年でなくなってしまった会社もあります。しかし、エアータイトは30年以上にも渡り、私の大きなビジネスのひとつでした」(アートさん)

エアータイトがアメリカ市場で高い評価を受けている理由について、アートさんはこう分析する。「エアータイトブランドのとても重要な点は3つあります。一つは回路基板やICチップなどを一切使わず、すべてハンドメイドで作られていることです。もうひとつは、すべてのパーツにおいて試聴を通じて吟味して最適なものを選び出し、製品に採用していることです。こういった細かな積み重ねが、エアータイトのキャラクターを生み出していると思います。そして3点目は、なによりもお客さんを第一に考えていることです」

プリント基板等を使わず、すべて手配線で組み上げることは、ブランド創業以来のポリシーのひとつ

単にビジネスをスケールアップすることを考えるのではなく、目の前のお客さん一人一人に丁寧に対応し続けること。それが結果的に、お客さんの心を掴んだのではないかとアートさんは振り返る。

「(エアータイト製品を開発・展開する)エイ・アンド・エムの創業者である三浦(篤)さんとは、仕事上の関係だけではなくて、個人的にもとても仲の良い友人でもありました。ただ製品を売るのではなく、『エアータイトと過ごす時間を売る』ことの大切さを教えてくれたのも三浦さんでした。本当に“生きた音楽”とはなんなのか、音楽をどのように聴きまた理解すれば良いのか、オーディオの聴き方そのものを教えてくれたと言っても良いでしょう」

エアータイトの工場を訪問するアートさん一行。2006年撮影

エアータイトのアンプには、人の心を揺さぶり感情を掻き立てる力がある、ということは、記者も製品試聴や国内外のオーディオショウでいつも感じることでもある。今年のミュンヘンハイエンドショウでも、せわしなく人が行き来するブースが大半を占める中で、エアータイトの部屋ではじっくり腰を据えて音楽に聴き入ってしまうお客さんが少なくなかった。それは取材で立ち寄った記者自身も同じで、まさに音楽と自分だけが相対し、心の弱い部分を包み込み癒してくれるような、特別な時間であったと記憶している。

エアータイトのモノラルパワーアンプ「ATM-3211」。3極管の艶やかさと、100Wの出力の両立を実現するフラグシップモデル

その印象を述べると、アートさんは「それは“禅のスタイル”に通じるものがあるかもしれません」と答えてくれた。三浦さんはかつて、アメリカやドイツのお客さんから「オーディオブッダ」と呼ばれていたこともあるのだという。エアータイトのアンプを前にしては、自分自身がそのまま曝け出されてしまうのかもしれない。国籍も人種も時代も超えて、オーディオはさまざまな人々と繋がり、共鳴できる可能性を秘めているということを改めて感じさせてくれた。

来日時には浅草での観光を楽しむことも

「音楽を聴くための道具」としてのオーディオというポリシー



アートさん自身がエアータイトのファンであることは、言葉の端々からも伝わってくる。「エアータイトの製品は音楽からさまざまな感情を引き出してくれますし、素晴らしい演奏に圧倒されることもあります。それもすべて、製品の作り手が思いを込めて製品を作り、お客さんに届けているからではないかと思います。音楽と製品に対する深い愛情があるからこそ、それが多くの人々に伝わっていくのではないでしょうか」

エアータイトの製品は、あくまで「音楽を聴くための道具である」ということは、エイ・アンド・エム2代目社長の三浦 裕さんも強調するブランドの本質だ。製品の全般的な価格上昇が著しい中で、「手を伸ばせば届く」価格での製品展開にこだわり続けているのも、そういった思いの表れと言えるかもしれない。

東京インターナショナルオーディオショウにて。三浦 裕さん(左)と篤さん、アートさん

アートさんはアメリカでのビジネスを成功させたのち、ドイツでもエアータイト製品を展開していこうと考え「AXISS Europe」を立ち上げた。こちらではエアータイトの他、Phasemation、由紀精密、クロスゾーンなどの日本のハイエンドオーディオブランドを取り扱っており、ドイツを中心にヨーロッパでも着実な成果を収めているという。

エアータイトは、今後さらにブランドのファンを増やすべく、世界各国のオーディオショウへの出展に力を入れている。前述の2代目社長・三浦 裕さんも、ミュンヘンはもとよりシカゴのAXPONA、北欧諸国、タイなどの東南アジア、南米と世界各国を飛び回り、現地のオーディオの市場動向やお客さんのスタイルを自身の目で確認し、納得した上でディストリビューターとの契約を結んでいる。目の前のお客さん一人一人を大切にする、というモットーは、ブランドの血肉として脈々と受け継がれているようだ。

シカゴ・AXPONAのエアータイトブース。パワーアンプ「ATM-3211」「ATM-2211」のほか、プリアンプ「ATC-7」フォノイコライザー「ATE-3011」なども展示する

アートさんに、最後に日本のオーディオファンへのメッセージをお願いした。「ぜひ家の近くのエアータイトを取り扱っているお店を訪問してください。リラックスして座り、ゆっくりと音楽を聴く、その時間を大切にしてください。好きな音楽を聴いて、音楽に込められた感情を受け取ってください。私が皆様にお願いしたいことはそれだけです」

(提供:エイ・アンド・エム)

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