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公開日 2023/06/15 11:42
安くてもいい音で楽しめる選択肢も大切

シンフォマージ(徳島市)、活力やくつろぎを与えてくれる音楽を表現豊かに愉しめるオーディオ製品を熱望

PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純

■ワクワクする製品に出会いたい



ホームオーディオとカーオーディオを手掛ける徳島市にある専門店「SymPhomagi(シンフォマージ)」。半導体や部品の問題による商品供給の遅れが指摘されているが、代表を務める小笠伸二氏は「カーの方は徐々に動きが戻りつつありますが、ホームの方はあまり元気がないですね。価格の値上がりも理解できなくはないですが、大変気にかかります。また、あえて厳しいことを言えば、新製品の魅力が薄れてきているのではないでしょうか。音楽を聴く道具として大切なものを失っているように思えてなりません」とオーディオメーカーを叱咤激励する。

シンフォマージ(徳島市佐古一番町11-5)。JR徳島駅から徒歩約10分、店舗面積は15坪、作業場は25坪

代表・小笠伸二氏

コロナ禍で買取りが増えるなど、最近、聴き直す機会が増えたという中古品を例に挙げ、「本当にワクワクしますね。期待を裏切らない個性で音楽を楽しませてくれます。懐かしさだけではなく、音楽の楽しみ方がそこにはあります」と魅力を語る。

「オーディオは装置の性能よりも、人の脳が感じる感覚と音の成分を分析することが大切。装置の性能向上は動的特性を中心に考えるべきだと言い続けてきました」と訴える小笠氏。オーディオファンの高齢化が進むなか、「現状のままでは、日本からオーディオファンが消えてしまいます。若い層にもオーディオ難民はいます。安くてもいい音で楽しみたいと思っているのに、選択肢はどんどん狭くなっています」と警鐘を鳴らす。

ホームオーディオのコーナー。小笠氏はオーディオを始められるお客様へ「音楽の表現力で外してはいけない重要項目がスピーカー選び。まずは反応の良い(初動感度の高い)スピーカーを手に入れることから始めてみてはいかがでしょうか」と呼びかける

内側の茶色のスピーカーはSymPhomagiのオリジナル。ヴィンテージ(GRUNDIG社)の20cmワイドレンジにウーファーとトゥイーターを追加した3ウェイの後面開放型。ヴィンテージの良さを生かしてワイドレンジ化したシステムだそうだ。お客様の要望に合わせたカスタムにも対応する

メーカーでエンジニアとしての経験を持つ小笠氏が、オーディオの専門店として1999年に創業したシンフォマージだが、「私の概念にオーディオにホームとかカーという区別はありません。ライフスタイルが変わり、家庭で聴くよりクルマで聴く時間の方が多くなる方が増え、いまではカーオーディオのお客様の方が多くなりました」と話す。

■カーオーディオだからこそ手にできる圧倒的な音圧



ホームオーディオとカーオーディオのお客様では、明らかな傾向の違いが見受けられるという。「本当に不思議なことですが、ホームから始められたお客様で、その後、カーにもはまってしまうお客様は結構いらっしゃるのですが、カーから始められたお客様で、ホームに興味を持たれる方はほとんどいないんですよ」。

その違いについて、「狭くていびつなクルマの空間に、あれこれ調整を施し、ダッシュボードの上に目指す音像をお客様とつくっていく。ステップアップごとに音楽表現が豊かになり、そこに面白さがあるから皆さんとても熱心なんです。ホームにだって今の若い人は興味がないわけではないし、飢えていると思いますが、あまり面白みが感じられないのではないでしょうか」と推測する。

純正システムに良質なトゥイーターを追加した2ウェイ。トゥイーターネットワークはその車で聴きながら組み上げるのでパッケージ商品とは別物の音を楽しめるという

大幅な加工を施した車両例。JBLの大口径30cm、ミッドにはコーラル、ハイにはパークオーディオなど往年の銘機を組み合わせた3ウェイ。販売後はお客様に委ねるホームオーディオとは違い、カスタム商品は取り付けた後に全車ネットワークやイコライザで音を整え納車するのでお客様の満足度が違うそうだ

カーオーディオだけでなく、家庭で楽しむオーディオにも関心をもってもらうため、ハードルを引き下げる導入モデルとして、ニアフィールドリスニングの提案も行っている。「最初から無理をしなくても、手が届く範囲に小さなスピーカーを置くだけでも十分にいい音を感じることができます」と体験を薦めている。しかし、ニアフィールドは緻密な音でモニターできる反面、エリアが狭く聴き方に制限が出てしまい、「リラックスして何かをしながら聴き流しても音楽が浸透してくるほどの空気感やグルーヴ感は得にくいのが難点で、生活には溶け込みにくい」と話す。

「カーオーディオがホームに対して圧倒的に優位な点のひとつは、狭い空間なので小音量でも音圧を体感できることです。同じくらいの音圧を家庭で体感しようとすれば、システム的にもそれなりの規模が必要になりますし、隣近所にも迷惑がかかります」。家庭でじっくりと音楽を聴ける時間が取れなくなったライフスタイルの変化もカーオーディオには追い風になっていると見ている。車なら移動しながらで聴くことができる。

しかし、取り巻く環境だけがホームオーディオが苦戦する要因ではなく、機器そのものにも課題を感じているという小笠氏。「現代のスピーカーやアンプはハイパワーが当たり前になりました。でも、家庭で収録現場と同じぐらいの再生音量で楽しめる方は少なく、小音量を余儀なくされてしまうのが現状でしょう。現代スピーカーの音はクリアで音量を上げても破綻しない優秀なものばかりですが、その分、小音量では表情が薄くなりがちです。スピーカー設計はシーソーのようなもので彼方立てれば此方が立たぬが起こります。昔のスピーカーには高感度な製品が多く小音量でも音楽表現が豊かで聴き手をワクワクさせてくれます。過ぎると個性を超えてキャラになるんですけども。そうしたスピーカーが少なくなってきました」と指摘する。

さらに、若い人の間ではイヤホンやヘッドホンで音楽を聴くことが主流となった。「私たちが本物と言っていたものが、今の世代では過去のものとなります。その人たちが育ってきた環境がその人の基準であり、本物であるということ。ヘッドホンで聴く音は分解能も高くてよいのですが、やはり空間の物足りなさは否めません」。

■スピーカーユニットは“耳と手”で試聴する



一方、若い人の間でも人気が高まっているというカーオーディオでは、「お客様に説明する際に、取り付けるスピーカーユニットの音を手で持って聴いて確認してもらっています」とユニークな取り組みを展開する。「箱に入っていないから、本来の実力は出ていないかも知れませんが、その代わり、箱の余分な音も出ていません」。

店の中ではヴィンテージを含めた数多くのスピーカーユニットが場所を占領する

お客様が目指す理想の音を目指し、ヴィンテージや中古も数多く取り揃えている

スピーカーの音について小笠氏は「人間って勝手だから、スピーカーユニットから出ている音はすべていい音だと思い込んでいます。しかし、実際には箱の中に出た音は反響で乱れ薄いコーン紙を透けて出てきます。それらすべてをまとめた音を聴いているわけです」と説明する。

手に持って聴くことで、「後ろの音は後ろに全部逃げていきますから、箱から解放されたユニットの“素の音”を聴くことができます。面白いのは、音に合わせた振動が手に伝わってくるため、お客様も慣れてくると振動の具合でユニットの癖が見えてくるんですよ。鈍い音のするスピーカーは振動も鈍い。一方、非常にレスポンスのいいユニットは手に伝わってくる振動が早く収束する。耳で聴きながら、手で感じながら、音を確かめられるんです」と狙いを語る。

気になるユニットはお客様に手で持ち試聴してもらう。ウーファーなどの大きなユニットはわきに抱えて覆うようにする。写真は小さなトゥイーターユニットを試聴されるお客様

最初に来られたお客様は、「これ持って」とスピーカーユニットを手渡されると皆びっくりするそうだ。正面から横向きに動かせば、「音がこんなに変わるんだ!」と指向性も確認できる。こうして、入門用として3万円くらいから、純正に少し手を加えていい音を目指すところからスタート。単に有名ブランドのパッケージ商品をポンと買うのではなく、耳と手で確認して選んでもらいユニットを組み上げていく。

■満足度を高めるアナログレコードの3つの要素



「老若男女を問わず、音楽を楽しむことは決して無くならないと思います。ホームオーディオに必要なのは、満足度を高められる商品。今、アナログレコードに勢いを感じますが、そこにあるのはやはり満足度ではないでしょうか」と若い人を巻き込んだ盛り上がりに注目する。

アナログレコード全盛期のターンテーブル(ビクター「TT-81」)を、独自に製作したキャビネットに組込み試聴機として使用している。「地方では若い時代に使った機器を倉庫に眠らせていることが多く、思い入れの機器がさらに良い音でよみがえるとカスタマイズを希望するお客様が多くいらっしゃいます」と好評だ。デザインやアームレイアウトも自由。もちろんカバーも製作できる

アナログレコードの面白さとして、小笠氏は「持つ」「見る」「聴く」の3つの要素を挙げた。「持つ」はレコードのジャケット。「きれいで立派で部屋に飾ることができ、所有欲を満たしてくれます」。「見る」は聴くまでの一連の所作。プレーヤーにレコードを載せ、ターンテーブルでレコードが回り、アームが動いて針がレコードの上に落ちて再生される。「動きを眺めながら音楽が聴けます。人間は動いているものに興味を惹かれますし、感情も入りやすい。ブラックボックスから音が出ているのとはわけが違います。親近感のような情も湧いてきます」。

店内にもレコードをじっくり聴けるスペースを設けている

そして、3つ目のキーワードは「聴く」。「レコードの音には音楽表現を豊かに感じさせる個性があります。何より次は何が流れてくるのか、どんな曲に出会えるのかと新譜を聴くときはワクワクしてきます」。

Conclusionのアンプ「A10SG Tube」。誰もが買えるハイエンド商品をコンセプトとしたブランドで、「“ハイエンド=高音質=高額商品”を打ち壊す、日本人の聴き方にもマッチした商品」と注目する

スピーカーは島津model-1-1の廉価版にあたるConclusion「C-SP615」に注目

これから先のホームオーディオを見据え、「スマートフォンでは終わらせないぞという気概を感じさせる、音楽表現豊かな商品の登場を待ち望んでいます。非常に高額なブランドの商品を持つ満足感ももちろんありますが、一般的な日本の住宅事情に合う、小ぶりな機器でも所有欲を満たす個性的な機器、手頃な値段でも音楽が存分に楽しめものがもっと必要です」とオーディオメーカーの奮起に期待を寄せる。

「音楽は活力やくつろぎを与えてくれるもの。音楽をより深く愉しませてくれる感性に響く音を、これまでに蓄積したノウハウと熱意で提案して参ります」と力を込めた。

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