公開日 2023/07/24 12:39
AV Kansai&ジパング&イングラフがバックアップ
<カーオーディオニュース>DSPの追い込みこそ音質の肝。ユーザー主体の勉強会をレポート
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
進化の著しいカーオーディオのDSPの使いこなしについて学ぼうという合宿勉強会が、7月1日(土)と2日(日)に岡山県真庭市の湯原温泉「森のホテル ロシュフォール」にて開催された。
この勉強会は、DSPの使いこなしに課題を感じていたカーオーディオファンの竹松正彦さんが発起人となり、西日本の有力ショップAV Kansaiとジパングの協力によって実現したもの。この2店舗でカーオーディオを追求している20名強のユーザーが参加し、AV Kansaiの岩元秀明さんとジパングの道祖尾裕二さん、それにゲストとして青森県・イングラフの木村さんが講師として参加し、DSPのセットアップから具体的なセッティング方法までを実践を通じて学んだ。
カーオーディオにおけるDSPは近年進化の著しい製品ジャンルであり、音質の次元をさらにひとつ高めるものとして注目されている。audisonの「bit One」が日本市場でヒットを飛ばしたのち、BRAXとHELIXのDSPが市場を拡大、さらに今年に入ってロシアのRESOLUTというブランドも高価格ながらアナログ的な音質の豊穣さで注目を集めている。今回の参加者もそのいずれかのDSPを搭載している場合がほとんどだった。
DSPは単なるハードウェアではなく、パソコン用のソフトウェアの細かい設定が鍵となる。複数のスピーカーユニット(2ウェイや3ウェイ+サブウーファー)について、専用ソフトウェアでタイムアライメントやクロスオーバー、イコライザーなどを細かく調整することで、音質を追求することができるようになっている。
基本的にDSPのセットアップはショップの専門スタッフが行うことが多いが、Windows PCがひとつあれば、ユーザー自身の手でさらに追い込むことができる。この勉強会も、センター定位はどのようにすれば実現できるのか、あるいは自然なステージングの再現方法を学ぶことで、ユーザーのスキルアップを図るとともに、市場全体も活性化させたい、という願いを込めて開催されたものとなる。
初日の午前中は「座学」の時間。岩元さんは「感性」による音作り、道祖尾さんは「理論」による音作りというテーマでそれぞれのチューニングにおける基本的な考え方を解説する。
岩元さんは、「カーオーディオでは、そのままだと低域と高域が出過ぎる、いわゆるドンシャリと言われるサウンドになってしまうことがあります。それを人間の耳にとって理想的な周波数特性にするために、クロスオーバーをどのように設定するかが一番重要なポイントです」と問題提起。音を漫然と聴くのではなく、その音がどのような周波数特性を持っているのかということを脳内で「映像化」しながら分析的に聴くことの重要性を強調する。
道祖尾さんは音の三要素として「音の高低(周波数特性)」「ボリューム」「音色」の3つを上げながら、波としての音の物理的な要素を解説。なぜ左右スピーカーを活用することでステレオイメージを構成できるのか、正相/逆相の位相のズレはなぜ起こるのかといった音の物理的な特徴について、ホワイトボードに図を書きながら分かりやすく解説していく。
今回の勉強会は、「DSPをすでにある程度使い込んでいる人」から「今日始めてPCにソフトをインストールする人」まで、さまざまなレベルの参加者が集まっていた。そのため、ある程度使える人をリーダーにして5つのチームに分け、お互いわからない点をサポートし合いながら使い方を学ぶ、どうしても困ってしまう点は3名の講師にアドバイスを貰う、という流れで進められた。
1日目の午後は5台の「教習車」を用意してチームごとに知恵を出し合ってDSPをセットアップ。講師に聴いてもらって課題となる点を洗い出し、さらにセッティングを追求していく、という流れで進行。あいにくの雨模様であったが、「クロスオーバー周波数やロールオフを変えるとどう音が変わるのか」ということを、実際に聴き比べながら追求する楽しさに参加者はすっかり夢中に。深夜まで設定の追い込みや熱いオーディオ討論が繰り広げられた。
2日目は、前日に学んだことを実際に活かすべく、朝から自身の車のDSPのセットアップにチャレンジ。ショップが設定したDSPの数値を一旦リセットし、一からの調整を行っていくことになる。
ただしいくつか注意点もあり、たとえばトゥイーターに高域以外の成分を入力すると壊れてしまう可能性がある。DSPが国内に導入された当初は、そんな事故も多発したそうだ。そういった「絶対に間違えてはいけないポイント」は講師や先輩から教わりながら、どこをどう変えると音に影響が出るのかを確認しながらチューニングを行って言う。
課題曲にはダイアナ・パントンの「イエスタデイ」と、ドゥダメル&ロサンゼルス・フィルの「交響曲第9番」の第3楽章を準備。いずれも今年9月16日、17日に開催されるハイエンドカーオーディオコンテストの課題曲であり、「コンテストで勝てる」DSPの使いこなしを知りたいと参加者たちの目にも闘志がみなぎる。
記者もトライム(株)のデモカーを使わせてもらって、初のDSPセットアップにトライしてみた。トゥイーターは危険なのでこちらは固定とし、左右ミッドハイ、左右ミッドロー、サブウーファーの5ch分について、audisonの専用ソフトウェアを触らせてもらった。試聴位置から各ユニットへの距離は設定済みのため、実際の聴感を頼りに、ダッシュボードの中央にヴォーカルのセンターが来るように調整をしてみる…が…。
岩元さんのアドバイスによると、「最初はクロスオーバーの設定値やロールオフの数値などを思いっきり変えてみて、どう変わるかを体感してください」。ということで色々いじり回してみると、確かに聴こえ方が全く変わってくる。“なんだか右に寄ってるな”だとか、“すごくのっぺりしているな”といった課題は見いだせるが、それをどういじればどう変化するのか、なかなか掴みきれない。
クラシックの冒頭10秒ほどについて、ちょこちょこ弄っては聴く、を繰り返しているうちに、だんだん頭がこんがらがってきた。そういえば昨日の座学の時間でも、岩元さんが「あんまり連続してやっても意味がありません」と言っていたことを思い出す。ということで、心残りがたっぷりありながらも30分ほどで脱落…。
イングラフの木村さんにセッティングのコツについて聞くと、「何時間も続けてやっても良くはならないので、1回につき5分聴いては修正する、というのを毎日繰り返すことです。ある程度出来上がったなと思ったら、スマホでもいじりながらぼーっと聴くんです。その時“違和感”を感じたポイントがあったら、その点についてさらに重点的に追い込んでいきます」とのこと。
参加者も皆自身の車のセッティングを追い込み、分からなくなったら休憩し、他の参加者の車の音を聴いて頭をリセットして、またセッティングに戻り、と思い思いのスタイルで学びを深めていく。パソコンを開くところからおっかなびっくりだった参加者も、気づけばすっかり音の変化に夢中になっていた様子だった。
三菱デリカで参加した近藤さんのセッティングは、自身が「今回のテーマは成長です」と語るとおり、午前中はやや散漫な音だったのが、午後になってくるとだんだん“ステージング”が出来上がってくるのが分かった。またBMWをチューニングする高橋さんは、「基本的なセッティングは掴めてきたので、さらに陰影感を出すにはどうしたらいいのか知りたい」と次なるステップアップに意欲を燃やしていた。
また金澤さんは「普段お世話になっているショップの人とは違う人からアドバイスをもらえることで、セッティングに関する自分の引き出しを増やすことができました」と、ショップ横断の勉強会だからこそ大きな収穫が得られたと語る。
16時過ぎには終了して、参加者がお互いに全台を試聴、さまざまに意見を交換しあい今後の課題を見つけていく。チーム対抗で「このチームの車が良かった」と投票を行い、優勝したチームにはロゴ入りTシャツなどメーカー提供のグッズがプレゼントされた。
主催スタッフも、ユーザー自身でDSPのセッティングを調整するという試み自体が画期的なもので、どうなるか検討もつかないという不安もあったというが、実際には「こういう勉強会にはまた参加したい」という声も多く聞こえてきた。
カーオーディオは取り付けたら終了ではなく、そこからさらに音質を追い込んでいく楽しみが広がる。「ここで学んだことを忘れずに、ぜひ自宅に帰ってからもまたやってみてください」と岩元さんも呼びかける。勉強会と言いながらも決して堅苦しくない、皆で楽しみながら学びを深めていくことができるのもまた、カーオーディオ文化の豊かさであると感じさせてくれた。
この勉強会は、DSPの使いこなしに課題を感じていたカーオーディオファンの竹松正彦さんが発起人となり、西日本の有力ショップAV Kansaiとジパングの協力によって実現したもの。この2店舗でカーオーディオを追求している20名強のユーザーが参加し、AV Kansaiの岩元秀明さんとジパングの道祖尾裕二さん、それにゲストとして青森県・イングラフの木村さんが講師として参加し、DSPのセットアップから具体的なセッティング方法までを実践を通じて学んだ。
カーオーディオにおけるDSPは近年進化の著しい製品ジャンルであり、音質の次元をさらにひとつ高めるものとして注目されている。audisonの「bit One」が日本市場でヒットを飛ばしたのち、BRAXとHELIXのDSPが市場を拡大、さらに今年に入ってロシアのRESOLUTというブランドも高価格ながらアナログ的な音質の豊穣さで注目を集めている。今回の参加者もそのいずれかのDSPを搭載している場合がほとんどだった。
DSPは単なるハードウェアではなく、パソコン用のソフトウェアの細かい設定が鍵となる。複数のスピーカーユニット(2ウェイや3ウェイ+サブウーファー)について、専用ソフトウェアでタイムアライメントやクロスオーバー、イコライザーなどを細かく調整することで、音質を追求することができるようになっている。
基本的にDSPのセットアップはショップの専門スタッフが行うことが多いが、Windows PCがひとつあれば、ユーザー自身の手でさらに追い込むことができる。この勉強会も、センター定位はどのようにすれば実現できるのか、あるいは自然なステージングの再現方法を学ぶことで、ユーザーのスキルアップを図るとともに、市場全体も活性化させたい、という願いを込めて開催されたものとなる。
初日の午前中は「座学」の時間。岩元さんは「感性」による音作り、道祖尾さんは「理論」による音作りというテーマでそれぞれのチューニングにおける基本的な考え方を解説する。
岩元さんは、「カーオーディオでは、そのままだと低域と高域が出過ぎる、いわゆるドンシャリと言われるサウンドになってしまうことがあります。それを人間の耳にとって理想的な周波数特性にするために、クロスオーバーをどのように設定するかが一番重要なポイントです」と問題提起。音を漫然と聴くのではなく、その音がどのような周波数特性を持っているのかということを脳内で「映像化」しながら分析的に聴くことの重要性を強調する。
道祖尾さんは音の三要素として「音の高低(周波数特性)」「ボリューム」「音色」の3つを上げながら、波としての音の物理的な要素を解説。なぜ左右スピーカーを活用することでステレオイメージを構成できるのか、正相/逆相の位相のズレはなぜ起こるのかといった音の物理的な特徴について、ホワイトボードに図を書きながら分かりやすく解説していく。
今回の勉強会は、「DSPをすでにある程度使い込んでいる人」から「今日始めてPCにソフトをインストールする人」まで、さまざまなレベルの参加者が集まっていた。そのため、ある程度使える人をリーダーにして5つのチームに分け、お互いわからない点をサポートし合いながら使い方を学ぶ、どうしても困ってしまう点は3名の講師にアドバイスを貰う、という流れで進められた。
1日目の午後は5台の「教習車」を用意してチームごとに知恵を出し合ってDSPをセットアップ。講師に聴いてもらって課題となる点を洗い出し、さらにセッティングを追求していく、という流れで進行。あいにくの雨模様であったが、「クロスオーバー周波数やロールオフを変えるとどう音が変わるのか」ということを、実際に聴き比べながら追求する楽しさに参加者はすっかり夢中に。深夜まで設定の追い込みや熱いオーディオ討論が繰り広げられた。
2日目は、前日に学んだことを実際に活かすべく、朝から自身の車のDSPのセットアップにチャレンジ。ショップが設定したDSPの数値を一旦リセットし、一からの調整を行っていくことになる。
ただしいくつか注意点もあり、たとえばトゥイーターに高域以外の成分を入力すると壊れてしまう可能性がある。DSPが国内に導入された当初は、そんな事故も多発したそうだ。そういった「絶対に間違えてはいけないポイント」は講師や先輩から教わりながら、どこをどう変えると音に影響が出るのかを確認しながらチューニングを行って言う。
課題曲にはダイアナ・パントンの「イエスタデイ」と、ドゥダメル&ロサンゼルス・フィルの「交響曲第9番」の第3楽章を準備。いずれも今年9月16日、17日に開催されるハイエンドカーオーディオコンテストの課題曲であり、「コンテストで勝てる」DSPの使いこなしを知りたいと参加者たちの目にも闘志がみなぎる。
記者もトライム(株)のデモカーを使わせてもらって、初のDSPセットアップにトライしてみた。トゥイーターは危険なのでこちらは固定とし、左右ミッドハイ、左右ミッドロー、サブウーファーの5ch分について、audisonの専用ソフトウェアを触らせてもらった。試聴位置から各ユニットへの距離は設定済みのため、実際の聴感を頼りに、ダッシュボードの中央にヴォーカルのセンターが来るように調整をしてみる…が…。
岩元さんのアドバイスによると、「最初はクロスオーバーの設定値やロールオフの数値などを思いっきり変えてみて、どう変わるかを体感してください」。ということで色々いじり回してみると、確かに聴こえ方が全く変わってくる。“なんだか右に寄ってるな”だとか、“すごくのっぺりしているな”といった課題は見いだせるが、それをどういじればどう変化するのか、なかなか掴みきれない。
クラシックの冒頭10秒ほどについて、ちょこちょこ弄っては聴く、を繰り返しているうちに、だんだん頭がこんがらがってきた。そういえば昨日の座学の時間でも、岩元さんが「あんまり連続してやっても意味がありません」と言っていたことを思い出す。ということで、心残りがたっぷりありながらも30分ほどで脱落…。
イングラフの木村さんにセッティングのコツについて聞くと、「何時間も続けてやっても良くはならないので、1回につき5分聴いては修正する、というのを毎日繰り返すことです。ある程度出来上がったなと思ったら、スマホでもいじりながらぼーっと聴くんです。その時“違和感”を感じたポイントがあったら、その点についてさらに重点的に追い込んでいきます」とのこと。
参加者も皆自身の車のセッティングを追い込み、分からなくなったら休憩し、他の参加者の車の音を聴いて頭をリセットして、またセッティングに戻り、と思い思いのスタイルで学びを深めていく。パソコンを開くところからおっかなびっくりだった参加者も、気づけばすっかり音の変化に夢中になっていた様子だった。
三菱デリカで参加した近藤さんのセッティングは、自身が「今回のテーマは成長です」と語るとおり、午前中はやや散漫な音だったのが、午後になってくるとだんだん“ステージング”が出来上がってくるのが分かった。またBMWをチューニングする高橋さんは、「基本的なセッティングは掴めてきたので、さらに陰影感を出すにはどうしたらいいのか知りたい」と次なるステップアップに意欲を燃やしていた。
また金澤さんは「普段お世話になっているショップの人とは違う人からアドバイスをもらえることで、セッティングに関する自分の引き出しを増やすことができました」と、ショップ横断の勉強会だからこそ大きな収穫が得られたと語る。
16時過ぎには終了して、参加者がお互いに全台を試聴、さまざまに意見を交換しあい今後の課題を見つけていく。チーム対抗で「このチームの車が良かった」と投票を行い、優勝したチームにはロゴ入りTシャツなどメーカー提供のグッズがプレゼントされた。
主催スタッフも、ユーザー自身でDSPのセッティングを調整するという試み自体が画期的なもので、どうなるか検討もつかないという不安もあったというが、実際には「こういう勉強会にはまた参加したい」という声も多く聞こえてきた。
カーオーディオは取り付けたら終了ではなく、そこからさらに音質を追い込んでいく楽しみが広がる。「ここで学んだことを忘れずに、ぜひ自宅に帰ってからもまたやってみてください」と岩元さんも呼びかける。勉強会と言いながらも決して堅苦しくない、皆で楽しみながら学びを深めていくことができるのもまた、カーオーディオ文化の豊かさであると感じさせてくれた。
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