ニュース
HOME > ニュース > AV&ホームシアターニュース
公開日 2017/10/19 15:00
振動板を空気の層の摩擦でコントロール
final、AFDS技術搭載の平面磁界型ヘッドホン「D8000」 ー 約39万円、11月30日発売
編集部:小澤貴信
S'NEXT(株)は、finalブランドより、AFDS技術搭載の平面磁界型ヘッドホン「D8000」を11月30日から発売する。価格はオープンだが、388,000円前後での実売を想定する。
本日、同社は製品発表会を開催。代表取締役社長である細尾 満氏がプレゼンテーションを行ったほか、本機の開発に関わった他社の開発陣もゲストとして登場。NHラボ社のメンバーに加えて、以前の技術発表会では「大手X」と表現されていた企業がヤマハであることが明かされ、同社のエンジニアも登場した。
「D8000」は、新開発の「Air Film Damping System(エアフィルムダンピングシステム、以下AFDS)」技術を搭載した平面磁界型ヘッドホン。
AFDSは、振動板を高精度な開口を持つパンチングメタルで挟み、振動板とパンチングメタルの間にある薄い空気の層(エアフィルム)の摩擦をコントロールする事で振動板を制動する仕組み。同社は2017年4月に開催されたヘッドホン祭にて技術発表を行っている(関連ニュース)。
従来の平面磁界型では優れた中高域の繊細さは保ちつつも、振幅が大きくなる低域においては振動板がマグネットに当たってしまい、十分な再現性が得にくい点があったという。D8000ではAFDS技術を用いることで、高域特性へ影響せず、ダイナミック型の量感と開放感ある低域も両立させることが可能としている。AFDSの詳細については後述する。
ヘッドホンのフレーム部の素材には、アルミ・マグネシウム合金を使用。ヘッドホンを軽量するために限界までフレームを削った結果として、このデザインに仕上がったという。また、ハウジングにはシボ加工塗装を施している。これは高級カメラにインスパイアされたもので、有名カメラの塗装も手がけているドイツ企業に委託して塗装を行ったという。
ヘッドホンのほぼ全てのパーツはネジで接合されており、修理のための分解や部品交換ができることも特徴。細尾氏は「ヘッドホンやイヤホンはオーディオ製品の“アクセサリー”として、使い捨てするもののように認知されてきた。finalではヘッドホンを、カメラや機械式時計のようにリセールバリューのあるものにしたいと考えています。そのためには修理ができ、さらにはアップグレードやカスタマイズできるようにする必要があります。そこで分解して修理も可能な構成を採用したのです」と説明していた。
着脱式の新開発ヘッドホンケーブルを採用し、長さ1.5m/3.5mmミニプラグ装備と、長さ3m/6.3mm標準プラグ装備の2種類を同梱する。なお、同社純正のシルバー素材ケーブルもオプションで登場予定。バランス端子採用など5種類をラインナップ予定だという。
本機にはアルミ切削によるヘッドホンスタンドが同梱される。インピーダンスは60Ω、感度は98dB/mW。質量は523g。
■“空気の膜”で振動板の動きをダンピングするAFDS
細尾氏はD8000で狙ったサウンドについて「従来の平面磁界型ヘッドホンは、繊細な高域再生が可能な一方で、どこか物足りなさを感じた。D8000では平面磁界型ならではの繊細な表現に、ダイナミック型のような開放感と量感のある低音を併せ持たせることを狙った」と説明していた。
本機の中核技術となるのが「AFDS」(Air Film Damping System)だ。このAFDSでは、平面磁界型ヘッドホンで問題となる振動板のダンピングに「薄流体層」の原理を応用。振動板がマグネットに接触することを回避しつつ、高域再現を犠牲にせず豊かな低域再現や開放感を実現することができる。
これまでの平面磁界型ヘッドホンの多くはその特性上、振動板がマグネットに接触するのを避けるため、f0(最低共振周波数。低域の再生限界とほぼ同意)を高く設定せざるを得なかったという。結果として、低音を引き出すためにイヤーパッドを密閉構造にして弾性制御して、いわば“見せかけの低域”で低音を稼ぐ必要があった。そのため、平面磁界型ヘッドホンでは低域が出しにくいだけでなく、低域再現において開放感を得ることが難しかった。
また、この問題を回避するためにダンピング材や吸音材を用いたために、平面磁界型ヘッドホン本来の開放的なサウンドが失われてしまったり、原理的には軽量化できるはずが本体が重くなってしまうといった問題もあった。
そこでfinalは、ソニーにおいてCD開発に関わったことでも知られ、現在はNHラボ社の代表を務める中島平太郎氏のアイデアを得て、「薄流体層」の原理を用いたAFDSを開発。これは振動板とマグネットの間に薄流体層による抵抗成分(これがAir Filmにあたる)を配置することで、振動板の動きを損なうことなく磁石に触れないようにダンピングを行い、結果としてf0を低く設定して自然な低音が低音再現を実現するというものだ。
このAFDSの要となるのが、コイルをエッチングした振動板とその両サイドのマグネットの間に配置されたパンチングメタル。高精度な加工でパンチングメタルの穴のサイズを調整することで、薄流体層による抵抗成分を最適に調整することができる。
薄流体層とは空気の流れによってできる抵抗ともいうべきもの。この抵抗で振動板の動きにダンピングをかける。下敷きを机などの上に落とすと着地した後に滑るのは、薄流体層の働きによるものだ。
薄流体層によって抵抗成分をつくるというアイデアは、中島氏がソニー時代にコンデンサーマイクの開発において実際に行ったもの。細尾氏ら開発チームがD8000のサウンドの追求に限界を感じていたとき、中島氏がこの薄流体層の原理を使うアイデアを提案したのだという。
■ヘッドホンが目指すべき周波数特性も再検討
D8000の開発においては、そもそもヘッドホンが理想とするべき周波数特性についても見直しを行った。ヘッドホンでフラットな周波数特性を実現しても、外耳/内耳の影響などにより鼓膜に届く音はフラットではなくなってしまう。そこで音響工学の専門家の協力も得て、周波数のターゲットカーブの見直しを行い、聴感がフラットだと捉えることのできる特性を実現させたという。
アルミエッチングコイルを一体型とした振動板についても言及された。振動板のフィルムの厚さは12ミクロンで、ダイナミック型振動板の25ミクロンに比べてほぼ半分の薄さとなる。コイルを含めても質量はダイナミック型振動板の1/3程度。細尾氏は「振動板は軽量であれば軽量であるほど良い。軽い振動板にしか出せない音がある」と説明していた。
■NHラボに加えて、ヤマハの協力も得て開発
発表会には、S'NEXTの顧問でありカートリッジ開発でも知られる森芳久氏、同社技術部長である谷口晶一氏、ヤマハ(株)の音響開発統括部 AV開発部 旭保彦氏、NHラボ(株)高田寛太郎氏、瓜生 勝氏がゲストとして登場した。
細尾氏は、D8000を開発するにあたり、ヤマハが70年代後半に手がけた平面磁界型ヘッドホンの銘機「HP-1」から強く影響を受けたという。一方でヤマハの旭氏は、同社のヘッドホン復活にあたってHP-1のルーツを辿りたいと考えていたという。そうしたタイミングで細尾氏からD8000開発の話を聞き、旭氏は開発への参加を決意したという。結果として、ヤマハの技術部隊がこのD8000の開発をバックアップすることになった。D8000開発においては、ヤマハが持つ高度な測定技術が不可欠だったと細尾氏は話していた。
本日、同社は製品発表会を開催。代表取締役社長である細尾 満氏がプレゼンテーションを行ったほか、本機の開発に関わった他社の開発陣もゲストとして登場。NHラボ社のメンバーに加えて、以前の技術発表会では「大手X」と表現されていた企業がヤマハであることが明かされ、同社のエンジニアも登場した。
「D8000」は、新開発の「Air Film Damping System(エアフィルムダンピングシステム、以下AFDS)」技術を搭載した平面磁界型ヘッドホン。
AFDSは、振動板を高精度な開口を持つパンチングメタルで挟み、振動板とパンチングメタルの間にある薄い空気の層(エアフィルム)の摩擦をコントロールする事で振動板を制動する仕組み。同社は2017年4月に開催されたヘッドホン祭にて技術発表を行っている(関連ニュース)。
従来の平面磁界型では優れた中高域の繊細さは保ちつつも、振幅が大きくなる低域においては振動板がマグネットに当たってしまい、十分な再現性が得にくい点があったという。D8000ではAFDS技術を用いることで、高域特性へ影響せず、ダイナミック型の量感と開放感ある低域も両立させることが可能としている。AFDSの詳細については後述する。
ヘッドホンのフレーム部の素材には、アルミ・マグネシウム合金を使用。ヘッドホンを軽量するために限界までフレームを削った結果として、このデザインに仕上がったという。また、ハウジングにはシボ加工塗装を施している。これは高級カメラにインスパイアされたもので、有名カメラの塗装も手がけているドイツ企業に委託して塗装を行ったという。
ヘッドホンのほぼ全てのパーツはネジで接合されており、修理のための分解や部品交換ができることも特徴。細尾氏は「ヘッドホンやイヤホンはオーディオ製品の“アクセサリー”として、使い捨てするもののように認知されてきた。finalではヘッドホンを、カメラや機械式時計のようにリセールバリューのあるものにしたいと考えています。そのためには修理ができ、さらにはアップグレードやカスタマイズできるようにする必要があります。そこで分解して修理も可能な構成を採用したのです」と説明していた。
着脱式の新開発ヘッドホンケーブルを採用し、長さ1.5m/3.5mmミニプラグ装備と、長さ3m/6.3mm標準プラグ装備の2種類を同梱する。なお、同社純正のシルバー素材ケーブルもオプションで登場予定。バランス端子採用など5種類をラインナップ予定だという。
本機にはアルミ切削によるヘッドホンスタンドが同梱される。インピーダンスは60Ω、感度は98dB/mW。質量は523g。
■“空気の膜”で振動板の動きをダンピングするAFDS
細尾氏はD8000で狙ったサウンドについて「従来の平面磁界型ヘッドホンは、繊細な高域再生が可能な一方で、どこか物足りなさを感じた。D8000では平面磁界型ならではの繊細な表現に、ダイナミック型のような開放感と量感のある低音を併せ持たせることを狙った」と説明していた。
本機の中核技術となるのが「AFDS」(Air Film Damping System)だ。このAFDSでは、平面磁界型ヘッドホンで問題となる振動板のダンピングに「薄流体層」の原理を応用。振動板がマグネットに接触することを回避しつつ、高域再現を犠牲にせず豊かな低域再現や開放感を実現することができる。
これまでの平面磁界型ヘッドホンの多くはその特性上、振動板がマグネットに接触するのを避けるため、f0(最低共振周波数。低域の再生限界とほぼ同意)を高く設定せざるを得なかったという。結果として、低音を引き出すためにイヤーパッドを密閉構造にして弾性制御して、いわば“見せかけの低域”で低音を稼ぐ必要があった。そのため、平面磁界型ヘッドホンでは低域が出しにくいだけでなく、低域再現において開放感を得ることが難しかった。
また、この問題を回避するためにダンピング材や吸音材を用いたために、平面磁界型ヘッドホン本来の開放的なサウンドが失われてしまったり、原理的には軽量化できるはずが本体が重くなってしまうといった問題もあった。
そこでfinalは、ソニーにおいてCD開発に関わったことでも知られ、現在はNHラボ社の代表を務める中島平太郎氏のアイデアを得て、「薄流体層」の原理を用いたAFDSを開発。これは振動板とマグネットの間に薄流体層による抵抗成分(これがAir Filmにあたる)を配置することで、振動板の動きを損なうことなく磁石に触れないようにダンピングを行い、結果としてf0を低く設定して自然な低音が低音再現を実現するというものだ。
このAFDSの要となるのが、コイルをエッチングした振動板とその両サイドのマグネットの間に配置されたパンチングメタル。高精度な加工でパンチングメタルの穴のサイズを調整することで、薄流体層による抵抗成分を最適に調整することができる。
薄流体層とは空気の流れによってできる抵抗ともいうべきもの。この抵抗で振動板の動きにダンピングをかける。下敷きを机などの上に落とすと着地した後に滑るのは、薄流体層の働きによるものだ。
薄流体層によって抵抗成分をつくるというアイデアは、中島氏がソニー時代にコンデンサーマイクの開発において実際に行ったもの。細尾氏ら開発チームがD8000のサウンドの追求に限界を感じていたとき、中島氏がこの薄流体層の原理を使うアイデアを提案したのだという。
■ヘッドホンが目指すべき周波数特性も再検討
D8000の開発においては、そもそもヘッドホンが理想とするべき周波数特性についても見直しを行った。ヘッドホンでフラットな周波数特性を実現しても、外耳/内耳の影響などにより鼓膜に届く音はフラットではなくなってしまう。そこで音響工学の専門家の協力も得て、周波数のターゲットカーブの見直しを行い、聴感がフラットだと捉えることのできる特性を実現させたという。
アルミエッチングコイルを一体型とした振動板についても言及された。振動板のフィルムの厚さは12ミクロンで、ダイナミック型振動板の25ミクロンに比べてほぼ半分の薄さとなる。コイルを含めても質量はダイナミック型振動板の1/3程度。細尾氏は「振動板は軽量であれば軽量であるほど良い。軽い振動板にしか出せない音がある」と説明していた。
■NHラボに加えて、ヤマハの協力も得て開発
発表会には、S'NEXTの顧問でありカートリッジ開発でも知られる森芳久氏、同社技術部長である谷口晶一氏、ヤマハ(株)の音響開発統括部 AV開発部 旭保彦氏、NHラボ(株)高田寛太郎氏、瓜生 勝氏がゲストとして登場した。
細尾氏は、D8000を開発するにあたり、ヤマハが70年代後半に手がけた平面磁界型ヘッドホンの銘機「HP-1」から強く影響を受けたという。一方でヤマハの旭氏は、同社のヘッドホン復活にあたってHP-1のルーツを辿りたいと考えていたという。そうしたタイミングで細尾氏からD8000開発の話を聞き、旭氏は開発への参加を決意したという。結果として、ヤマハの技術部隊がこのD8000の開発をバックアップすることになった。D8000開発においては、ヤマハが持つ高度な測定技術が不可欠だったと細尾氏は話していた。
- ジャンルヘッドホン(単体)
- ブランドFINAL
- 型番D8000
- 発売日2017年11月30日
- 価格¥OPEN(予想実売価格388,000円前後)
【SPEC】●筐体:アルミニウム ●ドライバー:AFDS平面磁界型 ●感度:98dB/mW ●インピーダンス:60Ω ●コード長:1.5m/3m ●質量:523g