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公開日 2020/01/13 07:00
1年後のBtoB向け展開を目指す
<CES>圧倒的な高画質&軽さ! パナソニックのVRグラスがもたらす新体験
折原一也
■軽量&驚きの高画質。パナソニックの4K超/HDR対応VRグラスを体験
パナソニックが「CES 2020」に出展していたものの中で、来場者からもっとも注目を集めていたのが4K超/HDR対応の「VRグラス」だ。これまでのVRグラスの常識を覆すメガネ型デザインに、規格外の高画質を備えた本機は、VRを新たなステージへと進めるデバイスといえる。
実はこのVRグラス、パナソニックでDVD/Blu-ray/UltraHD Blu-rayの規格化や、HDR10+などAV関連技術の標準化を行ってきた小塚雅之氏、柏木吉一郎氏らが手掛けるデバイスでもある。今回、実機を体験すると共に、開発までの経緯を取材した。
今回披露されたVRグラスはパナソニック独自開発のもので、業界初のHDR対応を果たした、kopin社によるマイクロOLEDパネル(解像度2,048×2,048、これを左右で2枚)を搭載している。
VRゴーグルが広く認知されるようになったのは、PS VRやOculus Riftが登場した2016年ごろだろうか。実は、パナソニックが今回のVRグラスを構想し、開発を始めたのも3年ほど前のことだという。「当時VRゴーグルの市場が立ち上がってきていたが、画質的に良いものは無かった。そんな中、カメラのファインダーなどに使われているmicroOLEDを用いれば良いものを作れるだろうと、ボストンのKopin社と共同で開発を始めた」(小塚氏)と語る。
microOLEDは高密度で、ドライバーも一体化でき、高効率化、低消費電力が実現できるデバイスだ。
CES 2020で展示されていた試作機は、2,048×2,048解像度のパネルを左右に搭載して4K相当を実現しているが、本来の設計上は、一回り面積の大きい片側2.6K、左右で5K相当にもなる、1.3型/2,560×2,560解像度のパネルを搭載できるよう設計されている。
パネルを交換しても画素密度は同じ2,245ppiで、この画素密度はスクリーンドア効果(グラスの画素構造・網目が見えてしまうこと)を避けられる構造となっている。最大1,000nitsまでのHDR対応とした点も、VRグラスとしては珍しい。随所にパナソニックがAV機器で培ってきた技術を投入している。
レンズ部分は、kopin社と3Mの3社で共同開発したガラス製の超薄型パンケーキレンズを搭載しているが、将来的にはLUMIXの技術を持つパナソニックだけに、内製も可能。よりコストを抑えたプラスチックレンズの採用も考えられる。
microOLEDを提供しているkopin社とは開発段階から共同で取り組んでいるが、「VRグラスでこれだけの超高解像の映像を表示できる事に、彼らも驚いていた」(小塚氏)というほど、極めて高いクオリティを実現している。
VRグラスには、装着する人の視力やメガネ装着の問題も常につきまとう。パナソニックのVRグラスでは、通常のメガネの上に装着する事はできないが、メガネと同じく、左右それぞれ視力に応じた補正レンズを組み込むことができる。
近視用レンズも用意され、度数に応じて交換できた。乱視レンズは用意されていなかったが、今回はあくまで試作なので、レンズバリエーションを用意すればよいだけの話だ。
VRグラスは、現状はパソコンに接続して使用する。外部入力端子はUSB type-Cケーブル一本。今回、会場内の取材ブースに用意されたVRグラスを装着し、2Dの4K映像を視聴してみた。
試作機ではパネル仕様の都合で、目の前に超巨大スクリーンが浮かぶように見えるが、肉眼で見ていると間違えるほどの超高解像度だ。2,245ppiともなると、いわゆるドット感は全く感じられない。4K映像によるニューオリンズの街とジャズ演奏の風景は、暗所の沈み込みや丁寧なコントラスト、楽器の煌めきの再現まで、素晴らしい臨場感が再現されている。
ドローンを用いた360度の空撮映像は、解像度としては11K撮影。ただし、パナソニックのVRグラスが10bit表示であるのに対して、ドローンで解像度を優先した8bit撮影ではバンディングが出てしまう。パナソニックとしてもVR映像のクオリティはもちろん把握しており、キレイに表示するには、画面に映る範囲で6K程度が必須という。つまり360度では24K程度という膨大な解像度が必要なことになる。
もう一つのデモコンテンツは、大日本印刷がスキャナーで実物を取り込んで制作した仁和寺「金堂」の8K/VRコンテンツ。パナソニックのVRグラスを通して見ると、現場さながらのリアルな空間の広がり、光の質感まで再現され、8Kの世界に没入できた。
サウンド面ではイヤホンを採用し、テクニクスから発売された高級イヤホン「EAH-TZ700」でも用いられた磁性流体搭載ドライバーを搭載。ハイレゾ音質も確保している。実際にVRコンテンツと共に音を聴いてみても、自然で伸びやかな音に包み込まれるような体験ができた。
そしてやはり、見た目からも想像できる、軽量さのインパクトが強烈。「グラス型のデザインとしたのも重量を軽くするため」(柏木氏)ということだが、試作段階で約100g台という軽さは衝撃的。メガネと同じ耳だけで支える構造で、きちんとズレずに装着でき、重心を調整することでより重さを感じにくくする事もできる。軽量化はVRデバイスをさらに身近なものにするうえで、非常に大きな前進だ。
■現在のVRグラスをベースに、1年後までに発売開始を目指す
では、このVRグラスはいつ頃、どのように商品化されるのだろうか。まず基本的な考えとして、当初はBtoB向けのハイエンドVRへの展開を考えているようだ。欧州では車の設計デザインの現場や、消防車の火災現場のトレーニングといった場面で既にVRが実用化されており、そうした現場では高い画質への需要があるという。また病院でのリハビリテーションのような用途でも、臨場感があるに越した事はない。
今回、CES 2020の会場で取引先などに披露したら、既に大きな反響があったとのこと。今後、BtoB用途での導入が進む可能性は高そうだ。VRグラスの詳細な仕様は、納入先の要望によっても変わってくるが、展示機はすでに販売を前提としたベースモデルとして作られている。標準価格がつくものではないが、イメージとしては10万円から数十万円のレンジになりそうだという。
目標としては、1年後にBtoB向けの販売を目指しているとのこと。大きな反響があれば、将来的に民生用としての展開も考えられる。圧倒的な高画質でVR体験を革新する注目デバイスの登場だ。
(折原一也)
パナソニックが「CES 2020」に出展していたものの中で、来場者からもっとも注目を集めていたのが4K超/HDR対応の「VRグラス」だ。これまでのVRグラスの常識を覆すメガネ型デザインに、規格外の高画質を備えた本機は、VRを新たなステージへと進めるデバイスといえる。
実はこのVRグラス、パナソニックでDVD/Blu-ray/UltraHD Blu-rayの規格化や、HDR10+などAV関連技術の標準化を行ってきた小塚雅之氏、柏木吉一郎氏らが手掛けるデバイスでもある。今回、実機を体験すると共に、開発までの経緯を取材した。
今回披露されたVRグラスはパナソニック独自開発のもので、業界初のHDR対応を果たした、kopin社によるマイクロOLEDパネル(解像度2,048×2,048、これを左右で2枚)を搭載している。
VRゴーグルが広く認知されるようになったのは、PS VRやOculus Riftが登場した2016年ごろだろうか。実は、パナソニックが今回のVRグラスを構想し、開発を始めたのも3年ほど前のことだという。「当時VRゴーグルの市場が立ち上がってきていたが、画質的に良いものは無かった。そんな中、カメラのファインダーなどに使われているmicroOLEDを用いれば良いものを作れるだろうと、ボストンのKopin社と共同で開発を始めた」(小塚氏)と語る。
microOLEDは高密度で、ドライバーも一体化でき、高効率化、低消費電力が実現できるデバイスだ。
CES 2020で展示されていた試作機は、2,048×2,048解像度のパネルを左右に搭載して4K相当を実現しているが、本来の設計上は、一回り面積の大きい片側2.6K、左右で5K相当にもなる、1.3型/2,560×2,560解像度のパネルを搭載できるよう設計されている。
パネルを交換しても画素密度は同じ2,245ppiで、この画素密度はスクリーンドア効果(グラスの画素構造・網目が見えてしまうこと)を避けられる構造となっている。最大1,000nitsまでのHDR対応とした点も、VRグラスとしては珍しい。随所にパナソニックがAV機器で培ってきた技術を投入している。
レンズ部分は、kopin社と3Mの3社で共同開発したガラス製の超薄型パンケーキレンズを搭載しているが、将来的にはLUMIXの技術を持つパナソニックだけに、内製も可能。よりコストを抑えたプラスチックレンズの採用も考えられる。
microOLEDを提供しているkopin社とは開発段階から共同で取り組んでいるが、「VRグラスでこれだけの超高解像の映像を表示できる事に、彼らも驚いていた」(小塚氏)というほど、極めて高いクオリティを実現している。
VRグラスには、装着する人の視力やメガネ装着の問題も常につきまとう。パナソニックのVRグラスでは、通常のメガネの上に装着する事はできないが、メガネと同じく、左右それぞれ視力に応じた補正レンズを組み込むことができる。
近視用レンズも用意され、度数に応じて交換できた。乱視レンズは用意されていなかったが、今回はあくまで試作なので、レンズバリエーションを用意すればよいだけの話だ。
VRグラスは、現状はパソコンに接続して使用する。外部入力端子はUSB type-Cケーブル一本。今回、会場内の取材ブースに用意されたVRグラスを装着し、2Dの4K映像を視聴してみた。
試作機ではパネル仕様の都合で、目の前に超巨大スクリーンが浮かぶように見えるが、肉眼で見ていると間違えるほどの超高解像度だ。2,245ppiともなると、いわゆるドット感は全く感じられない。4K映像によるニューオリンズの街とジャズ演奏の風景は、暗所の沈み込みや丁寧なコントラスト、楽器の煌めきの再現まで、素晴らしい臨場感が再現されている。
ドローンを用いた360度の空撮映像は、解像度としては11K撮影。ただし、パナソニックのVRグラスが10bit表示であるのに対して、ドローンで解像度を優先した8bit撮影ではバンディングが出てしまう。パナソニックとしてもVR映像のクオリティはもちろん把握しており、キレイに表示するには、画面に映る範囲で6K程度が必須という。つまり360度では24K程度という膨大な解像度が必要なことになる。
もう一つのデモコンテンツは、大日本印刷がスキャナーで実物を取り込んで制作した仁和寺「金堂」の8K/VRコンテンツ。パナソニックのVRグラスを通して見ると、現場さながらのリアルな空間の広がり、光の質感まで再現され、8Kの世界に没入できた。
サウンド面ではイヤホンを採用し、テクニクスから発売された高級イヤホン「EAH-TZ700」でも用いられた磁性流体搭載ドライバーを搭載。ハイレゾ音質も確保している。実際にVRコンテンツと共に音を聴いてみても、自然で伸びやかな音に包み込まれるような体験ができた。
そしてやはり、見た目からも想像できる、軽量さのインパクトが強烈。「グラス型のデザインとしたのも重量を軽くするため」(柏木氏)ということだが、試作段階で約100g台という軽さは衝撃的。メガネと同じ耳だけで支える構造で、きちんとズレずに装着でき、重心を調整することでより重さを感じにくくする事もできる。軽量化はVRデバイスをさらに身近なものにするうえで、非常に大きな前進だ。
■現在のVRグラスをベースに、1年後までに発売開始を目指す
では、このVRグラスはいつ頃、どのように商品化されるのだろうか。まず基本的な考えとして、当初はBtoB向けのハイエンドVRへの展開を考えているようだ。欧州では車の設計デザインの現場や、消防車の火災現場のトレーニングといった場面で既にVRが実用化されており、そうした現場では高い画質への需要があるという。また病院でのリハビリテーションのような用途でも、臨場感があるに越した事はない。
今回、CES 2020の会場で取引先などに披露したら、既に大きな反響があったとのこと。今後、BtoB用途での導入が進む可能性は高そうだ。VRグラスの詳細な仕様は、納入先の要望によっても変わってくるが、展示機はすでに販売を前提としたベースモデルとして作られている。標準価格がつくものではないが、イメージとしては10万円から数十万円のレンジになりそうだという。
目標としては、1年後にBtoB向けの販売を目指しているとのこと。大きな反響があれば、将来的に民生用としての展開も考えられる。圧倒的な高画質でVR体験を革新する注目デバイスの登場だ。
(折原一也)