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公開日 2023/03/01 20:05
トイレでは方々に飛ばさないように
昆虫が「超推力」で尿を飛ばすメカニズム、水没スマホの水分除去に応用できそう
Munenori Taniguchi
ブドウや柑橘類の農園では、ヨコバイ(Sharpshooter)という昆虫による被害がよく問題になる。約1.3cmほどしかないこの虫は、1日に体重の300倍もの水分を取るとされ「ヨコバイの雨」と呼ばれるほどの水滴(尿)を畑に降らせるという。
ジョージア工科大学の研究者Saad Bhamla氏らのチームは、Glassy-winged sharpshooterと呼ばれるヨコバイの一種について研究を実施。この虫が水分を排泄する際、わずかな力しか使わないにもかかわらず超高速で水分を遠くへ飛ばす「超推力(Superpropulsion)」を利用することを発見した。
Glassy-winged sharpshooterは、ストローのような口を使って、果物の木水やミネラルを含む樹液を吸う。ただ、この樹液は95%が水であり栄養価が低いため、十分なカロリーを得るために常に樹液を吸い続け、余分な水分を排泄し続ける必要がある。
研究者らは自宅の裏庭の木で、この虫が排泄するのを見て研究することを決めたという。というのも、この虫は排尿を連続して行うのではなく「アナルスタイラス」と呼ばれる突起に水滴状に尿を出して溜め、このスタイラスを高速で振り回すことで雫を遠くへ飛ばすのだ。こうすることで、食事の場を清潔に保つと同時に、捕食者に発見されるのを防止しているという。
そこで研究者は、この奇妙な排泄行動を詳しく分析するため、高速度カメラとマイクロCTスキャンを使い、5匹のGlassy-winged sharpshooterを観察した。そしてその観察によって、このスタイラス部分がまるでバネとラッチのような機構で固定され、ピッチングマシーンのように動作することで、途轍もない速度に雫を加速させることがわかった。
ただ研究者らは、射出される雫が高速なスタイラスの動きよりも、さらに約40%も速い速度で飛ぶことに困惑したという。野球のピッチャーが時速140kmのボールを投げるときは、その腕の速度も時速140kmであるはずだが、この虫の尿はそれ以上に加速するということだ。
どうしてそのようなことになるのか。その鍵はスタイラスで飛ばされるのが尿、つまり液体であることがポイントだと研究者は説明している。つまりスタイラスが回転する際、尿の雫は圧力で押しつぶされ、飛ぶ瞬間に反動で蓄積されたエネルギーが放出されるために、大きく加速するということだ。
この現象を研究者は「超推力」と呼び、これによってGlassy-winged sharpshooterは、硬い物体を発射するのに比べて2.5倍のエネルギーを生成し、より遠くへ尿を飛ばしているとのこと。そしてこの現象は、たとえば何らかの推進システムで、エネルギーを節約しつつより強力な推進力を得るための応用できる可能性があるという。超推力の応用により、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスに侵入した水分を吹き飛ばして除去したり、飛沫によるメガネの曇りを防いだりするのに役立つ可能性があるとのことだ。
研究者らによると、生物系で超推力が観測されたのは今回が初めて。「物理学者や技術者らは実験室でこのような超推力のアイデアを実証しているが、この昆虫は驚くべきことに、われわれがそれを思いつくより何十万年、何百万年も前にそのアイデアを思いついたのだ」と述べている。
ただ、ノミがジャンプする動作のように、非力な虫がその制約を補うためにバネとラッチの仕組みを使う例は多いと、プリンストン大学の機械工学研究者であるAimy Wissa氏は指摘している。「このような昆虫の一部は、身体が非常に小さく、筋肉の制限や体積の制約を回避するためにこのようなメカニズムを進化させてきた」とのことだ。
排泄物を遠くへ飛ばす習慣は、動物界の他の種でもみられる。たとえばセセリチョウの幼虫は、天敵が排泄物を追ってやって来るのを避けるため、糞粒と呼ばれる固形の排泄物を体長の38倍も遠くへ投げ飛ばすことができるそうだ。
Source: Nature
via: Scientific American, Ars Technica
ジョージア工科大学の研究者Saad Bhamla氏らのチームは、Glassy-winged sharpshooterと呼ばれるヨコバイの一種について研究を実施。この虫が水分を排泄する際、わずかな力しか使わないにもかかわらず超高速で水分を遠くへ飛ばす「超推力(Superpropulsion)」を利用することを発見した。
Glassy-winged sharpshooterは、ストローのような口を使って、果物の木水やミネラルを含む樹液を吸う。ただ、この樹液は95%が水であり栄養価が低いため、十分なカロリーを得るために常に樹液を吸い続け、余分な水分を排泄し続ける必要がある。
研究者らは自宅の裏庭の木で、この虫が排泄するのを見て研究することを決めたという。というのも、この虫は排尿を連続して行うのではなく「アナルスタイラス」と呼ばれる突起に水滴状に尿を出して溜め、このスタイラスを高速で振り回すことで雫を遠くへ飛ばすのだ。こうすることで、食事の場を清潔に保つと同時に、捕食者に発見されるのを防止しているという。
そこで研究者は、この奇妙な排泄行動を詳しく分析するため、高速度カメラとマイクロCTスキャンを使い、5匹のGlassy-winged sharpshooterを観察した。そしてその観察によって、このスタイラス部分がまるでバネとラッチのような機構で固定され、ピッチングマシーンのように動作することで、途轍もない速度に雫を加速させることがわかった。
ただ研究者らは、射出される雫が高速なスタイラスの動きよりも、さらに約40%も速い速度で飛ぶことに困惑したという。野球のピッチャーが時速140kmのボールを投げるときは、その腕の速度も時速140kmであるはずだが、この虫の尿はそれ以上に加速するということだ。
どうしてそのようなことになるのか。その鍵はスタイラスで飛ばされるのが尿、つまり液体であることがポイントだと研究者は説明している。つまりスタイラスが回転する際、尿の雫は圧力で押しつぶされ、飛ぶ瞬間に反動で蓄積されたエネルギーが放出されるために、大きく加速するということだ。
この現象を研究者は「超推力」と呼び、これによってGlassy-winged sharpshooterは、硬い物体を発射するのに比べて2.5倍のエネルギーを生成し、より遠くへ尿を飛ばしているとのこと。そしてこの現象は、たとえば何らかの推進システムで、エネルギーを節約しつつより強力な推進力を得るための応用できる可能性があるという。超推力の応用により、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスに侵入した水分を吹き飛ばして除去したり、飛沫によるメガネの曇りを防いだりするのに役立つ可能性があるとのことだ。
研究者らによると、生物系で超推力が観測されたのは今回が初めて。「物理学者や技術者らは実験室でこのような超推力のアイデアを実証しているが、この昆虫は驚くべきことに、われわれがそれを思いつくより何十万年、何百万年も前にそのアイデアを思いついたのだ」と述べている。
ただ、ノミがジャンプする動作のように、非力な虫がその制約を補うためにバネとラッチの仕組みを使う例は多いと、プリンストン大学の機械工学研究者であるAimy Wissa氏は指摘している。「このような昆虫の一部は、身体が非常に小さく、筋肉の制限や体積の制約を回避するためにこのようなメカニズムを進化させてきた」とのことだ。
排泄物を遠くへ飛ばす習慣は、動物界の他の種でもみられる。たとえばセセリチョウの幼虫は、天敵が排泄物を追ってやって来るのを避けるため、糞粒と呼ばれる固形の排泄物を体長の38倍も遠くへ投げ飛ばすことができるそうだ。
Source: Nature
via: Scientific American, Ars Technica