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公開日 2023/05/19 14:41
実はお買い得?
アップルの初ヘッドセット、約40万円でも「原価割れ寸前」か
多根清史
アップル初のAR/VRヘッドセットは、6月の開発者会議WWDCにて発表されることがほぼ確実とみられている。これまでの噂話では、4KマイクロOLEDディスプレイ2枚やデュアルプロセッサー、手や目の動きを追跡する12個のカメラなど、競合他社の製品とは一線を画する豪華な仕様が伝えられてきた。
それでも当初のビジョンと比べて大幅に妥協しており、アップル社内では先行きを危ぶむ動きもあると有名ジャーナリストが報じている。
アップルの社内事情に詳しいBloombergのMark Gurman記者は、本製品を長年にわたり追ってきた1人だ。それは2017年、同社がAR/VRの状況を一変させるべく、rOSと呼ばれる新OSや専用のApp Store込みで準備中と報じたことまで遡る。
最新記事の冒頭でGurman氏は、本製品を「ティム・クック(CEO)の当初のビジョンから外れてしまった」と表現している。またアップルのトップ幹部には、この製品の可能性に懐疑的であり、距離を置いている人物もいるという。同社内で先行きに深刻な不安を抱く声があることは、The New York Timesも伝えていたことだ。
アップルがヘッドセットとは別にARメガネ、いわゆる「アップルグラス(Apple Glasses)」に取り組んでいることは公然の秘密だ。後者は、小型化やバッテリー持続時間に難があることから、発売は早くても数年後とみられている。
しかし今回の記事によると、クックCEOは本当はアップルグラスを優先したかったが、開発作業はヘッドセットにますます集中することになったという。
当初は一日中かけていても邪魔にならない眼鏡のようなものを想定していたはずが、スキーのゴーグルのようなヘッドセットに変貌し、外付けのバッテリーパックが必要となった。技術的な制約や製品を市場に投入したいという欲求、社内の不一致などから、次第に既存のVR製品に近いものに流れていったそうだ。
その妥協の産物であるヘッドセット「Reality Pro(仮)」でさえ、製品化するため、より多くの妥協が必要になっていったという。他のMR(複合現実)ヘッドセットメーカーと同様、アップルもいくつかの「核心的な技術的問題」を解決できていないと暗黙のうちに認めたようなもの、とのこと。
本製品はMacの外付けディスプレイとして使えたり、複数人でのビデオ会議もできるというが、それは当初の意図ほど進歩しておらず、改善の余地があるという。またバッテリーをヘッドセットに内蔵したかったが、軽量化しつつオーバーヒートを防ぐため、アップルらしくないデザイン上の妥協(外付けバッテリーを持ち歩く)をしたそうだ。これは理想の製品ができるまでは市場に投入しないという、同社の通常のスタンスとは大きく異なる。
もう1つアップルらしからぬことは、Reality Proを損益分岐点ギリギリで販売すると予想されている点だ。通常、アップルは製造原価に37%のマージンを載せる傾向があることと対照的である。そればかりか(AR/VR)市場に参入するために、当初は赤字で販売する可能性さえ議論されたそうだ。
いずれにせよ、ヘッドセットの開発費はすぐに回収されそうにない。予算は年間10億ドルを超え、1000人以上のエンジニアが取り組んでいるというのだから。
それでも発売に踏み切らざるを得ない理由として、米The Wall Street Journalは「理想的なバージョンを作るのに時間がかかりすぎること」「すでに競合他社の製品が市場に出ていること」「ヘッドセットの開発に多くの資本とリソースを投入していること」の3つを挙げていた。要はコンコルド効果(ないしサンクコスト効果)ということだろう。
そしてトップ幹部のクレイグ・フェデリギ氏(ソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長)とジョニー・スロウジ氏(ハードウェア技術担当上級副社長)の両者は、本製品に懐疑的だという。フェデリギ氏はヘッドセットと距離を置いて警戒し、スロウジ氏は内心では懐疑的で、科学プロジェクト(利益に繋がらない)になぞらえているそうだ。
また、クックCEOは本プロジェクトから「遠い」存在であり、意思決定に時間がかかることでチームを苛立たせているという。「クックが製品開発に最も近づくのはデモだ」「それでも彼は、Xはすべき、Yはすべきでないと言うタイプではない。細部にまで強くこだわりを持つかどうかという点で、スティーブ(ジョブズ)とは正反対だ」とのこと。
クックCEOのアプローチは、時として優柔不断と受け取られ、開発の遅れやリソース不足への懸念に繋がったという。そもそもヘッドセットが現在の「外部ハブを必要とせず、単体で動く」形となったのは同氏が働きかけたからとの報道もあったが、その本人から明確な指示がないのであれば、開発現場が戸惑っても無理はないだろう。
Reality Proヘッドセットは約3000ドル〜4000ドル(約40万円〜54万円)と予想されているが、それでも製造原価割れの瀬戸際であれば、アップル製品としては破格の「安さ」かもしれない。
Source: Bloomberg
via: 9to5Mac
それでも当初のビジョンと比べて大幅に妥協しており、アップル社内では先行きを危ぶむ動きもあると有名ジャーナリストが報じている。
アップルの社内事情に詳しいBloombergのMark Gurman記者は、本製品を長年にわたり追ってきた1人だ。それは2017年、同社がAR/VRの状況を一変させるべく、rOSと呼ばれる新OSや専用のApp Store込みで準備中と報じたことまで遡る。
最新記事の冒頭でGurman氏は、本製品を「ティム・クック(CEO)の当初のビジョンから外れてしまった」と表現している。またアップルのトップ幹部には、この製品の可能性に懐疑的であり、距離を置いている人物もいるという。同社内で先行きに深刻な不安を抱く声があることは、The New York Timesも伝えていたことだ。
アップルがヘッドセットとは別にARメガネ、いわゆる「アップルグラス(Apple Glasses)」に取り組んでいることは公然の秘密だ。後者は、小型化やバッテリー持続時間に難があることから、発売は早くても数年後とみられている。
しかし今回の記事によると、クックCEOは本当はアップルグラスを優先したかったが、開発作業はヘッドセットにますます集中することになったという。
当初は一日中かけていても邪魔にならない眼鏡のようなものを想定していたはずが、スキーのゴーグルのようなヘッドセットに変貌し、外付けのバッテリーパックが必要となった。技術的な制約や製品を市場に投入したいという欲求、社内の不一致などから、次第に既存のVR製品に近いものに流れていったそうだ。
その妥協の産物であるヘッドセット「Reality Pro(仮)」でさえ、製品化するため、より多くの妥協が必要になっていったという。他のMR(複合現実)ヘッドセットメーカーと同様、アップルもいくつかの「核心的な技術的問題」を解決できていないと暗黙のうちに認めたようなもの、とのこと。
本製品はMacの外付けディスプレイとして使えたり、複数人でのビデオ会議もできるというが、それは当初の意図ほど進歩しておらず、改善の余地があるという。またバッテリーをヘッドセットに内蔵したかったが、軽量化しつつオーバーヒートを防ぐため、アップルらしくないデザイン上の妥協(外付けバッテリーを持ち歩く)をしたそうだ。これは理想の製品ができるまでは市場に投入しないという、同社の通常のスタンスとは大きく異なる。
もう1つアップルらしからぬことは、Reality Proを損益分岐点ギリギリで販売すると予想されている点だ。通常、アップルは製造原価に37%のマージンを載せる傾向があることと対照的である。そればかりか(AR/VR)市場に参入するために、当初は赤字で販売する可能性さえ議論されたそうだ。
いずれにせよ、ヘッドセットの開発費はすぐに回収されそうにない。予算は年間10億ドルを超え、1000人以上のエンジニアが取り組んでいるというのだから。
それでも発売に踏み切らざるを得ない理由として、米The Wall Street Journalは「理想的なバージョンを作るのに時間がかかりすぎること」「すでに競合他社の製品が市場に出ていること」「ヘッドセットの開発に多くの資本とリソースを投入していること」の3つを挙げていた。要はコンコルド効果(ないしサンクコスト効果)ということだろう。
そしてトップ幹部のクレイグ・フェデリギ氏(ソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長)とジョニー・スロウジ氏(ハードウェア技術担当上級副社長)の両者は、本製品に懐疑的だという。フェデリギ氏はヘッドセットと距離を置いて警戒し、スロウジ氏は内心では懐疑的で、科学プロジェクト(利益に繋がらない)になぞらえているそうだ。
また、クックCEOは本プロジェクトから「遠い」存在であり、意思決定に時間がかかることでチームを苛立たせているという。「クックが製品開発に最も近づくのはデモだ」「それでも彼は、Xはすべき、Yはすべきでないと言うタイプではない。細部にまで強くこだわりを持つかどうかという点で、スティーブ(ジョブズ)とは正反対だ」とのこと。
クックCEOのアプローチは、時として優柔不断と受け取られ、開発の遅れやリソース不足への懸念に繋がったという。そもそもヘッドセットが現在の「外部ハブを必要とせず、単体で動く」形となったのは同氏が働きかけたからとの報道もあったが、その本人から明確な指示がないのであれば、開発現場が戸惑っても無理はないだろう。
Reality Proヘッドセットは約3000ドル〜4000ドル(約40万円〜54万円)と予想されているが、それでも製造原価割れの瀬戸際であれば、アップル製品としては破格の「安さ」かもしれない。
Source: Bloomberg
via: 9to5Mac
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