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公開日 2024/09/26 09:36
【連載】佐野正弘のITインサイト 第127回
初の大規模災害となる能登半島地震にどう対応した? 楽天モバイルの災害対策を追う
佐野正弘
経営は厳しいながらも契約数の伸びは順調で、MVNOも含めた全体での契約数が800万に近づくなど、携帯電話会社としての存在感を徐々に高めつつある楽天モバイル。だが、携帯電話は今や重要な社会インフラとなっているだけに、楽天モバイルには規模拡大とともに “責任” 、より具体的に言えば大規模災害時の早期復旧などに向けた “備え” が求められている。
実際楽天モバイルは、2024年1月1日に発生した能登半島地震で、サービス開始後初となる大規模災害を経験している。同社はどのような備えと対策を進めてきたのだろうか。楽天モバイルは先日9月20日に記者説明会を実施し、BCP管理本部 本部長である磯邉直志氏が、能登半島地震での対策を中心とした災害への取り組みについて説明していたので、その内容から具体的な取り組みを確認してみよう。
■サービス開始後初となる大規模災害となった「能登半島地震」
実は楽天モバイルは2022年2月に、災害対策基本法に基づく指定公共機関に認定されている。これは、公共的機関及び公益的事業を営む法人のうち、防災行政上重要な役割を有するものとして内閣総理大臣が指定している機関であり、他の携帯3社も指定されているもの。新興の事業者とはいえ、自らインフラを持つ事業者として既に国から責任ある立場が求められているのだ。
それゆえ同社でも、災害時の復旧に向けた “備え” には力を入れており、災害で既存の基地局が使えなくなった時の代替として、現地に持ち運んで利用する移動基地局車や可搬型基地局、そして災害で基地局が停止する大きな要因となる、停電の発生に備えた可搬型発電機や移動基地局車なども備えているという。
能登半島地震においても、それら設備を積極的に導入して復旧に当たったとしており、累計40台の移動基地局車と、累計48台の可搬型発電機で対応に当たったという。能登半島地震では道路の寸断が多く発生しただけに、分解して持ち運びやすい可搬型基地局の方が有効活用できそうな印象があるが、当時は10mもの強風が吹き、安全確保のためアンテナを下げるなどの対応が必要だったことから、そうした対応がしやすい移動基地局車が用いられたとのことだ。
また、復旧をはじめとした被災地への対応に当たっては、1日当たり平均で340名の人員が投入されたほか、被災自治体との連携を図る上で重要な役割を果たす、リエゾン(橋渡し役)を1月2日より派遣。リエゾンが被災自治体などとのハブとなって情報収集や交渉などを進め、円滑な復旧活動に貢献したという。
その結果、1月15日までには侵入困難地域を除いていち早く応急復旧ができたとのこと。磯邉氏は、「初めての大規模災害だったが、他社と比較してもそん色はなかったと自負している」と、一連の対策に自信を示している。
迅速な復旧に貢献した楽天モバイル独自の取り組みとなるのが、BCM(ビジネスコミュニティマネージャー)システムであると磯邉氏は話す。これは、社内のネットワークオペレーションや現地の復旧部隊からの情報だけでなく、リエゾンチームや、自治体・関係機関など社外の情報を一元的に把握できるようにするシステムで、BCMシステムの導入が災害対応の効率化に大きく貢献したという。
またハード面での災害対策として、基地局に備わっている予備のバッテリーを延命するため、遠隔制御で「緊急省エネモード」に変更できる仕組みを用意しているとのこと。これは、基地局の4本のアンテナを用いて4台の端末とデータの送受信をしている状態(4×4MIMO)から、基地局側で使うアンテナを2本に減らした2×4MIMOの状態に変更することにより、通信速度は低下するものの安定した通信を維持し、それでいて消費電力を減らすことができるものだ。
なお、緊急省エネモードに移行することで、予備のバッテリーの消費を30%伸ばすことができるとのこと。磯邉氏はデータ通信だけでなく、音声通話にも対応した基地局でこの仕組みを導入しているのは楽天モバイルだけかもしれないとも話し、災害時の自社インフラの優位性としてアピールしていた。
ただ現状、楽天モバイルは設置している基地局の数が他社より少なく、同社のエリアマップを見ると能登半島はパートナー回線、つまりKDDIのローミングで賄われているエリアの方が広い。それゆえ他社と比べ、復旧対策が必要な基地局数は少なかったと考えられる。
ただ、そのローミングも2026年には終了するだけに、今後は自社でより多くの基地局を設置してエリアを広げる必要があるだろう。そうなれば大規模災害時には、より現在より多くの基地局を復旧させることが求められるだろう。
それゆえ楽天モバイルには、今後一層の災害対策が求められることになるのだが、同社としてはその強化策の1つとして衛星通信を挙げている。2026年内の国内提供を目指すとしている米AST Space Mobileの衛星を活用した、スマートフォンとの直接通信を活用するだけでなく、基地局の復旧に米スペースXの「Starlink」をより積極活用するなど、複数の衛星通信を活用した復旧を推し進める姿勢を見せている。
だが、より同社にとって重要になってくるのは、他の携帯電話会社との連携強化ではないだろうか。これまで携帯電話会社同士が、災害時の復旧活動で連携することはなかったのだが、能登半島地震の際にはNTTドコモとKDDIが船上基地局を共同で運営するなど、携帯電話会社同士のアセットを融通しあいながら復旧活動に当たるケースが増えていた。
その背景には、災害の激甚化と大規模化、そして携帯電話インフラの重要性が年々高まっていることがあるのだが、事業者間連携が進むことは、まだ規模が小さく保有するリソースが少ない楽天モバイルにとって、重要な意味を持つことは確かだ。例えば磯邉氏は、今後他社と連携して船上基地局の共同展開を検討していると話していたが、これが実現できれば、大型船舶を保有していない楽天モバイルが早期復旧を図る上で非常に有効な策となることは間違いないだろう。
災害対策は収入に直結しないコスト要因だが、安定したインフラ運営でサービスの信頼を高める上では絶対に必要不可欠なものでもある。楽天モバイルも行政の支援などをうまく活用するなどして強化をしていきたい姿勢を示すが、厳しい経営状況を考慮するならば対策に限界があることもまた確かなだけに、他社との連携強化こそが災害対策を強化する大きな鍵となりそうだ。
実際楽天モバイルは、2024年1月1日に発生した能登半島地震で、サービス開始後初となる大規模災害を経験している。同社はどのような備えと対策を進めてきたのだろうか。楽天モバイルは先日9月20日に記者説明会を実施し、BCP管理本部 本部長である磯邉直志氏が、能登半島地震での対策を中心とした災害への取り組みについて説明していたので、その内容から具体的な取り組みを確認してみよう。
■サービス開始後初となる大規模災害となった「能登半島地震」
実は楽天モバイルは2022年2月に、災害対策基本法に基づく指定公共機関に認定されている。これは、公共的機関及び公益的事業を営む法人のうち、防災行政上重要な役割を有するものとして内閣総理大臣が指定している機関であり、他の携帯3社も指定されているもの。新興の事業者とはいえ、自らインフラを持つ事業者として既に国から責任ある立場が求められているのだ。
それゆえ同社でも、災害時の復旧に向けた “備え” には力を入れており、災害で既存の基地局が使えなくなった時の代替として、現地に持ち運んで利用する移動基地局車や可搬型基地局、そして災害で基地局が停止する大きな要因となる、停電の発生に備えた可搬型発電機や移動基地局車なども備えているという。
能登半島地震においても、それら設備を積極的に導入して復旧に当たったとしており、累計40台の移動基地局車と、累計48台の可搬型発電機で対応に当たったという。能登半島地震では道路の寸断が多く発生しただけに、分解して持ち運びやすい可搬型基地局の方が有効活用できそうな印象があるが、当時は10mもの強風が吹き、安全確保のためアンテナを下げるなどの対応が必要だったことから、そうした対応がしやすい移動基地局車が用いられたとのことだ。
また、復旧をはじめとした被災地への対応に当たっては、1日当たり平均で340名の人員が投入されたほか、被災自治体との連携を図る上で重要な役割を果たす、リエゾン(橋渡し役)を1月2日より派遣。リエゾンが被災自治体などとのハブとなって情報収集や交渉などを進め、円滑な復旧活動に貢献したという。
その結果、1月15日までには侵入困難地域を除いていち早く応急復旧ができたとのこと。磯邉氏は、「初めての大規模災害だったが、他社と比較してもそん色はなかったと自負している」と、一連の対策に自信を示している。
迅速な復旧に貢献した楽天モバイル独自の取り組みとなるのが、BCM(ビジネスコミュニティマネージャー)システムであると磯邉氏は話す。これは、社内のネットワークオペレーションや現地の復旧部隊からの情報だけでなく、リエゾンチームや、自治体・関係機関など社外の情報を一元的に把握できるようにするシステムで、BCMシステムの導入が災害対応の効率化に大きく貢献したという。
またハード面での災害対策として、基地局に備わっている予備のバッテリーを延命するため、遠隔制御で「緊急省エネモード」に変更できる仕組みを用意しているとのこと。これは、基地局の4本のアンテナを用いて4台の端末とデータの送受信をしている状態(4×4MIMO)から、基地局側で使うアンテナを2本に減らした2×4MIMOの状態に変更することにより、通信速度は低下するものの安定した通信を維持し、それでいて消費電力を減らすことができるものだ。
なお、緊急省エネモードに移行することで、予備のバッテリーの消費を30%伸ばすことができるとのこと。磯邉氏はデータ通信だけでなく、音声通話にも対応した基地局でこの仕組みを導入しているのは楽天モバイルだけかもしれないとも話し、災害時の自社インフラの優位性としてアピールしていた。
ただ現状、楽天モバイルは設置している基地局の数が他社より少なく、同社のエリアマップを見ると能登半島はパートナー回線、つまりKDDIのローミングで賄われているエリアの方が広い。それゆえ他社と比べ、復旧対策が必要な基地局数は少なかったと考えられる。
ただ、そのローミングも2026年には終了するだけに、今後は自社でより多くの基地局を設置してエリアを広げる必要があるだろう。そうなれば大規模災害時には、より現在より多くの基地局を復旧させることが求められるだろう。
それゆえ楽天モバイルには、今後一層の災害対策が求められることになるのだが、同社としてはその強化策の1つとして衛星通信を挙げている。2026年内の国内提供を目指すとしている米AST Space Mobileの衛星を活用した、スマートフォンとの直接通信を活用するだけでなく、基地局の復旧に米スペースXの「Starlink」をより積極活用するなど、複数の衛星通信を活用した復旧を推し進める姿勢を見せている。
だが、より同社にとって重要になってくるのは、他の携帯電話会社との連携強化ではないだろうか。これまで携帯電話会社同士が、災害時の復旧活動で連携することはなかったのだが、能登半島地震の際にはNTTドコモとKDDIが船上基地局を共同で運営するなど、携帯電話会社同士のアセットを融通しあいながら復旧活動に当たるケースが増えていた。
その背景には、災害の激甚化と大規模化、そして携帯電話インフラの重要性が年々高まっていることがあるのだが、事業者間連携が進むことは、まだ規模が小さく保有するリソースが少ない楽天モバイルにとって、重要な意味を持つことは確かだ。例えば磯邉氏は、今後他社と連携して船上基地局の共同展開を検討していると話していたが、これが実現できれば、大型船舶を保有していない楽天モバイルが早期復旧を図る上で非常に有効な策となることは間違いないだろう。
災害対策は収入に直結しないコスト要因だが、安定したインフラ運営でサービスの信頼を高める上では絶対に必要不可欠なものでもある。楽天モバイルも行政の支援などをうまく活用するなどして強化をしていきたい姿勢を示すが、厳しい経営状況を考慮するならば対策に限界があることもまた確かなだけに、他社との連携強化こそが災害対策を強化する大きな鍵となりそうだ。
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