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公開日 2024/12/05 11:19
【連載】佐野正弘のITインサイト 第137回
スマホメーカーがハイエンドモデル復活の動き、その背景に“推し活”あり
佐野正弘
円安や政府主導のスマートフォン値引き規制強化によって、スマートフォンの値段が高騰して買いづらくなり、市場が冷え切ってしまった2024年。夏商戦ではあまりにスマートフォンが売れないことから、メーカー側が高額で値引きも期待できず、売れなくなってしまったハイエンドモデルに見切りをつけ、ミドルクラスのラインナップを強化する動きが顕著だった。
だが秋冬商戦に入ると、メーカー側の動きにやや変化が見られるようになってきた。具体的に言えば、ハイエンドモデルに消極的だったメーカーが、一転してハイエンドモデルを投入する動きが相次いだのである。
そのことを象徴しているメーカーの1つがシャープである。同社は2024年、例年夏商戦向けに投入していたハイエンドモデルを投入しなかったことが大きな話題となった。だが10月29日に実施した新製品発表会では状況が大きく変化、ミドルクラスの新機種「AQUOS sense9」に加え、最上位のフラッグシップモデル新機種「AQUOS R9 pro」の投入を明らかにしているのだ。
AQUOS R9 proは、独ライカカメラが監修した3眼カメラを搭載し、なおかつチップセットにはクアルコム製のハイエンド向けとなる「Snapdragon 8s Gen 3」を搭載するなど、フラッグシップに相応しい非常に高い性能を備えている。見送ったはずのハイエンドモデルを一転して投入に踏み切ったことが、大きな驚きを与えたことは確かだろう。
2つ目が米モトローラ・モビリティである。同社も11月21日に、折り畳みスマートフォンの最上位モデル「motorola razr 50 ultra」を発表。MVNOや家電量販店などのほか、ソフトバンクからも販売がなされるがオンラインショップ限定となっているため販売数が見込みにくい。それにもかかわらず2023年の「motorola razr 40 ultra」に続いて、日本市場へフラッグシップモデルを投入するに至っている。
そしてもう1つ、ハイエンドモデル投入に踏み切ったのが中国のOPPO(オッポ)だ。同社の日本法人であるオウガ・ジャパンは、11月29日に新製品発表イベントを実施し、スマートフォン・タブレット3機種を発表した。だが中でも大きな注目を集めたのが、ハイエンドモデルの新機種「OPPO Find X8」の投入である。
OPPO Find X8は、スウェーデンの老舗カメラメーカーであるハッセルブラッドと共同開発した3眼カメラを搭載し、さらにAI技術の活用で手ブレした写真を鮮明にするなどカメラの機能・性能に注力したスマートフォン。チップセットにメディアテック製のハイエンド向けとなる「Dimensity 9400」を搭載するなど、高い性能を持つ。OPPOがハイエンドモデルの「Find X」シリーズ新機種を投入するのはおよそ3年ぶりということもあって、こちらも注目を集めたようだ。
だがこれらハイエンドモデル新機種は、いずれも10万円を超えていることから販売数が見込みにくいのも確か。それだけにメーカー側が、ハイエンドモデルを出さないという選択肢を取ることは理解できるのだが、3社がともに逆張りの戦略を取り、ハイエンドモデルを出すという選択をしたのにはどのような狙いがあるのだろうか。
狙いの1つは、ハイエンドモデルを開発することが、ミドル・ローエンドを含めた自社スマートフォンの製品力やブランドの向上に不可欠であること。確かに、現在では価格を抑えた部材を揃えて組み合わせることで、価格を抑えたスマートフォンを開発することは容易となっているが、製品に差が付きにくくなるだけに価格競争に巻き込まれやすく、規模の大きなメーカーに勝てなくなってしまう。
実際10年前頃から、スマートフォンの開発・製造がしやすくなったことで低価格を売りとしたスマートフォンメーカーが多数登場し、人気を集めたことがある。だがそうしたメーカーは技術力に乏しく、ハイエンドモデルでブランド力を高められなかったこともあり、価格競争の末に存在感を失ってしまった。スマートフォンの競争力を維持拡大するためには、自社の技術を集結したハイエンドモデルを開発し、独自性を打ち出せる体制の維持が不可欠となっているのだ。
そしてもう1つは、ロイヤルカスタマー獲得のためだ。ハイエンドモデルを欲する消費者は、SNSなどでそうした端末を要望する “声” が大きい一方で、実際の数はそれほど多くないといわれている。だが、契約回線数を増やすことがビジネスの主体となっている携帯電話会社は、幅広い層が購入するモデルの販売に重きを置く傾向が強く、そうした少数のニーズに応える製品の投入には消極的だった。
だが現在は、スマートフォン値引き規制の強化によって携帯大手による販売力が低下しているため、メーカーが消費者に直接スマートフォンを販売することも求められるようになってきた。そこで重要性が高まっているのが、携帯電話会社が重視しなかったハイエンド端末を求める人達の存在だ。
なぜなら、そうした顧客はメーカーのファンでもあり、高額なハイエンドモデルを確実に買ってくれるだけでなく、スマートフォン以外の製品の購買にもつながりやすいからだ。熱量がある少数のユーザーから多くお金を落としてもらうというのは、ある意味でここ数年来注目されてきた “推し活” ビジネスに近いものがあるが、端末販売の主導権が携帯大手からメーカーに移ったことで、メーカー側も確実な売上が期待できるユーザーを優遇し、ハイエンドモデル投入に踏み切ったといえるだろう。
実際、そうした動きはこれら2社以外にも広がってきている。2024年には韓国サムスン電子がハイエンドスマートフォンの最上位モデルを自社オンラインショップで販売したほか、中国Xiaomi(シャオミ)も同社の最上位フラッグシップモデル「Xiaomi 14 Ultra」を日本に初投入するなどの動きが見られたが、これらはいずれもハイエンドモデルに強い関心を持つ、熱心なファンを獲得する施策の一環といえるだろう。
そうしたことを考えれば、メーカー側も競争力維持のため、今後も不定期ながらハイエンドモデルを継続投入する可能性は高まったといえるだろう。ただ裏を返せば今後、ハイエンドモデルを投入できなくなったメーカーは、競争力を失い日本市場から消える可能性が高い、ということも言えるのかもしれない。
だが秋冬商戦に入ると、メーカー側の動きにやや変化が見られるようになってきた。具体的に言えば、ハイエンドモデルに消極的だったメーカーが、一転してハイエンドモデルを投入する動きが相次いだのである。
■秋冬商戦に相次いで投入された3社のハイエンドモデル
そのことを象徴しているメーカーの1つがシャープである。同社は2024年、例年夏商戦向けに投入していたハイエンドモデルを投入しなかったことが大きな話題となった。だが10月29日に実施した新製品発表会では状況が大きく変化、ミドルクラスの新機種「AQUOS sense9」に加え、最上位のフラッグシップモデル新機種「AQUOS R9 pro」の投入を明らかにしているのだ。
AQUOS R9 proは、独ライカカメラが監修した3眼カメラを搭載し、なおかつチップセットにはクアルコム製のハイエンド向けとなる「Snapdragon 8s Gen 3」を搭載するなど、フラッグシップに相応しい非常に高い性能を備えている。見送ったはずのハイエンドモデルを一転して投入に踏み切ったことが、大きな驚きを与えたことは確かだろう。
2つ目が米モトローラ・モビリティである。同社も11月21日に、折り畳みスマートフォンの最上位モデル「motorola razr 50 ultra」を発表。MVNOや家電量販店などのほか、ソフトバンクからも販売がなされるがオンラインショップ限定となっているため販売数が見込みにくい。それにもかかわらず2023年の「motorola razr 40 ultra」に続いて、日本市場へフラッグシップモデルを投入するに至っている。
そしてもう1つ、ハイエンドモデル投入に踏み切ったのが中国のOPPO(オッポ)だ。同社の日本法人であるオウガ・ジャパンは、11月29日に新製品発表イベントを実施し、スマートフォン・タブレット3機種を発表した。だが中でも大きな注目を集めたのが、ハイエンドモデルの新機種「OPPO Find X8」の投入である。
OPPO Find X8は、スウェーデンの老舗カメラメーカーであるハッセルブラッドと共同開発した3眼カメラを搭載し、さらにAI技術の活用で手ブレした写真を鮮明にするなどカメラの機能・性能に注力したスマートフォン。チップセットにメディアテック製のハイエンド向けとなる「Dimensity 9400」を搭載するなど、高い性能を持つ。OPPOがハイエンドモデルの「Find X」シリーズ新機種を投入するのはおよそ3年ぶりということもあって、こちらも注目を集めたようだ。
■ハイエンドモデル投入という“逆張り戦略”が取られた狙い
だがこれらハイエンドモデル新機種は、いずれも10万円を超えていることから販売数が見込みにくいのも確か。それだけにメーカー側が、ハイエンドモデルを出さないという選択肢を取ることは理解できるのだが、3社がともに逆張りの戦略を取り、ハイエンドモデルを出すという選択をしたのにはどのような狙いがあるのだろうか。
狙いの1つは、ハイエンドモデルを開発することが、ミドル・ローエンドを含めた自社スマートフォンの製品力やブランドの向上に不可欠であること。確かに、現在では価格を抑えた部材を揃えて組み合わせることで、価格を抑えたスマートフォンを開発することは容易となっているが、製品に差が付きにくくなるだけに価格競争に巻き込まれやすく、規模の大きなメーカーに勝てなくなってしまう。
実際10年前頃から、スマートフォンの開発・製造がしやすくなったことで低価格を売りとしたスマートフォンメーカーが多数登場し、人気を集めたことがある。だがそうしたメーカーは技術力に乏しく、ハイエンドモデルでブランド力を高められなかったこともあり、価格競争の末に存在感を失ってしまった。スマートフォンの競争力を維持拡大するためには、自社の技術を集結したハイエンドモデルを開発し、独自性を打ち出せる体制の維持が不可欠となっているのだ。
そしてもう1つは、ロイヤルカスタマー獲得のためだ。ハイエンドモデルを欲する消費者は、SNSなどでそうした端末を要望する “声” が大きい一方で、実際の数はそれほど多くないといわれている。だが、契約回線数を増やすことがビジネスの主体となっている携帯電話会社は、幅広い層が購入するモデルの販売に重きを置く傾向が強く、そうした少数のニーズに応える製品の投入には消極的だった。
だが現在は、スマートフォン値引き規制の強化によって携帯大手による販売力が低下しているため、メーカーが消費者に直接スマートフォンを販売することも求められるようになってきた。そこで重要性が高まっているのが、携帯電話会社が重視しなかったハイエンド端末を求める人達の存在だ。
なぜなら、そうした顧客はメーカーのファンでもあり、高額なハイエンドモデルを確実に買ってくれるだけでなく、スマートフォン以外の製品の購買にもつながりやすいからだ。熱量がある少数のユーザーから多くお金を落としてもらうというのは、ある意味でここ数年来注目されてきた “推し活” ビジネスに近いものがあるが、端末販売の主導権が携帯大手からメーカーに移ったことで、メーカー側も確実な売上が期待できるユーザーを優遇し、ハイエンドモデル投入に踏み切ったといえるだろう。
実際、そうした動きはこれら2社以外にも広がってきている。2024年には韓国サムスン電子がハイエンドスマートフォンの最上位モデルを自社オンラインショップで販売したほか、中国Xiaomi(シャオミ)も同社の最上位フラッグシップモデル「Xiaomi 14 Ultra」を日本に初投入するなどの動きが見られたが、これらはいずれもハイエンドモデルに強い関心を持つ、熱心なファンを獲得する施策の一環といえるだろう。
そうしたことを考えれば、メーカー側も競争力維持のため、今後も不定期ながらハイエンドモデルを継続投入する可能性は高まったといえるだろう。ただ裏を返せば今後、ハイエンドモデルを投入できなくなったメーカーは、競争力を失い日本市場から消える可能性が高い、ということも言えるのかもしれない。