公開日 2022/11/12 06:45
<連載>角田郁雄のオーディオSUPREME
1bit DACらしい繊細さと独創的な技術が持ち味。Playback Designsの最新SACDプレーヤー「MPS-6」を聴く
角田郁雄
皆さま、お元気でしょうか。早くも年末が近づき、「オーディオ銘機賞2023」の受賞モデルの速報も発表されました。いろいろなジャンルにおいて受賞された製品がありますから、ぜひ購入の参考にしていただきたいと思うところです。
さてその中で、Playback DesignsのSACDプレーヤー「MPS-6」が、今回「ハイエンドオーディオ特別大賞」を受賞しました。今年の春にもこの“エーデルワイスシリーズ”についてアンドレアス・コッチ氏と対談したこともよく記憶しております。10月末の東京インターナショナルオーディオショウにおいても披露され、多くの愛好家の注目を浴び、デモ再生が行われました。
今回は、その待望の「MPS-6」を紹介したいと思います。
まず、デザインですが、同社のDAC/インテグレーテッドアンプ「IPS-3」が踏襲され、細かなボーダーラインがサイドにあしらわれています。このデザインは、従来モデルと同様、アルミ・デザイナーNEAL FEAYのアレックス・ラスムッセン氏によるものです。シンプルなデザインですが実にハイエンドモデルらしい美しい仕上がりです。
機能としては、SACD再生のほか、外部デジタル入力として、RCA同軸、光TOS、AES/EBU、USB入力(DXD、11.2MHzDSD対応)を装備するほか、独自の高速大容量伝送を実現する光伝送方式、PLINKの入出力を装備し、デジタル再生ができます。リモコンでは、SACD再生のみならず、外部デジタル入力の選択や旧モデルのDACやDDコンバーター、USB-XIIIなどとPLINKで接続するために、ファームウェアを切り替えることもできます(新ファームウェアはSONOMA、旧はCLASSICです)。
内部技術も紹介しておきましょう。フロントパネルを手前にして、トップカバーを外すと回路が観察できます。
中央には、D&M製SACDディスクドライブが確認できますが、回転振動を低減させるために、厚みのあるアルミベースの上に強固に設置されています。このドライブの下には、ディスク制御用基板が配置されています。ここで読み取られたディスクのデジタル信号は、この後部にあるデジタル処理部に伝送されます。このデジタル処理部では、PLINK、光TOS、同軸、AES/EBUからの信号を処理するほか、PCやサーバーからの信号もXMOSを使用したUSBレシーバーで処理されます。
オプションのネットワーク対応基板、STREAM-X2を取り付けるための黒色のボードの下には、アルゴリズムで動作するFPGA(スパルタンX)が1基搭載されています。これにより、ディスクドライブや前述の入力を制御し、表示パネルとリモコン、押しボタンからの信号に応じて、再生信号を右側の縦長のDAC/アナログ基板に伝送します。
この信号は、手前のTI社の4回路並列出力のラインドライバーにより、基板先頭のFPGAに伝送されているようです。このFPGAでは、全てのPCM信号を5.6MHz DSDに信号を変換後、さらに非公開のスペシャルアルゴリズムを使用し8倍、約50MHz DSDに変換されます。
同時に超小型MEMSクロックを1基使用してPLL回路を使用しない方式により、信号を同期させ、独自のPDFAS回路により、ジッターが排除されます。
その後、信号は後段の精密抵抗を主体とするディスクリート構成の1bit DACでアナログ変換されます。コッチ氏の話によると、このMEMSクロックは一般的な水晶発信器とは異なり、半導体のような動作をするそうです。衝撃や振動にも強く、電気的なノイズの多い条件でも高い精度を維持でき、高音質化に貢献するそうです。またデジタル伝送クロック生成のみならず、赤色のLED表示やコントロール・タイミングなどの全ての制御もこのワン・クロックで行っているそうです。
なお、DACはドリームシリーズと同様に、ダブル・ディファレンシャル1bit DAC(2並列差動1bit DAC)です。これは旧モデルMPS/MPD-5などの2倍になります。同じDACを並列駆動すると、変換誤差が低減でき、100dB以下という弱音の変換リニアリティが高まります。簡単に言えば、ダイナミックレンジの拡張と高解像度化が実現できるわけです。
DA変換後のアナログ信号は、TI社のSound-Plusという高精度、高音質オペアンプ「OPA 1612A」を多段に使用したバランス型ローパス・フィルターで最終出力されます。このフィルター回路の後部には、新日本無線の「MUSE 72320」という抵抗ラダー型電子ボリュームを使用し音量調整を可能にしています。
回路全体を見渡すと、一部のパーツを除き、表面実装部品を使用し、伝送距離を最短にしてハイスピード処理化させていることが特徴と言えます。
これらを駆動するメイン電源は左のカバーの中にあり、トロイダルトランス1基、10,000μF/35Vのフィルターコンデンサーを8式搭載しています。ここで生成された電源は、デジタル処理部、ディスクドライブ、DAC/アナログ回路などへ分配供給され、それぞれのローカル電源(アナログ・デバイセズの「LT3081」使用)で、各デバイスに適応する直流電圧に変換されます。まさにハイスピード電源を構成していると言えるでしょう。使用するデバイスも実に最新で、搭載回路の性能をフルに発揮させている印象を受けます。
その音質は、私の愛用するMPS-5 Limitedの中低域に厚みのあるアナログ的な、やや暖色系の音質と比較すると、カラーレーションの少ないナチュラルな超高解像度再生が特徴と言えます。格別に音の立ち上がりが俊敏で、ハイレスポンスでワイドレンジな音楽が堪能できます。
特に弱音から強音へと急変する楽曲、例えばコッチ氏が開発に携わった「SONOMA デジタル・ワークステーション」を使用しオリジナルテープに遡って最新アナログミックスが行われた、近年のバーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルのマーラー交響曲全集や、ワルター指揮コロンビア管弦楽団によるベートヴェンやブラームス交響曲などでは、アナログテープレコーダーに迫る倍音豊かな音質と素晴らしい力感が体験できます。
また搭載する回路構成により、高S/Nと広いダイナミックレンジを実現していることにも好印象を受けました。さらには1bit DACらしい繊細さや柔らかさ、そして豊かな倍音再現性により、ヴォーカル、ピアノ、ヴァイオリンなどのソロ演奏を引き立てるところがあります。この点は、クラッシックファンにも高く評価されるものと推察されます。
次に愛用のSyrahサーバーとDDコンバーター「USB-XIII」を使用しハイレゾを再生しました。
いろいろなジャンルを聴きましたが、SACDと同様に明らかに解像度や空間描写性が高まった印象を受けました。特にアナログ録音時代のハイレゾ音源を再生すると、1bit DACの効果が発揮され、以前にも増してレコード再生のような質感が聴けました。私の好きなマイルス・デイヴィスのアルバムを存分に満喫することができました。シンバルやトランペットなどの金属楽器の音を聴くと、1bit DACの音質特性が確認しやすいと思います。
こうした独創的な技術と音質をもつMPS-6。読者の皆さまにも、ぜひ、専門店で試聴してみて欲しいと思うところです。
最後に、最近購入した気に入っているアルバムを紹介します。ノルウェーの高音質で有名な2Lから発売されたSACD盤です。タイトル名は現代合唱音楽の作曲家、キム・アンドレ・アネルセンによる『幸いなるかな』。アーティストは、ニーダロス大聖堂少女合唱団、トロンハイム・ソリイスツ、そのほかのアーティストが加わります。
18曲構成の心に響く壮大かつ美しい楽曲で、奇数番号の曲では壮大なタムタム(大きなドラ)が鳴り響き、そこに低い声質の男性ソロ歌手が歌唱します。偶数番号の曲では、少女合唱団や合唱団のソロ歌手が、美しい歌唱を弦楽オケとともに披露します。
ニーダロス大聖堂で録音されているだけに、残響豊かで美しい響きが堪能できます。曲によっては驚くほどの大きなドラと低音弦楽器の重低音が聴け、体に大きな音圧を浴びてしまいました。
e-onkyo musicでは、試聴サンプル音源が聴けますし、オリジナル音源に近いDXD(352.8kHz/24bit flac)でもダウンロード購入できます。まさに聴き応えのあるハイエンドアルバムと言えると思います。
さてその中で、Playback DesignsのSACDプレーヤー「MPS-6」が、今回「ハイエンドオーディオ特別大賞」を受賞しました。今年の春にもこの“エーデルワイスシリーズ”についてアンドレアス・コッチ氏と対談したこともよく記憶しております。10月末の東京インターナショナルオーディオショウにおいても披露され、多くの愛好家の注目を浴び、デモ再生が行われました。
今回は、その待望の「MPS-6」を紹介したいと思います。
シンプルだがハイエンドらしい美しさを持ったSACDプレーヤー
まず、デザインですが、同社のDAC/インテグレーテッドアンプ「IPS-3」が踏襲され、細かなボーダーラインがサイドにあしらわれています。このデザインは、従来モデルと同様、アルミ・デザイナーNEAL FEAYのアレックス・ラスムッセン氏によるものです。シンプルなデザインですが実にハイエンドモデルらしい美しい仕上がりです。
機能としては、SACD再生のほか、外部デジタル入力として、RCA同軸、光TOS、AES/EBU、USB入力(DXD、11.2MHzDSD対応)を装備するほか、独自の高速大容量伝送を実現する光伝送方式、PLINKの入出力を装備し、デジタル再生ができます。リモコンでは、SACD再生のみならず、外部デジタル入力の選択や旧モデルのDACやDDコンバーター、USB-XIIIなどとPLINKで接続するために、ファームウェアを切り替えることもできます(新ファームウェアはSONOMA、旧はCLASSICです)。
内部技術も紹介しておきましょう。フロントパネルを手前にして、トップカバーを外すと回路が観察できます。
中央には、D&M製SACDディスクドライブが確認できますが、回転振動を低減させるために、厚みのあるアルミベースの上に強固に設置されています。このドライブの下には、ディスク制御用基板が配置されています。ここで読み取られたディスクのデジタル信号は、この後部にあるデジタル処理部に伝送されます。このデジタル処理部では、PLINK、光TOS、同軸、AES/EBUからの信号を処理するほか、PCやサーバーからの信号もXMOSを使用したUSBレシーバーで処理されます。
オプションのネットワーク対応基板、STREAM-X2を取り付けるための黒色のボードの下には、アルゴリズムで動作するFPGA(スパルタンX)が1基搭載されています。これにより、ディスクドライブや前述の入力を制御し、表示パネルとリモコン、押しボタンからの信号に応じて、再生信号を右側の縦長のDAC/アナログ基板に伝送します。
この信号は、手前のTI社の4回路並列出力のラインドライバーにより、基板先頭のFPGAに伝送されているようです。このFPGAでは、全てのPCM信号を5.6MHz DSDに信号を変換後、さらに非公開のスペシャルアルゴリズムを使用し8倍、約50MHz DSDに変換されます。
同時に超小型MEMSクロックを1基使用してPLL回路を使用しない方式により、信号を同期させ、独自のPDFAS回路により、ジッターが排除されます。
その後、信号は後段の精密抵抗を主体とするディスクリート構成の1bit DACでアナログ変換されます。コッチ氏の話によると、このMEMSクロックは一般的な水晶発信器とは異なり、半導体のような動作をするそうです。衝撃や振動にも強く、電気的なノイズの多い条件でも高い精度を維持でき、高音質化に貢献するそうです。またデジタル伝送クロック生成のみならず、赤色のLED表示やコントロール・タイミングなどの全ての制御もこのワン・クロックで行っているそうです。
なお、DACはドリームシリーズと同様に、ダブル・ディファレンシャル1bit DAC(2並列差動1bit DAC)です。これは旧モデルMPS/MPD-5などの2倍になります。同じDACを並列駆動すると、変換誤差が低減でき、100dB以下という弱音の変換リニアリティが高まります。簡単に言えば、ダイナミックレンジの拡張と高解像度化が実現できるわけです。
DA変換後のアナログ信号は、TI社のSound-Plusという高精度、高音質オペアンプ「OPA 1612A」を多段に使用したバランス型ローパス・フィルターで最終出力されます。このフィルター回路の後部には、新日本無線の「MUSE 72320」という抵抗ラダー型電子ボリュームを使用し音量調整を可能にしています。
回路全体を見渡すと、一部のパーツを除き、表面実装部品を使用し、伝送距離を最短にしてハイスピード処理化させていることが特徴と言えます。
これらを駆動するメイン電源は左のカバーの中にあり、トロイダルトランス1基、10,000μF/35Vのフィルターコンデンサーを8式搭載しています。ここで生成された電源は、デジタル処理部、ディスクドライブ、DAC/アナログ回路などへ分配供給され、それぞれのローカル電源(アナログ・デバイセズの「LT3081」使用)で、各デバイスに適応する直流電圧に変換されます。まさにハイスピード電源を構成していると言えるでしょう。使用するデバイスも実に最新で、搭載回路の性能をフルに発揮させている印象を受けます。
カラーレーションの少ないナチュラルな超高解像度再生
その音質は、私の愛用するMPS-5 Limitedの中低域に厚みのあるアナログ的な、やや暖色系の音質と比較すると、カラーレーションの少ないナチュラルな超高解像度再生が特徴と言えます。格別に音の立ち上がりが俊敏で、ハイレスポンスでワイドレンジな音楽が堪能できます。
特に弱音から強音へと急変する楽曲、例えばコッチ氏が開発に携わった「SONOMA デジタル・ワークステーション」を使用しオリジナルテープに遡って最新アナログミックスが行われた、近年のバーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルのマーラー交響曲全集や、ワルター指揮コロンビア管弦楽団によるベートヴェンやブラームス交響曲などでは、アナログテープレコーダーに迫る倍音豊かな音質と素晴らしい力感が体験できます。
また搭載する回路構成により、高S/Nと広いダイナミックレンジを実現していることにも好印象を受けました。さらには1bit DACらしい繊細さや柔らかさ、そして豊かな倍音再現性により、ヴォーカル、ピアノ、ヴァイオリンなどのソロ演奏を引き立てるところがあります。この点は、クラッシックファンにも高く評価されるものと推察されます。
次に愛用のSyrahサーバーとDDコンバーター「USB-XIII」を使用しハイレゾを再生しました。
いろいろなジャンルを聴きましたが、SACDと同様に明らかに解像度や空間描写性が高まった印象を受けました。特にアナログ録音時代のハイレゾ音源を再生すると、1bit DACの効果が発揮され、以前にも増してレコード再生のような質感が聴けました。私の好きなマイルス・デイヴィスのアルバムを存分に満喫することができました。シンバルやトランペットなどの金属楽器の音を聴くと、1bit DACの音質特性が確認しやすいと思います。
こうした独創的な技術と音質をもつMPS-6。読者の皆さまにも、ぜひ、専門店で試聴してみて欲しいと思うところです。
最近の注目アルバム。美しい響きが堪能できる2Lレーベル『幸いなるかな』
最後に、最近購入した気に入っているアルバムを紹介します。ノルウェーの高音質で有名な2Lから発売されたSACD盤です。タイトル名は現代合唱音楽の作曲家、キム・アンドレ・アネルセンによる『幸いなるかな』。アーティストは、ニーダロス大聖堂少女合唱団、トロンハイム・ソリイスツ、そのほかのアーティストが加わります。
18曲構成の心に響く壮大かつ美しい楽曲で、奇数番号の曲では壮大なタムタム(大きなドラ)が鳴り響き、そこに低い声質の男性ソロ歌手が歌唱します。偶数番号の曲では、少女合唱団や合唱団のソロ歌手が、美しい歌唱を弦楽オケとともに披露します。
ニーダロス大聖堂で録音されているだけに、残響豊かで美しい響きが堪能できます。曲によっては驚くほどの大きなドラと低音弦楽器の重低音が聴け、体に大きな音圧を浴びてしまいました。
e-onkyo musicでは、試聴サンプル音源が聴けますし、オリジナル音源に近いDXD(352.8kHz/24bit flac)でもダウンロード購入できます。まさに聴き応えのあるハイエンドアルバムと言えると思います。