公開日 2023/09/15 06:39
【特別企画】“今”を奏でるスピーカー
“リーズナブルなHiFi”の代名詞、Polk Audioのフロア型スピーカー3モデル聴き比べ
大橋伸太郎
ポークオーディオは、1972年にジョンズ・ホプキンス大学に学ぶ学生たちが創業した。その時彼等はどんな音楽の中にいただろうか。ヘヴィーなロックやエレクトリックジャズ、シンガーソングライターが台頭し、アメリカの音楽が変化の真只中にあった疾風怒濤の時代であった。
ロックも人間の喜怒哀楽を歌う音楽である。騒々しくがさつな音楽と決めつけたら、ジャニス・ジョプリンやニール・ヤングを知らないのと同じである。“赤心の音楽表現”、マシュー・ポークたちがオーディオに求めたのは何より音楽が聴き手に近くリアルであることでなかったか。
50年後の今、北米を代表する存在のポークオーディオの最新スピーカーを聴いても、質実剛健で飾り気がなく気っぷがいい。大切にしているのはダイレクトな音楽表現。技術が進歩しても、初心は不変である。
前回はポークオーディオのブックシェルフ型を聴いたが、今回はフロアスタンディング型を聴いてみよう。
注目したいのは、低域の表現である。音楽は低音の支えが大事で、低音楽器の明瞭さと躍動感が音楽に活気をもたらすことをポークオーディオは知っている。そこからパワーポートを始めとする同社の低音再生技術が生まれた。
フロアスタンディング型の場合、低域ユニットの数を増やし、エンクロージャーの容積の余裕で自然に最低共振周波数を下げることができる。そこに同社の独自技術が加わって生まれる再生音に、興味が尽きない。
代表的な3ラインのフロアスタンディングを聴いたが、興味深いことに低域ユニットの使用法がすべて異なる。最初に聴いたのは、Signature EliteシリーズからES60。
バスユニットは、165mmダイナミック・バランス・ポリプロピレン・ドライバー3基をパラレル駆動。それにポリエステル系テリレン・ドーム・トゥイーターの4スピーカー構成。バスレフ方式だがPower Portが下部に開口する。低域の量感を重視し、バスドライバーの個数を増やした一方で、再生の上限を伸ばし鮮度感や解像感を印象付ける。
ボブ・ジェームス・トリオの『フィール・ライク・メイキング・ライヴ!』は定位に優れ、トリオの繰り出す多彩な楽音の数々が演奏を目の前にしているかのように克明かつ濃密に描かれる。ベースの量感が豊かで、ドラムスの打撃が重く近く、シンバルが華やかに散乱する。ドラムソロのダイナミックレンジの大きさ、音場を使いきる大きな表現も見事。何より聴き手を楽しませる大らかさがある。
日本語ロックの名盤『風街ろまん』から「はいからはくち」。ロックらしい重量感と音圧だが、解像感を失わず楽音が解れて演奏に立体感がある。「夏なんです」は音がしっかり前に出るので、順光に照らされくっきり鮮明な楽音にひんやり深い音影が生まれ、歌詞に歌われる情景と一致して心地よい。トリプルウーファーが低域の量感を稼ぐが、パラレル駆動のシンプルな2ウェイ構成で位相回転を避け、鮮明な定位と音像描写のソリッドな音楽を生んでいる。
次にエントリーゾーンのMXT60。このラインのフロア型下位で2ウェイ4スピーカー構成。165mmバイラミネート・コンポジット・ウーファーと同径のパッシブラジエーター2基、テリレン・ドーム・トゥイーターで構成。モニターXTシリーズは、音圧や解像感よりFレンジのバランスを重視し、オールラウンダーの使いよさが身上。
エントリークラスにありがちな効果的な演出がなく、その点でモニターの名に恥じない。低音表現に手抜きがなく、『フィール・ライク・メイキング・ライヴ!』でのベースラインは明瞭かつ存在感豊かだが、引き締まって忠実性を失わない。ソース本来のバランスを求める耳のいいリスナーのスピーカーと言えよう。音に活気があり、聴き手を楽しませることを忘れない。
小音量でもソロになると演奏の細部まで克明で、スタジオで聴く鮮度がある。アンドラーシュ・シフの弾く『ブラームス:ピアノ協奏曲』は、ブリュートナーの素朴な音色、なめらかなクレッシェンド表現が奥行き豊かな音場に描き出される。エントリークラスにして、ピュアオーディオの弱音表現がここにある。
最後に、日本市場での最上位RESERVEシリーズからR700。ミッドレンジは165mmタービンコーン、ウーファーは200mmアルミ・ポリプロピレン・コーン2基のパラレル駆動。トゥィーターは25mmピナクル・リングラジエーター。バスレフ方式でPower Port 2.0が底部に開口する。
『フィール・ライク・メイキング・ライヴ!』の低域表現は、近来のミドルクラスフロア型スピーカー中傑出。アコースティックベースはソロの胴鳴りが自然で弾力に富み、音程による響きの変化も明瞭かつニュアンス豊か。
圧巻は、セシル・マクロリン・サルヴァントが歌で綴る、精霊の物語『メリュジーヌ』。湿っぽい暗い音質のスピーカーでは、この悲しみは出せない。明るく曇りのない大らかな音質の本機だから、滔々と湧き出る感情が聴き手の心を揺さぶるのだ。音楽の心を掘り下げるヒューマンな表現力のスピーカーであることを実感。
はっぴいえんどのみずみずしさはどうだ! タイムマシンで生演奏が50年前から運ばれてきたようではないか。細野晴臣の野太いベースのうねり、松本隆のスネアの打撃を野放図に音場に解き放つ。野卑な音も音楽だ。これが出ないとロックンロールにならない。R700の実直一途な設計、具体的にはエンクロージャーの剛性、広帯域と周波数レスポンスの高さの証左である。
試聴した3モデルはブックシェルフとの対照より、それぞれのシリーズに一貫する再現性を強く伺わせる。低域の表現に関して言えば、実在感をもって骨太に再現するES60、端正なプロポーションの確かな支えのMXT60、低音がニュアンス豊かな音楽そのもののR700と表現することができる。その上に構築される音楽はどれもはつらつと生気に満ちている。ポークオーディオは“今”を奏でるスピーカーなのだ。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.190』からの転載です
ロックも人間の喜怒哀楽を歌う音楽である。騒々しくがさつな音楽と決めつけたら、ジャニス・ジョプリンやニール・ヤングを知らないのと同じである。“赤心の音楽表現”、マシュー・ポークたちがオーディオに求めたのは何より音楽が聴き手に近くリアルであることでなかったか。
50年後の今、北米を代表する存在のポークオーディオの最新スピーカーを聴いても、質実剛健で飾り気がなく気っぷがいい。大切にしているのはダイレクトな音楽表現。技術が進歩しても、初心は不変である。
前回はポークオーディオのブックシェルフ型を聴いたが、今回はフロアスタンディング型を聴いてみよう。
注目したいのは、低域の表現である。音楽は低音の支えが大事で、低音楽器の明瞭さと躍動感が音楽に活気をもたらすことをポークオーディオは知っている。そこからパワーポートを始めとする同社の低音再生技術が生まれた。
フロアスタンディング型の場合、低域ユニットの数を増やし、エンクロージャーの容積の余裕で自然に最低共振周波数を下げることができる。そこに同社の独自技術が加わって生まれる再生音に、興味が尽きない。
人気シリーズを再設計したSignature Eliteシリーズ
代表的な3ラインのフロアスタンディングを聴いたが、興味深いことに低域ユニットの使用法がすべて異なる。最初に聴いたのは、Signature EliteシリーズからES60。
バスユニットは、165mmダイナミック・バランス・ポリプロピレン・ドライバー3基をパラレル駆動。それにポリエステル系テリレン・ドーム・トゥイーターの4スピーカー構成。バスレフ方式だがPower Portが下部に開口する。低域の量感を重視し、バスドライバーの個数を増やした一方で、再生の上限を伸ばし鮮度感や解像感を印象付ける。
ボブ・ジェームス・トリオの『フィール・ライク・メイキング・ライヴ!』は定位に優れ、トリオの繰り出す多彩な楽音の数々が演奏を目の前にしているかのように克明かつ濃密に描かれる。ベースの量感が豊かで、ドラムスの打撃が重く近く、シンバルが華やかに散乱する。ドラムソロのダイナミックレンジの大きさ、音場を使いきる大きな表現も見事。何より聴き手を楽しませる大らかさがある。
日本語ロックの名盤『風街ろまん』から「はいからはくち」。ロックらしい重量感と音圧だが、解像感を失わず楽音が解れて演奏に立体感がある。「夏なんです」は音がしっかり前に出るので、順光に照らされくっきり鮮明な楽音にひんやり深い音影が生まれ、歌詞に歌われる情景と一致して心地よい。トリプルウーファーが低域の量感を稼ぐが、パラレル駆動のシンプルな2ウェイ構成で位相回転を避け、鮮明な定位と音像描写のソリッドな音楽を生んでいる。
圧倒的なコストパフォーマンスのMonitor XTシリーズ
次にエントリーゾーンのMXT60。このラインのフロア型下位で2ウェイ4スピーカー構成。165mmバイラミネート・コンポジット・ウーファーと同径のパッシブラジエーター2基、テリレン・ドーム・トゥイーターで構成。モニターXTシリーズは、音圧や解像感よりFレンジのバランスを重視し、オールラウンダーの使いよさが身上。
エントリークラスにありがちな効果的な演出がなく、その点でモニターの名に恥じない。低音表現に手抜きがなく、『フィール・ライク・メイキング・ライヴ!』でのベースラインは明瞭かつ存在感豊かだが、引き締まって忠実性を失わない。ソース本来のバランスを求める耳のいいリスナーのスピーカーと言えよう。音に活気があり、聴き手を楽しませることを忘れない。
小音量でもソロになると演奏の細部まで克明で、スタジオで聴く鮮度がある。アンドラーシュ・シフの弾く『ブラームス:ピアノ協奏曲』は、ブリュートナーの素朴な音色、なめらかなクレッシェンド表現が奥行き豊かな音場に描き出される。エントリークラスにして、ピュアオーディオの弱音表現がここにある。
プレミアム品質を手の届く価格で提供するRESERVEシリーズ
最後に、日本市場での最上位RESERVEシリーズからR700。ミッドレンジは165mmタービンコーン、ウーファーは200mmアルミ・ポリプロピレン・コーン2基のパラレル駆動。トゥィーターは25mmピナクル・リングラジエーター。バスレフ方式でPower Port 2.0が底部に開口する。
『フィール・ライク・メイキング・ライヴ!』の低域表現は、近来のミドルクラスフロア型スピーカー中傑出。アコースティックベースはソロの胴鳴りが自然で弾力に富み、音程による響きの変化も明瞭かつニュアンス豊か。
圧巻は、セシル・マクロリン・サルヴァントが歌で綴る、精霊の物語『メリュジーヌ』。湿っぽい暗い音質のスピーカーでは、この悲しみは出せない。明るく曇りのない大らかな音質の本機だから、滔々と湧き出る感情が聴き手の心を揺さぶるのだ。音楽の心を掘り下げるヒューマンな表現力のスピーカーであることを実感。
はっぴいえんどのみずみずしさはどうだ! タイムマシンで生演奏が50年前から運ばれてきたようではないか。細野晴臣の野太いベースのうねり、松本隆のスネアの打撃を野放図に音場に解き放つ。野卑な音も音楽だ。これが出ないとロックンロールにならない。R700の実直一途な設計、具体的にはエンクロージャーの剛性、広帯域と周波数レスポンスの高さの証左である。
試聴した3モデルはブックシェルフとの対照より、それぞれのシリーズに一貫する再現性を強く伺わせる。低域の表現に関して言えば、実在感をもって骨太に再現するES60、端正なプロポーションの確かな支えのMXT60、低音がニュアンス豊かな音楽そのもののR700と表現することができる。その上に構築される音楽はどれもはつらつと生気に満ちている。ポークオーディオは“今”を奏でるスピーカーなのだ。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.190』からの転載です
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