公開日 2024/02/20 06:30
従来モデルとの性能差は?
測定と新旧比較でわかった「新世代パネル4Kテレビ」の進化具合。MLA-OLED/QD-OLED/Mini LED+QD 画質チェック!
鴻池賢三
ハイエンド・4Kテレビの画質は、有機EL/液晶ともに新たなレベルに達している。そのきっかけはズバリ“新世代パネル”の搭載である。有機ELでは「MLA-OLED」や「QD-OLED」、液晶では「Mini LED+QD(Quantum Dot)」といった技術が登場し、各社がこぞってハイエンドモデルに採り入れて “高輝度”や“広色域”をアピールしている。では、これらの新世代パネルが、従来のデバイスと比べてどのような進化を遂げているのだろうか。
本稿では、新世代パネルを採用したモデルと従来モデルが、具体的にどのような性能差を持つのか、測定を交えて詳解していく。最新のハイエンドモデルを選ぶべき理由が見つかるはずだ。
有機ELパネルの供給において先行してきたLGディスプレイが開発するMLA-OLEDは、有機EL発光部の前面に微細で数億個レベルに達する「マイクロレンズアレイ(MLA)」敷き詰めた構造を採用しており、従来のパネルよりも映像光を高効率に前面へと導くことができるため、飛躍的な高輝度化を実現したパネルだ。
有機ELテレビは暗いと言われることがあったため、従来のハイエンド・4K有機ELテレビでも高輝度化を図った有機ELパネルが採用されていたが、MLA-OLEDはさらに明るさを追求していることが特徴的。今回は、MLA-OLEDを搭載した2023年度のパナソニック・最上位モデル「MZ2500シリーズ」(TH-55MZ2500)と従来パネルを採用した2023年度モデル「MZ1800シリーズ」(TH-55MZ1800)を比較した。
輝度測定は、映像モード「シネマプロ」で実施。測定パターンは、面積が全画面に対して10%の白色(輝度100%)で行い、ピーク輝度を想定した数値を確認した。結果は歴然で、MZ1800シリーズが1,000cd/m2弱なのに対し、MZ2500シリーズは1,446cd/m2をマーク。約1.5倍の高輝度化が確認できた。色温度を高くしたり、発光面積をさらに小さくすると、もっと大きな値や違いが出るだろう。色域性能も測定したが、両者ともDCI-P3相当。つまり、色域性能を犠牲にすることなく、純粋に高輝度化できているのだ。
実際の観え方は、ひとつのデモ映像で複数のMax CLLを確認できる評価用4K UHD BD『Spears & Munsil Ultra HD ベンチマーク』で確認。600nitsまでは両モデルとも同等の見え方だが、1,000nitsで違いが感じられ、 2,000nitsになると輝度性能差が如実に表れる。
MZ2500シリーズは、雪山のシーンで太陽が当たっている斜面が明確に把握でき、全体の印象として立体感も高い。日没前の夕景は、太陽が輝きつつもしっかりとオレンジ色が乗りリアルだ。空の明るいグラデーション表現も余裕があるかにように諧調が豊かで奥行き感の増長に繋がっている。
ほかにも、太陽が海面を反射感してキラキラと輝く様、夜空に浮かぶ月の実在感、夜景の光源感などが実風景を肉眼で見るかのようにリアリティが高い。高輝度化によるコントラストアップは、黒も相対的に引き締まって見え、画質として明らかな新世代と言える。パナソニックの画作りだが、パネル輝度性能以上のMax CLLのコンテンツが入力されても、ソフトクリップで明部が白飛びしたように見えないのも好ましい。
QD-OLEDを供給しているのはサムスンディスプレイで、青色発光の有機ELに光の波長変換技術である「量子ドット技術(Quantum Dot)」を組み合わせることによって緑色と赤色を得て、RGBのサブピクセルでフルカラーを表現する。量子ドット技術による精密な波長変換は、必要な色以外をやんわりと濾し取るカラーフィルターよりも光の利用効率が高く、原理的に広色域化と高輝度化が可能なのが大きな特長だ。
今回は、QD-OLEDパネルを採用した2023年度のシャープ・フラグシップモデル「FS1ライン」(4T-C55FS1)と、従来パネルを採用した2022年度モデル「EQ1ライン」(4T-C55EQ1)を比較測定した。測定の際は、映像モードを「映画」に揃えた。
測定結果により、やはり色域に明らかな違いがあることが確認できた。最新の色域規格BT.2020(1976 uv)比で、EQ1ラインはカバー率が78%なのに対しFS1ラインは89%をマーク。78%でもDCI-P3相当で優秀なのだが、BT.2020時代であることを考えるとより広い89%は嬉しい進化だ。輝度も測定したところ、条件を揃えてEQ1ラインが約550 cd/m2の所、FS1ラインは同約1,200 cd/m2と明るい。QD技術が明るさを犠牲にすることなく、飛躍的な高色域化を達成していると言える。
実際の観え方をデモ映像で横並び確認。映像モードによるが、FS1ラインは基本としてテレビ側で過度な色拡張を行わないことや、自然映像に極端なRGB原色成分が含まれないことから、極端な違いは見られないが、主に黄系色で違いを体感できた。
蝶の黄色い腹は、明るくても黄色がしっかりと残り、豊かな明暗差が立体感の高さとして感じられる。はちみつに照明が当たるシーンも色純度が高くピーク輝度もアップしているよう感じる。夜景はビルの航空灯の赤色や原色に近いネオンの輝きが色を維持したまま明るく輝き、肉眼で夜景を観るような印象を得られるのは、QD-OLEDの真骨頂と言える。高色域性能は、アニメやゲームなどCGとも相性が良さそうだ。
液晶テレビで注目するべきは、Mini LED+QD(量子ドット技術)だ。近年のハイエンド・4K液晶テレビでは、バックライトに従来デバイスよりも高密度にLEDを配置した青色発光の「Mini LED」の技術と、波長変換技術の量子ドット技術(Quantum Dot)が組み合わさっているものとなっている。Mini LEDで高輝度/高コントラスト、量子ドット技術で広色域を実現している。また同時に省エネ化も可能と言われている。
測定では、Mini LED+QDを採用した2023年度のパナソニック・フラグシップモデル「MX950シリーズ」(TH-55MX950)と従来のLEDバックライトのみを使用している2023年度モデル「MX800シリーズ」(TH-55MX800)の2台を用いて比較した。
今回は、映像モード「シネマプロ」を選択し、「バックライトAI」をオンにした測定を行った。測定パターンも面積が10%の白色で、Mini LEDならではのピーク輝度性能を確認してみると、結果はMX950シリーズが約1,350 cd/m2で、同様の条件で測定したMX800シリーズは約480 cd/m2と約3倍もの違いが表れた。
また量子ドット技術で期待できる色域の広さも、BT.2020(1976 uv)比で、MX800シリーズはカバー率が約71%なのに対し、MX950シリーズは約82%をマークしており、色域が明らかに広いことが明確だ。高輝度化と高色域化の相乗効果により、カラーボリュームが大きくなる、言い換えると明部を中心に表現できる色の数が増えて表現力がより豊かになることが期待できる。
実際に映像を観ると、今回用意した2モデルはパネルのコントラスト比が大きく違うので比較が難しいが、MX950シリーズは映像が明るく、特にピーク付近は輝度と色純度を両立により力強い画力が圧巻だ。例えば、万年筆の金色のペン先は、明るく色乗りの良い金色が光沢感を高めてリアルに感じられる。パネルのコントラストの高さもあるが、高輝度化と高色域化によるダイナミックな表現が、全体として実在感や立体的な表現に繋がっているようだ。
ハイエンド・4Kテレビがセールスポイントとして謳う、MLA-OLED/QD-OLED/Mini LED+QDによる明らかな違いを、今回の測定によって確認できた。また、測定結果を参照しつつ実際の映像を確認すると、測定通りに映像表現に対してプラスに働いていることもわかった。
現行テレビは、十分に高輝度化が進んでいるが、HDRコンテンツにおいてはピーク輝度が高いモデルほど高コントラストであり、量子ドット技術による広色域化が施されているモデルほどピーク輝度付近の色乗りが増しているため、高画質な映像表現を叶えるポテンシャルが高いと言えるだろう。
また、ハイエンドモデルは、新世代パネルのポテンシャルを活かすことができる、各社各様の高画質技術が搭載されているため、さらに高水準な映像を楽しむことができる。今回の取材が、ハイエンドモデルの購入で迷っている読者の製品選びの参考になれば幸いだ。
<測定機器・レファレンス機器>
・測定協力:株式会社エディピット
・測定ソフトウェア: Portrait Displays「Calman Ultimate」
・パターンジェネレーター:Portrait Displays「VideoForge Pro 4K HDR」
・測定機:KONICA MINOLTA「CA-P427」
・視聴ディスク:4K UHD BD『The Spears & Munsil UHD HDR ベンチマーク』
・HDMI分配機:RATOC「RS-HDSP8P-4K」
本稿では、新世代パネルを採用したモデルと従来モデルが、具体的にどのような性能差を持つのか、測定を交えて詳解していく。最新のハイエンドモデルを選ぶべき理由が見つかるはずだ。
■色表現はそのままに純粋に高輝度化を実現する「MLA-OLED」
有機ELパネルの供給において先行してきたLGディスプレイが開発するMLA-OLEDは、有機EL発光部の前面に微細で数億個レベルに達する「マイクロレンズアレイ(MLA)」敷き詰めた構造を採用しており、従来のパネルよりも映像光を高効率に前面へと導くことができるため、飛躍的な高輝度化を実現したパネルだ。
有機ELテレビは暗いと言われることがあったため、従来のハイエンド・4K有機ELテレビでも高輝度化を図った有機ELパネルが採用されていたが、MLA-OLEDはさらに明るさを追求していることが特徴的。今回は、MLA-OLEDを搭載した2023年度のパナソニック・最上位モデル「MZ2500シリーズ」(TH-55MZ2500)と従来パネルを採用した2023年度モデル「MZ1800シリーズ」(TH-55MZ1800)を比較した。
輝度測定は、映像モード「シネマプロ」で実施。測定パターンは、面積が全画面に対して10%の白色(輝度100%)で行い、ピーク輝度を想定した数値を確認した。結果は歴然で、MZ1800シリーズが1,000cd/m2弱なのに対し、MZ2500シリーズは1,446cd/m2をマーク。約1.5倍の高輝度化が確認できた。色温度を高くしたり、発光面積をさらに小さくすると、もっと大きな値や違いが出るだろう。色域性能も測定したが、両者ともDCI-P3相当。つまり、色域性能を犠牲にすることなく、純粋に高輝度化できているのだ。
実際の観え方は、ひとつのデモ映像で複数のMax CLLを確認できる評価用4K UHD BD『Spears & Munsil Ultra HD ベンチマーク』で確認。600nitsまでは両モデルとも同等の見え方だが、1,000nitsで違いが感じられ、 2,000nitsになると輝度性能差が如実に表れる。
MZ2500シリーズは、雪山のシーンで太陽が当たっている斜面が明確に把握でき、全体の印象として立体感も高い。日没前の夕景は、太陽が輝きつつもしっかりとオレンジ色が乗りリアルだ。空の明るいグラデーション表現も余裕があるかにように諧調が豊かで奥行き感の増長に繋がっている。
ほかにも、太陽が海面を反射感してキラキラと輝く様、夜空に浮かぶ月の実在感、夜景の光源感などが実風景を肉眼で見るかのようにリアリティが高い。高輝度化によるコントラストアップは、黒も相対的に引き締まって見え、画質として明らかな新世代と言える。パナソニックの画作りだが、パネル輝度性能以上のMax CLLのコンテンツが入力されても、ソフトクリップで明部が白飛びしたように見えないのも好ましい。
■輝度が高いシーンでも優れた色鮮やかさを叶える「QD-OLED」
QD-OLEDを供給しているのはサムスンディスプレイで、青色発光の有機ELに光の波長変換技術である「量子ドット技術(Quantum Dot)」を組み合わせることによって緑色と赤色を得て、RGBのサブピクセルでフルカラーを表現する。量子ドット技術による精密な波長変換は、必要な色以外をやんわりと濾し取るカラーフィルターよりも光の利用効率が高く、原理的に広色域化と高輝度化が可能なのが大きな特長だ。
今回は、QD-OLEDパネルを採用した2023年度のシャープ・フラグシップモデル「FS1ライン」(4T-C55FS1)と、従来パネルを採用した2022年度モデル「EQ1ライン」(4T-C55EQ1)を比較測定した。測定の際は、映像モードを「映画」に揃えた。
測定結果により、やはり色域に明らかな違いがあることが確認できた。最新の色域規格BT.2020(1976 uv)比で、EQ1ラインはカバー率が78%なのに対しFS1ラインは89%をマーク。78%でもDCI-P3相当で優秀なのだが、BT.2020時代であることを考えるとより広い89%は嬉しい進化だ。輝度も測定したところ、条件を揃えてEQ1ラインが約550 cd/m2の所、FS1ラインは同約1,200 cd/m2と明るい。QD技術が明るさを犠牲にすることなく、飛躍的な高色域化を達成していると言える。
実際の観え方をデモ映像で横並び確認。映像モードによるが、FS1ラインは基本としてテレビ側で過度な色拡張を行わないことや、自然映像に極端なRGB原色成分が含まれないことから、極端な違いは見られないが、主に黄系色で違いを体感できた。
蝶の黄色い腹は、明るくても黄色がしっかりと残り、豊かな明暗差が立体感の高さとして感じられる。はちみつに照明が当たるシーンも色純度が高くピーク輝度もアップしているよう感じる。夜景はビルの航空灯の赤色や原色に近いネオンの輝きが色を維持したまま明るく輝き、肉眼で夜景を観るような印象を得られるのは、QD-OLEDの真骨頂と言える。高色域性能は、アニメやゲームなどCGとも相性が良さそうだ。
■高い輝度と色純度の両立で圧巻の画力の「Mini LED+QD」
液晶テレビで注目するべきは、Mini LED+QD(量子ドット技術)だ。近年のハイエンド・4K液晶テレビでは、バックライトに従来デバイスよりも高密度にLEDを配置した青色発光の「Mini LED」の技術と、波長変換技術の量子ドット技術(Quantum Dot)が組み合わさっているものとなっている。Mini LEDで高輝度/高コントラスト、量子ドット技術で広色域を実現している。また同時に省エネ化も可能と言われている。
測定では、Mini LED+QDを採用した2023年度のパナソニック・フラグシップモデル「MX950シリーズ」(TH-55MX950)と従来のLEDバックライトのみを使用している2023年度モデル「MX800シリーズ」(TH-55MX800)の2台を用いて比較した。
今回は、映像モード「シネマプロ」を選択し、「バックライトAI」をオンにした測定を行った。測定パターンも面積が10%の白色で、Mini LEDならではのピーク輝度性能を確認してみると、結果はMX950シリーズが約1,350 cd/m2で、同様の条件で測定したMX800シリーズは約480 cd/m2と約3倍もの違いが表れた。
また量子ドット技術で期待できる色域の広さも、BT.2020(1976 uv)比で、MX800シリーズはカバー率が約71%なのに対し、MX950シリーズは約82%をマークしており、色域が明らかに広いことが明確だ。高輝度化と高色域化の相乗効果により、カラーボリュームが大きくなる、言い換えると明部を中心に表現できる色の数が増えて表現力がより豊かになることが期待できる。
実際に映像を観ると、今回用意した2モデルはパネルのコントラスト比が大きく違うので比較が難しいが、MX950シリーズは映像が明るく、特にピーク付近は輝度と色純度を両立により力強い画力が圧巻だ。例えば、万年筆の金色のペン先は、明るく色乗りの良い金色が光沢感を高めてリアルに感じられる。パネルのコントラストの高さもあるが、高輝度化と高色域化によるダイナミックな表現が、全体として実在感や立体的な表現に繋がっているようだ。
■ハイエンド機は新世代パネルと屈指の高画質技術を兼備
ハイエンド・4Kテレビがセールスポイントとして謳う、MLA-OLED/QD-OLED/Mini LED+QDによる明らかな違いを、今回の測定によって確認できた。また、測定結果を参照しつつ実際の映像を確認すると、測定通りに映像表現に対してプラスに働いていることもわかった。
現行テレビは、十分に高輝度化が進んでいるが、HDRコンテンツにおいてはピーク輝度が高いモデルほど高コントラストであり、量子ドット技術による広色域化が施されているモデルほどピーク輝度付近の色乗りが増しているため、高画質な映像表現を叶えるポテンシャルが高いと言えるだろう。
また、ハイエンドモデルは、新世代パネルのポテンシャルを活かすことができる、各社各様の高画質技術が搭載されているため、さらに高水準な映像を楽しむことができる。今回の取材が、ハイエンドモデルの購入で迷っている読者の製品選びの参考になれば幸いだ。
<測定機器・レファレンス機器>
・測定協力:株式会社エディピット
・測定ソフトウェア: Portrait Displays「Calman Ultimate」
・パターンジェネレーター:Portrait Displays「VideoForge Pro 4K HDR」
・測定機:KONICA MINOLTA「CA-P427」
・視聴ディスク:4K UHD BD『The Spears & Munsil UHD HDR ベンチマーク』
・HDMI分配機:RATOC「RS-HDSP8P-4K」