公開日 2024/03/12 06:30
良い音を聴くためにはオーディオにどのぐらいお金をかければいいのか、判断が難しくなってきた。普及機とハイエンドの価格差がどんどん広がり、なかには同じメーカーのスピーカーなのに差が1000倍に及ぶ例まで出現。家電ではあり得ないレンジの広さで、それこそ楽器やアート作品に近付いているような気がする。
もう少し現実的に考えよう。仮に一台あたり100万円前後を上限に設定してみる。この価格帯なら音に妥協せず選べるし、気に入れば10年以上は使えるたしかな製品が手に入るはずだ。良い音への投資と考え、少し無理してでも良いものを手に入れたいとき、今の時代において100万円は一つの目安になる。
漠然とそう考えているオーディオファンのために、具体的な提案を用意したメーカーがある。日本の高級オーディオを代表するブランドの一つ、エソテリックである。同社が最近システム化を完成させた「05シリーズ」=ULTIMATE FIVEがまさにその成果。今回はそこに焦点を合わせて試聴を進めた。
Grandiosoシリーズを頂点にハイエンドオーディオの世界で確固たる地位を築いているだけに、納得できる性能を確保するためにあえて低価格の製品は作らない。同社のエントリーグレードはちょうど100万円前後に位置するのだが、その価格帯に最上位機種を投入しているメーカーもたくさんある。
ベースから積み上げてハイエンド機に迫る姿勢も重要だが、エソテリックのようにコスト度外視で頂点をきわめたうえで、そこで得たノウハウを実用グレードの製品に投入するのもオーディオの正攻法である。
そうして生まれた05シリーズの中核をなすのが、ネットワークDACプリの「N-05XD」である。パワーアンプ「S-05」とペアを組んでお気に入りのスピーカーを鳴らすのもよし、リファレンスグレードのヘッドフォンとつないで音楽をじっくり味わい尽くすのもよし。いずれにしてもミニマル構成のハイエンドオーディオがもたらす濃密な時間はかけがえのないものになるはずだ。
クラスA増幅回路を採用したS-05は、N-05XDと組み合わせることでエソテリック独自の電流伝送方式「ES-LINK Analog」で信号をやりとりすることができる。演奏の勢いや密度の高いエネルギー感などの長所は上位シリーズで実証済みで、エソテリック製品を選ぶ理由に挙げるリスナーが増えていることもうなずける。
N-05XDとS-05の組み合わせをコアとしながら、05シリーズの機能をさらに広げる目的で2つのコンポーネント、ディスクプレーヤーの「K-05XD」とクロックジェネレーター「G-05」が新たに導入された。ファイル音源やストリーミングなどデータ再生の潮流が広がっているとはいえ、CDとSACDが役割を終えたわけではなく、むしろその価値をあらためて見直す音楽ファンが増える傾向が日本以外でも見えてきた。
ディスクプレーヤーの開発に取り組むメーカーが限られるなか、エソテリックは上位機種の技術を受け継ぐメカニズムとディスクリートDACをK-05XDのために専用開発。まさに本腰を入れて充実したプレーヤーを完成させた。K-05XDの導入は、ディスク再生の文化を牽引してきたエソテリックの基本姿勢をあらためて印象付けるもので、実に頼もしい。
クロックジェネレーターはデジタルオーディオの音質を左右するクロック精度を極限まで高める役割を担っており、プレーヤーの内蔵クロックよりもさらに安定したクロック信号を外部から供給することで、空間情報やディテールの再現性が向上することが知られている。G-05はGrandioso G1Xと同様、ディスクリートで組んだ自社開発のクロックモジュールを導入しており、余韻の質感描写などに顕著な効果をがみられるという。05シリーズの音を一つ上のステージまで引き上げるうえで、重要な役割を演じてくれるのではないか。
N-05XDとS-05を組み合わせたコアシステムでツィンマーマンとヘルムヒェンによるスプリングソナタ(FLAC 192kHz/24bit)を聴くと、ヴァイオリンの鮮鋭な立ち上がりとピアノの柔らかい余韻がバランスよく調和して、空気が澄み切った空間で演奏している雰囲気を味わうことができた。ヴィブラートを多用していないのにツィンマーマンの音色には強い主張があり、高音部でのフォルティッシモが硬質になったり痩せることがない。
とはいえたんなる美音ではなく、ダウンボウのスフォルツァートの力強さと一音一音の勢いは実演さながらの説得力がある。ピアノとヴァイオリンの距離は近めだが、周囲に広がる自然な余韻の存在が空間の大きさや響きの特長を忠実に引き出し、余韻が漂う感触もとても自然に感じられた。特に余韻の柔らかな質感が素晴らしい。
リュートの伴奏で歌うペトラ・マゴーニのヴォーカル(DSD 2.8MHz)は、中低音でボディ感を保ちながら高音域では空気を切り裂くような鋭い音色を持つマゴーニの声の特徴を忠実に引き出す。それと同様、リュートのアルペジオは一音一音の立ち上がりが俊敏かつ明瞭でリズムの躍動感をストレートに伝え、しかも豊かなボディの鳴りと低音弦が励起する空気の動きをリアルに再現。
鋭さと厚み、速い音と柔らかい響きのように性質の異なる音の特徴が両立するのはアコースティック楽器では珍しくないのだが、それを正確にオーディオシステムで再現するのは意外に難しく、どちらか一方に偏ってしまうことが多い。N-05XDとS-05の組み合わせはその対比が実に鮮やかで、良い意味でコントラストを鮮やかに描き出してくれた。
ステージの奥行きとホール空間の広がりを聴き手に実感させる空間描写も抜きん出たものがあり、オーケストラとピアノの伴奏でソプラノが歌うモーツァルトのアリア(FLAC 96kHz/24bit)で、普及クラスのオーディオとはまさに次元が異なる立体感を味わうことができた。
舞台の上で、弦楽器と木管楽器、そしてソプラノがどんな位置関係にあるのか、さらにホールの天井はどのぐらいの高さなのか。そんな視覚的なイメージを音の情報だけで再現するのがステレオ再生の醍醐味なのだが、このシステムは最初の和音が響いた瞬間から空間イメージが目の前に展開し、柔らかい余韻に浸る心地良さを満喫することができた。声の透明感、歌うように旋律が流れるピアノの美しいレガートなど、この演奏の聴きどころをもらさず引き出している。
続いてK-05XDとG-05をシステムにつなぎ、ディスクの再生音を確認する。レイチェル・ポッジャーとブレコンバロック《ゴルトベルク変奏曲リ・イマジンド》(SACD)の第6変奏が始まった瞬間、試聴室の空気が一変したことに気付く。暗騒音の音域まで伸びた超低音が部屋を満たし、天井の高い教会の空間にワープしたような錯覚に陥うのだ。
深々とした低音がつねに漂うなかで独奏楽器は俊敏なスタッカートで切れの良いリズムを刻み、ヴァイオリンの分散和音もいっさい混濁しない。対照的な音の要素を正確に描き分け、異なる音域を受け持つ楽器の間の干渉もまるで気にならない。楽器の位置関係の正確な描写は、G-05から精度の高いクロック信号を供給するメリットの一つだ。
レア・デザンドレがテオルボの伴奏で歌う「恋の季節」(CD)は、柔らかく澄んだソプラノの美しさに息を呑む。オペラやリートを歌うときとは音色も表情も意図的に変えているが、この歌手の声にそなわる親密さや明るさ、僅かに憂いを含む中低音の陰影などが素直に伝わってくるのだ。テオルボは鮮明な発音と最低音域まで深く伸びる低音弦の響きが両立し、声の柔らかさを際立たせるとともに、ギターのように強いストロークで刻むリズムのダイナミズムもリアルに再現。表情の幅の広さ、陰影のグラデーションのきめ細かさは驚くばかりだ。
求める音の理想像を明確に描きながら技術を磨き上げて頂点をきわめ、そこで得た知見を姉妹機や下位モデルに展開する。エソテリックは創立以来その姿勢を貫いてきたメーカーの一つで、その設計手法がもたらす成果はとても大きい。05シリーズはその設計思想から生まれた最新の成果であり、ハイエンドオーディオの資質を妥協なく確保しながらスリム化に挑戦した意義は大きい。ミニマルなシステム構成からスタートでき、音に妥協したくないオーディオファンにお薦めしたい。
(提供:エソテリック)
ミニマルなハイエンドオーディオがもたらす濃密な時間
【動画あり】良質なオーディオを末長く楽しむために。エソテリック“ULTIMATE FIVE"レビュー
山之内 正まさにハイエンドの入門機、エソテリックの「05シリーズ」
良い音を聴くためにはオーディオにどのぐらいお金をかければいいのか、判断が難しくなってきた。普及機とハイエンドの価格差がどんどん広がり、なかには同じメーカーのスピーカーなのに差が1000倍に及ぶ例まで出現。家電ではあり得ないレンジの広さで、それこそ楽器やアート作品に近付いているような気がする。
もう少し現実的に考えよう。仮に一台あたり100万円前後を上限に設定してみる。この価格帯なら音に妥協せず選べるし、気に入れば10年以上は使えるたしかな製品が手に入るはずだ。良い音への投資と考え、少し無理してでも良いものを手に入れたいとき、今の時代において100万円は一つの目安になる。
漠然とそう考えているオーディオファンのために、具体的な提案を用意したメーカーがある。日本の高級オーディオを代表するブランドの一つ、エソテリックである。同社が最近システム化を完成させた「05シリーズ」=ULTIMATE FIVEがまさにその成果。今回はそこに焦点を合わせて試聴を進めた。
N-05XDとS-05の組み合わせをコアにさまざまな拡張が可能
Grandiosoシリーズを頂点にハイエンドオーディオの世界で確固たる地位を築いているだけに、納得できる性能を確保するためにあえて低価格の製品は作らない。同社のエントリーグレードはちょうど100万円前後に位置するのだが、その価格帯に最上位機種を投入しているメーカーもたくさんある。
ベースから積み上げてハイエンド機に迫る姿勢も重要だが、エソテリックのようにコスト度外視で頂点をきわめたうえで、そこで得たノウハウを実用グレードの製品に投入するのもオーディオの正攻法である。
そうして生まれた05シリーズの中核をなすのが、ネットワークDACプリの「N-05XD」である。パワーアンプ「S-05」とペアを組んでお気に入りのスピーカーを鳴らすのもよし、リファレンスグレードのヘッドフォンとつないで音楽をじっくり味わい尽くすのもよし。いずれにしてもミニマル構成のハイエンドオーディオがもたらす濃密な時間はかけがえのないものになるはずだ。
クラスA増幅回路を採用したS-05は、N-05XDと組み合わせることでエソテリック独自の電流伝送方式「ES-LINK Analog」で信号をやりとりすることができる。演奏の勢いや密度の高いエネルギー感などの長所は上位シリーズで実証済みで、エソテリック製品を選ぶ理由に挙げるリスナーが増えていることもうなずける。
N-05XDとS-05の組み合わせをコアとしながら、05シリーズの機能をさらに広げる目的で2つのコンポーネント、ディスクプレーヤーの「K-05XD」とクロックジェネレーター「G-05」が新たに導入された。ファイル音源やストリーミングなどデータ再生の潮流が広がっているとはいえ、CDとSACDが役割を終えたわけではなく、むしろその価値をあらためて見直す音楽ファンが増える傾向が日本以外でも見えてきた。
ディスクプレーヤーの開発に取り組むメーカーが限られるなか、エソテリックは上位機種の技術を受け継ぐメカニズムとディスクリートDACをK-05XDのために専用開発。まさに本腰を入れて充実したプレーヤーを完成させた。K-05XDの導入は、ディスク再生の文化を牽引してきたエソテリックの基本姿勢をあらためて印象付けるもので、実に頼もしい。
クロックジェネレーターはデジタルオーディオの音質を左右するクロック精度を極限まで高める役割を担っており、プレーヤーの内蔵クロックよりもさらに安定したクロック信号を外部から供給することで、空間情報やディテールの再現性が向上することが知られている。G-05はGrandioso G1Xと同様、ディスクリートで組んだ自社開発のクロックモジュールを導入しており、余韻の質感描写などに顕著な効果をがみられるという。05シリーズの音を一つ上のステージまで引き上げるうえで、重要な役割を演じてくれるのではないか。
空間イメージが目の前に展開し、柔らかい余韻に浸る
N-05XDとS-05を組み合わせたコアシステムでツィンマーマンとヘルムヒェンによるスプリングソナタ(FLAC 192kHz/24bit)を聴くと、ヴァイオリンの鮮鋭な立ち上がりとピアノの柔らかい余韻がバランスよく調和して、空気が澄み切った空間で演奏している雰囲気を味わうことができた。ヴィブラートを多用していないのにツィンマーマンの音色には強い主張があり、高音部でのフォルティッシモが硬質になったり痩せることがない。
とはいえたんなる美音ではなく、ダウンボウのスフォルツァートの力強さと一音一音の勢いは実演さながらの説得力がある。ピアノとヴァイオリンの距離は近めだが、周囲に広がる自然な余韻の存在が空間の大きさや響きの特長を忠実に引き出し、余韻が漂う感触もとても自然に感じられた。特に余韻の柔らかな質感が素晴らしい。
リュートの伴奏で歌うペトラ・マゴーニのヴォーカル(DSD 2.8MHz)は、中低音でボディ感を保ちながら高音域では空気を切り裂くような鋭い音色を持つマゴーニの声の特徴を忠実に引き出す。それと同様、リュートのアルペジオは一音一音の立ち上がりが俊敏かつ明瞭でリズムの躍動感をストレートに伝え、しかも豊かなボディの鳴りと低音弦が励起する空気の動きをリアルに再現。
鋭さと厚み、速い音と柔らかい響きのように性質の異なる音の特徴が両立するのはアコースティック楽器では珍しくないのだが、それを正確にオーディオシステムで再現するのは意外に難しく、どちらか一方に偏ってしまうことが多い。N-05XDとS-05の組み合わせはその対比が実に鮮やかで、良い意味でコントラストを鮮やかに描き出してくれた。
ステージの奥行きとホール空間の広がりを聴き手に実感させる空間描写も抜きん出たものがあり、オーケストラとピアノの伴奏でソプラノが歌うモーツァルトのアリア(FLAC 96kHz/24bit)で、普及クラスのオーディオとはまさに次元が異なる立体感を味わうことができた。
舞台の上で、弦楽器と木管楽器、そしてソプラノがどんな位置関係にあるのか、さらにホールの天井はどのぐらいの高さなのか。そんな視覚的なイメージを音の情報だけで再現するのがステレオ再生の醍醐味なのだが、このシステムは最初の和音が響いた瞬間から空間イメージが目の前に展開し、柔らかい余韻に浸る心地良さを満喫することができた。声の透明感、歌うように旋律が流れるピアノの美しいレガートなど、この演奏の聴きどころをもらさず引き出している。
ディスク再生でも表情の幅の広さは見事
続いてK-05XDとG-05をシステムにつなぎ、ディスクの再生音を確認する。レイチェル・ポッジャーとブレコンバロック《ゴルトベルク変奏曲リ・イマジンド》(SACD)の第6変奏が始まった瞬間、試聴室の空気が一変したことに気付く。暗騒音の音域まで伸びた超低音が部屋を満たし、天井の高い教会の空間にワープしたような錯覚に陥うのだ。
深々とした低音がつねに漂うなかで独奏楽器は俊敏なスタッカートで切れの良いリズムを刻み、ヴァイオリンの分散和音もいっさい混濁しない。対照的な音の要素を正確に描き分け、異なる音域を受け持つ楽器の間の干渉もまるで気にならない。楽器の位置関係の正確な描写は、G-05から精度の高いクロック信号を供給するメリットの一つだ。
レア・デザンドレがテオルボの伴奏で歌う「恋の季節」(CD)は、柔らかく澄んだソプラノの美しさに息を呑む。オペラやリートを歌うときとは音色も表情も意図的に変えているが、この歌手の声にそなわる親密さや明るさ、僅かに憂いを含む中低音の陰影などが素直に伝わってくるのだ。テオルボは鮮明な発音と最低音域まで深く伸びる低音弦の響きが両立し、声の柔らかさを際立たせるとともに、ギターのように強いストロークで刻むリズムのダイナミズムもリアルに再現。表情の幅の広さ、陰影のグラデーションのきめ細かさは驚くばかりだ。
求める音の理想像を明確に描きながら技術を磨き上げて頂点をきわめ、そこで得た知見を姉妹機や下位モデルに展開する。エソテリックは創立以来その姿勢を貫いてきたメーカーの一つで、その設計手法がもたらす成果はとても大きい。05シリーズはその設計思想から生まれた最新の成果であり、ハイエンドオーディオの資質を妥協なく確保しながらスリム化に挑戦した意義は大きい。ミニマルなシステム構成からスタートでき、音に妥協したくないオーディオファンにお薦めしたい。
(提供:エソテリック)