公開日 2022/08/20 07:00
ノイキャン/マイク/音質をチェック
ソニーのヘッドホン、ゲーミングかどうかで聴こえ方は違う?「WH-1000XM5」と「INZONE H9」を聴き比べ
編集部:押野 由宇
ソニーが新たに立ち上げたゲーミングブランド「INZONE」。第一弾製品として、ゲーミングヘッドセット3モデルとゲーミングモニター1モデルがすでに発売を開始しており、家電量販店の店頭でも大きくディスプレイされている。
さて、このINZONEから出ているゲーミングヘッドセットについて、少し疑問に思ったことがある。それは「わざわざINZONE製品を選ばなくとも、ソニーから出ている普通のヘッドホンでいいのでは?」ということだ。
そこで、具体的に音の聴こえ方に違いは感じられるのかを確認するために、ワイヤレスヘッドホンのフラグシップ「WH-1000XM5」と、INZONEゲーミングヘッドセットのフラグシップ「H9」を聴き比べてみた。
■音楽リスニング用ヘッドホンを “選ばない” 理由を探る
あえて「H9」をゲーミングヘッドセット同士ではなく通常ヘッドホンと比べようと思い立った理由は、その価格にある。「H9」の直販サイト価格は税込36,300円。ゲーミングとしてはかなりハイエンドだし、音楽リスニング向けのヘッドホンでもかなり性能の良いミドルクラスのモデルに手が届く。つまり購入検討時には、ゲーミングと音楽リスニング用の両方がライバルになるわけだ。
なお「WH-1000XM5」は直販サイト価格で税込49,500円なので、さらに上位になるが、このタイミングでまだ価格差が少ない前モデル「WH-1000XM4」(41,800円/税込)と比べるのもどうかということで、最新モデルをチョイスしている。
ゲーミングヘッドセットと通常のヘッドホンを区分するポイントはいくつかあるだろうが、ここではお互いに持っている機能のなかでも特徴になるであろう「ノイズキャンセリング」「マイク」「音質」を比べるかたちで、「H9」の魅力を探ってみたい。
まずはゲーミングヘッドセットとしては珍しく、またソニーが強みとしている技術であるアクティブノイズキャンセリング(ANC)の搭載について。「H9」のANC機能は、 “1000Xシリーズ” と同様の技術が用いられているということもあり、この時点で他とは一線を画する性能に期待できる。
早速試してみると、主観的な感覚だが部屋の空調をヘッドホンを着けていない状態が100%だとして、「H9」をただ着けると70%、ANCをオンにすると30%程度になるイメージ。一方の「WH-1000XM5」では、ただ着けるだけで50%、ANCオンで25%程度という感覚で、ANCオンでのノイズキャンセリング度合いに大きな差は感じない。
いずれもコンテンツの音が鳴っていれば、ANCオンの状態で外音が邪魔になるということはまったくないはずだ。「H9」のチェック中にたまたま近所を救急車が通ったので再生音量をいじってみたところ、特に大きいとは感じないほどのボリュームでサイレンの音がわからなくなった。ANC性能はかなり優秀といえる。
またこれも両者ともに搭載する外音取り込みモードについては、「WH-1000XM5」の方が強めに働く印象だが、「H9」の方が如何にもマイクで増幅して取り込みましたという感じの機械音めいた聴こえ方はしない印象だ。ただ、街なかを歩くのに安全のため外音取り込みモードをオンにするならともかく、部屋の中で周りの音に気づくために利用するのであれば、効きの自然さよりも強さが優先されるだろう。
ともあれゲーミングヘッドセットでありながら「WH-1000XM5」とこれだけ競えるノイズキャンセリング性能を持つというのは、「H9」の大きな個性と言えるだろう。
テレワーク環境の普及もあいまって、通話性能が以前よりもかなり重視されている。もちろん以前から各社ともにマイク性能はアピールされてきたが、それに拍車がかかり、音楽リスニング用モデルでもかなりクリアな通話を実現できるようになっている。
ゲーミングヘッドセットにおけるマイク性能の重要さはいうまでもないだろう。ボイスチャットで会話をしながらプレイするスタイルであれば通話機能は必須であり、自分の声がクリアに相手に届くかどうかは大きなポイントになる。
「H9」はブームマイクを搭載している。柔軟性があり、口元の適当な場所に寄せることに苦労はしないし、そこでしっかりと固定されるため邪魔になることもない。フリップミュート対応なので、くしゃみをしそうなときや、なにか口にする際など、とっさにミュートすることもできる。
一方の「WH-1000XM5」は、ブームマイクこそ非搭載だが、ビームフォーミング技術により、ガヤガヤとした環境でも装着者の声をピックアップするように設計されている。
さて、実際に試してみたところ、「H9」のマイクを通じた声はしっかり集音されてはいるが、複数人で試した共通意見として、まるで曇っているように感じられた。解像度が足りず、少し声の成分が削れてしまったかのようで、どうもひと昔前のビデオ通話感がある。
一方で「WH-1000XM5」も「H9」と同様に、集音はできているため普通のテンションで喋っても問題なく聴き取れるが、声に少しノイズが乗っていた。AIによる高精度ボイスピックアップテクノロジーが「消すほどでもないと判断したノイズ」を拾ってしまったのかもしれない。
ただ、両者ともゲームなどの背景音がある環境ではあまり気にならず、何を喋っているのかはちゃんと聴き取れる。通話性能に大きな差はないという印象で、配信用途などには厳しいが、普通に使う分には問題ないのではないだろうか。
いよいよ音質を確認していく。まず音楽リスニングにおいては、端的に言って「H9」は「WH-1000XM5」に敵わない。「WH-1000XM5」は音が柔らか、かつ滑らかで、音と音がつながっていく様が実にスムーズだ。重低音から高音の帯域に至るまで、製作者の意図しない隙間が生まれることがなく、その再現性には密度と情報量がある。
「H9」は一音一音がクッキリとしているが、その輪郭が細く、それぞれの音が個別のものとして浮いてしまっている。そのため「WH-1000XM5」で感じられた、音と音が響き合うような一体感が失われたような印象を受ける。低音の厚みや高音の伸びなど物足りなさがある。大袈裟に言うならば、音像定位に振り切った再現性だ。
ただし、これは音楽リスニングにおいてのものであり、映像鑑賞やゲームではこの再現性こそが活きてくる。
BGMとセリフとSE、そのすべてが明確に聴こえる。たとえば爆発が起きて群衆がパニックに陥ったような様々な音が入り交じるシーンでも、どの音も沈み込まずに聴き分けられるのだ。映像鑑賞においては視覚からの情報とあわせて処理されるためか、映像に対して音が分離しているようには感じない。あくまで分離しているのは音だけだ。
これを良いとするか悪いとするかは個人の感性によるところだろう。「WH-1000XM5」では上述のようなシーンはカオス感が増すし、重低音は地響きを伴い、自分がその場にいるような臨場感が得られる。そもそもの再生能力の高さから言っても、音を聴き分けようと意識すれば聴き分けられないわけではない。
しかし聴き分けに集中していては、映像への没入感が削がれてしまう。アニメ作品で声の演技をしっかり感じ取りたい、といったときには、「H9」なら意識せずにそれが楽しめるというわけだ。
ゲームプレイにおいても、この傾向がそのまま聴こえ方の違いとして表れる。『Apex Legends』をプレイすると、「WH-1000XM5」は臨場感抜群で、ゲームの世界に入り込んだかのように思える。近くで爆発音がすれば、敵に狙われているという緊張が普段より高まるなど、素直に楽しくプレイできる。
ただ、敵の位置が把握できるかという面では、方向性が少し掴みにくいだけでなく、遠近感がかなり分かりづらい。音の情報を頼りに「敵はこっちかな?」と走り出すと、思った以上に近くにいて驚いたことが何度かあった。
「H9」はとにかく定位が優秀で、敵の方向性や距離が音の情報でかなり正確に把握できる。建物の裏のような見えない位置にいる敵も、音でその移動先を把握できるため、先回りすることも逃げることもしやすい。
逆に「WH-1000XM5」に比べると、1つ1つの音の情報量が少なく、没入感が薄い。ゲームプレイの目的をどこに置くかだが、勝つためのプレイには向くものの、楽しく遊ぶといった意味合いでは少し音が寂しい。ある程度の方向が把握できれば十分なオープンワールドゲームやRPGなどの作品ではそれがより顕著になるだろう。
なおPC接続でも空間再現性能に特化した方向性は変わらないが、専用ソフト「INZONE Hub」の活用や個人最適化機能を用いることで、そのレベルが高められるような印象だ。あまりバランスを変えると、定位が優秀という「H9」の特徴をオミットしてしまうかもしれないが、勝敗重視ではないタイトルを遊ぶ際にはイコライジングなどをいじってみるのもいいかもしれない。
◇
このように、ソニーブランドとINZONEブランドのヘッドホン/ゲーミングヘッドセットを聴き比べてみたが、音作りにおいて大きな方向性の違いを感じられた。
ではどちらが使いやすいかといえば、好みもあろうが、汎用性においては「WH-1000XM5」に軍配が上がる。しかし「WH-1000XM5」があらゆるシーンで勝るかといえばそうではない。「H9」は『とにかくゲーム専用に使うゲーミングヘッドセット、それも敵の位置が分かるモデルが欲しい』という方に、一度体験してみて欲しいモデルだ。
さて、このINZONEから出ているゲーミングヘッドセットについて、少し疑問に思ったことがある。それは「わざわざINZONE製品を選ばなくとも、ソニーから出ている普通のヘッドホンでいいのでは?」ということだ。
そこで、具体的に音の聴こえ方に違いは感じられるのかを確認するために、ワイヤレスヘッドホンのフラグシップ「WH-1000XM5」と、INZONEゲーミングヘッドセットのフラグシップ「H9」を聴き比べてみた。
■音楽リスニング用ヘッドホンを “選ばない” 理由を探る
あえて「H9」をゲーミングヘッドセット同士ではなく通常ヘッドホンと比べようと思い立った理由は、その価格にある。「H9」の直販サイト価格は税込36,300円。ゲーミングとしてはかなりハイエンドだし、音楽リスニング向けのヘッドホンでもかなり性能の良いミドルクラスのモデルに手が届く。つまり購入検討時には、ゲーミングと音楽リスニング用の両方がライバルになるわけだ。
なお「WH-1000XM5」は直販サイト価格で税込49,500円なので、さらに上位になるが、このタイミングでまだ価格差が少ない前モデル「WH-1000XM4」(41,800円/税込)と比べるのもどうかということで、最新モデルをチョイスしている。
ゲーミングヘッドセットと通常のヘッドホンを区分するポイントはいくつかあるだろうが、ここではお互いに持っている機能のなかでも特徴になるであろう「ノイズキャンセリング」「マイク」「音質」を比べるかたちで、「H9」の魅力を探ってみたい。
■ANC性能について
まずはゲーミングヘッドセットとしては珍しく、またソニーが強みとしている技術であるアクティブノイズキャンセリング(ANC)の搭載について。「H9」のANC機能は、 “1000Xシリーズ” と同様の技術が用いられているということもあり、この時点で他とは一線を画する性能に期待できる。
早速試してみると、主観的な感覚だが部屋の空調をヘッドホンを着けていない状態が100%だとして、「H9」をただ着けると70%、ANCをオンにすると30%程度になるイメージ。一方の「WH-1000XM5」では、ただ着けるだけで50%、ANCオンで25%程度という感覚で、ANCオンでのノイズキャンセリング度合いに大きな差は感じない。
いずれもコンテンツの音が鳴っていれば、ANCオンの状態で外音が邪魔になるということはまったくないはずだ。「H9」のチェック中にたまたま近所を救急車が通ったので再生音量をいじってみたところ、特に大きいとは感じないほどのボリュームでサイレンの音がわからなくなった。ANC性能はかなり優秀といえる。
またこれも両者ともに搭載する外音取り込みモードについては、「WH-1000XM5」の方が強めに働く印象だが、「H9」の方が如何にもマイクで増幅して取り込みましたという感じの機械音めいた聴こえ方はしない印象だ。ただ、街なかを歩くのに安全のため外音取り込みモードをオンにするならともかく、部屋の中で周りの音に気づくために利用するのであれば、効きの自然さよりも強さが優先されるだろう。
ともあれゲーミングヘッドセットでありながら「WH-1000XM5」とこれだけ競えるノイズキャンセリング性能を持つというのは、「H9」の大きな個性と言えるだろう。
■マイク性能について
テレワーク環境の普及もあいまって、通話性能が以前よりもかなり重視されている。もちろん以前から各社ともにマイク性能はアピールされてきたが、それに拍車がかかり、音楽リスニング用モデルでもかなりクリアな通話を実現できるようになっている。
ゲーミングヘッドセットにおけるマイク性能の重要さはいうまでもないだろう。ボイスチャットで会話をしながらプレイするスタイルであれば通話機能は必須であり、自分の声がクリアに相手に届くかどうかは大きなポイントになる。
「H9」はブームマイクを搭載している。柔軟性があり、口元の適当な場所に寄せることに苦労はしないし、そこでしっかりと固定されるため邪魔になることもない。フリップミュート対応なので、くしゃみをしそうなときや、なにか口にする際など、とっさにミュートすることもできる。
一方の「WH-1000XM5」は、ブームマイクこそ非搭載だが、ビームフォーミング技術により、ガヤガヤとした環境でも装着者の声をピックアップするように設計されている。
さて、実際に試してみたところ、「H9」のマイクを通じた声はしっかり集音されてはいるが、複数人で試した共通意見として、まるで曇っているように感じられた。解像度が足りず、少し声の成分が削れてしまったかのようで、どうもひと昔前のビデオ通話感がある。
一方で「WH-1000XM5」も「H9」と同様に、集音はできているため普通のテンションで喋っても問題なく聴き取れるが、声に少しノイズが乗っていた。AIによる高精度ボイスピックアップテクノロジーが「消すほどでもないと判断したノイズ」を拾ってしまったのかもしれない。
ただ、両者ともゲームなどの背景音がある環境ではあまり気にならず、何を喋っているのかはちゃんと聴き取れる。通話性能に大きな差はないという印象で、配信用途などには厳しいが、普通に使う分には問題ないのではないだろうか。
■音質について
いよいよ音質を確認していく。まず音楽リスニングにおいては、端的に言って「H9」は「WH-1000XM5」に敵わない。「WH-1000XM5」は音が柔らか、かつ滑らかで、音と音がつながっていく様が実にスムーズだ。重低音から高音の帯域に至るまで、製作者の意図しない隙間が生まれることがなく、その再現性には密度と情報量がある。
「H9」は一音一音がクッキリとしているが、その輪郭が細く、それぞれの音が個別のものとして浮いてしまっている。そのため「WH-1000XM5」で感じられた、音と音が響き合うような一体感が失われたような印象を受ける。低音の厚みや高音の伸びなど物足りなさがある。大袈裟に言うならば、音像定位に振り切った再現性だ。
ただし、これは音楽リスニングにおいてのものであり、映像鑑賞やゲームではこの再現性こそが活きてくる。
BGMとセリフとSE、そのすべてが明確に聴こえる。たとえば爆発が起きて群衆がパニックに陥ったような様々な音が入り交じるシーンでも、どの音も沈み込まずに聴き分けられるのだ。映像鑑賞においては視覚からの情報とあわせて処理されるためか、映像に対して音が分離しているようには感じない。あくまで分離しているのは音だけだ。
これを良いとするか悪いとするかは個人の感性によるところだろう。「WH-1000XM5」では上述のようなシーンはカオス感が増すし、重低音は地響きを伴い、自分がその場にいるような臨場感が得られる。そもそもの再生能力の高さから言っても、音を聴き分けようと意識すれば聴き分けられないわけではない。
しかし聴き分けに集中していては、映像への没入感が削がれてしまう。アニメ作品で声の演技をしっかり感じ取りたい、といったときには、「H9」なら意識せずにそれが楽しめるというわけだ。
ゲームプレイにおいても、この傾向がそのまま聴こえ方の違いとして表れる。『Apex Legends』をプレイすると、「WH-1000XM5」は臨場感抜群で、ゲームの世界に入り込んだかのように思える。近くで爆発音がすれば、敵に狙われているという緊張が普段より高まるなど、素直に楽しくプレイできる。
ただ、敵の位置が把握できるかという面では、方向性が少し掴みにくいだけでなく、遠近感がかなり分かりづらい。音の情報を頼りに「敵はこっちかな?」と走り出すと、思った以上に近くにいて驚いたことが何度かあった。
「H9」はとにかく定位が優秀で、敵の方向性や距離が音の情報でかなり正確に把握できる。建物の裏のような見えない位置にいる敵も、音でその移動先を把握できるため、先回りすることも逃げることもしやすい。
逆に「WH-1000XM5」に比べると、1つ1つの音の情報量が少なく、没入感が薄い。ゲームプレイの目的をどこに置くかだが、勝つためのプレイには向くものの、楽しく遊ぶといった意味合いでは少し音が寂しい。ある程度の方向が把握できれば十分なオープンワールドゲームやRPGなどの作品ではそれがより顕著になるだろう。
なおPC接続でも空間再現性能に特化した方向性は変わらないが、専用ソフト「INZONE Hub」の活用や個人最適化機能を用いることで、そのレベルが高められるような印象だ。あまりバランスを変えると、定位が優秀という「H9」の特徴をオミットしてしまうかもしれないが、勝敗重視ではないタイトルを遊ぶ際にはイコライジングなどをいじってみるのもいいかもしれない。
このように、ソニーブランドとINZONEブランドのヘッドホン/ゲーミングヘッドセットを聴き比べてみたが、音作りにおいて大きな方向性の違いを感じられた。
ではどちらが使いやすいかといえば、好みもあろうが、汎用性においては「WH-1000XM5」に軍配が上がる。しかし「WH-1000XM5」があらゆるシーンで勝るかといえばそうではない。「H9」は『とにかくゲーム専用に使うゲーミングヘッドセット、それも敵の位置が分かるモデルが欲しい』という方に、一度体験してみて欲しいモデルだ。