公開日 2023/08/13 07:00
スマホやPCも受信料徴収対象になりえるのか?
NHK「ネット受信料」はどうなる? これまでの議論から将来を考える
編集部:小野佳希
TVerやNHKプラスによって、テレビ番組がインターネットでも配信されることが当たり前になった昨今。そんな状況で以前から議論されている話題が、いわゆるNHKの「ネット受信料」だ。これまで重ねられてきた議論を整理しながら、行く末を考えてみたい。
いわゆるネット受信料とは、スマートフォンやパソコンも受信料徴収の対象にするかという問題。総務省の公共放送ワーキンググループでも議論が続いている。
まず前提として、NHK自身は「ネット受信料の徴収は考えていない」という旨のコメントを何度も発している点を最初に紹介しておきたい。前田前会長時代から「視野にも入っていない」(2022年6月定例会見)と語っていたり、現在の稲葉会長もつい先日に「スマートフォンやパソコンを持っているからといって受信料が発生するとはならないと思う」(2023年7月定例会見)とコメントしている。
また、ネット受信料については総務省サイドからも当時の金子総務大臣が「テレビを設置していない方を新たに受信料の対象とすることは、現時点で考えていない」(2022年4月会見)とコメントするなどされてきた。
ただし、上記発言には金子総務大臣(当時)のコメントのように「現時点では」という前置きが付く。ネット受信料が導入されないことが将来にわたって決定しているわけではない。
総務省のワーキンググループにおいては、NHKも「公平性、公平負担の観点から、放送を視聴しているのと同様の効用が得られているのであれば、同様の負担を頂くのが適当ではないか」という考えも提示。ワーキンググループの委員からも、例えばアプリを端末にインストールするなど、NHKのネット配信を利用したい意向を示した場合は徴収対象にするといった考えが示されるなどしている。
また、NHKは番組配信を始めとする“インターネット活用業務”の推進に積極的な姿勢を見せている。現在は“補完的業務”に位置づけられているインターネット活用業務を“本来業務化”していきたい意向だ。
民放を始めとする民業圧迫という問題はあるものの、単純に視聴者の立場からなら、ネット配信で見られる番組が増えるのはメリットだと言える。また、「番組を見ているのならば受信料の支払いは必要」という考え方自体はそれほど違和感ないのではないだろうか。
問題は「NHKを見ていないのに、スマホやPCを持っているだけで受信料支払いを求められる」というケースが生まれないかどうかだ。アプリのインストールを徴収対象の条件にする意見が総務省ワーキンググループで出たのも、そうした背景からだろう。
(ハードウェアとしての)テレビではNHKが絶対に“映ってしまう”ため、「NHKは見ないので受信契約を結ばない」ということが難しい(ちなみに、地上波をスクランブル化することは技術的には可能だが、放送設備の改修だけでなくテレビのCASカードの変更など莫大なコストがかかるため現実的ではないようだ)。
一方、NHKプラスの利用はテレビで受信契約していることが前提で、NHKプラスの利用登録をしないとちゃんと番組を見られない。「スマホやPCを持っているならNHKも視聴できるだろう。だから受信料を払ってほしい」という理論が成り立たないシステムがすでに確立できているわけであり、また、当のNHKや総務省もそのような考えは持っていない。
このように見ていくと、スマホやPCでNHKを見ている人だけを受信料徴収対象にする仕組みをちゃんと構築できるかが、視聴者サイドにとっての大きなポイントであるように思える。実際、NHKにも「テレビは持っていないのだが、NHKの番組は見たい。スマホやPCだけでも受信契約は結べないのか」という問い合わせがあるという。
過去、テレビでの受信契約では、テレビを買ったら自分の意志とは関係なく契約を迫られるという点や、その際の訪問営業の手法によってNHKに不信感を持っている人も多いようだ。こうした不信感をNHKがどう払拭していけるかが、NHKのネット配信業務に今後より一層求められるだろう。
この点については例えば、インターネット活用業務で不適切な設備調達を行っていた問題への対応に、NHKの姿勢を見ることができる。前田会長時代の不適切処理を稲葉新会長が見つけ、NHK自らで公表。再発防止策の策定だけでなく、当時関係した役員への厳重注意や、前田前会長への退職金減額提言なども行っている。このような規律ある姿勢を何事においても続け、視聴者からの信頼を高めていくべきだろう。
前述した民業圧迫など、NHKのネット業務拡大には考えるべき問題が他にも多いが、何よりもエンドユーザーである視聴者にとって有意義な形になるよう議論が進むことを期待したい。
■NHKや総務省は「ネット受信料の徴収は考えていない」
いわゆるネット受信料とは、スマートフォンやパソコンも受信料徴収の対象にするかという問題。総務省の公共放送ワーキンググループでも議論が続いている。
まず前提として、NHK自身は「ネット受信料の徴収は考えていない」という旨のコメントを何度も発している点を最初に紹介しておきたい。前田前会長時代から「視野にも入っていない」(2022年6月定例会見)と語っていたり、現在の稲葉会長もつい先日に「スマートフォンやパソコンを持っているからといって受信料が発生するとはならないと思う」(2023年7月定例会見)とコメントしている。
また、ネット受信料については総務省サイドからも当時の金子総務大臣が「テレビを設置していない方を新たに受信料の対象とすることは、現時点で考えていない」(2022年4月会見)とコメントするなどされてきた。
■番組を見ているのならばPCやスマホでも受信料の支払いは必要?
ただし、上記発言には金子総務大臣(当時)のコメントのように「現時点では」という前置きが付く。ネット受信料が導入されないことが将来にわたって決定しているわけではない。
総務省のワーキンググループにおいては、NHKも「公平性、公平負担の観点から、放送を視聴しているのと同様の効用が得られているのであれば、同様の負担を頂くのが適当ではないか」という考えも提示。ワーキンググループの委員からも、例えばアプリを端末にインストールするなど、NHKのネット配信を利用したい意向を示した場合は徴収対象にするといった考えが示されるなどしている。
また、NHKは番組配信を始めとする“インターネット活用業務”の推進に積極的な姿勢を見せている。現在は“補完的業務”に位置づけられているインターネット活用業務を“本来業務化”していきたい意向だ。
民放を始めとする民業圧迫という問題はあるものの、単純に視聴者の立場からなら、ネット配信で見られる番組が増えるのはメリットだと言える。また、「番組を見ているのならば受信料の支払いは必要」という考え方自体はそれほど違和感ないのではないだろうか。
■「見ている人だけ」を受信料徴収対象にする仕組みづくりができるか?
問題は「NHKを見ていないのに、スマホやPCを持っているだけで受信料支払いを求められる」というケースが生まれないかどうかだ。アプリのインストールを徴収対象の条件にする意見が総務省ワーキンググループで出たのも、そうした背景からだろう。
(ハードウェアとしての)テレビではNHKが絶対に“映ってしまう”ため、「NHKは見ないので受信契約を結ばない」ということが難しい(ちなみに、地上波をスクランブル化することは技術的には可能だが、放送設備の改修だけでなくテレビのCASカードの変更など莫大なコストがかかるため現実的ではないようだ)。
一方、NHKプラスの利用はテレビで受信契約していることが前提で、NHKプラスの利用登録をしないとちゃんと番組を見られない。「スマホやPCを持っているならNHKも視聴できるだろう。だから受信料を払ってほしい」という理論が成り立たないシステムがすでに確立できているわけであり、また、当のNHKや総務省もそのような考えは持っていない。
■視聴者にメリットのある形になるような議論を期待
このように見ていくと、スマホやPCでNHKを見ている人だけを受信料徴収対象にする仕組みをちゃんと構築できるかが、視聴者サイドにとっての大きなポイントであるように思える。実際、NHKにも「テレビは持っていないのだが、NHKの番組は見たい。スマホやPCだけでも受信契約は結べないのか」という問い合わせがあるという。
過去、テレビでの受信契約では、テレビを買ったら自分の意志とは関係なく契約を迫られるという点や、その際の訪問営業の手法によってNHKに不信感を持っている人も多いようだ。こうした不信感をNHKがどう払拭していけるかが、NHKのネット配信業務に今後より一層求められるだろう。
この点については例えば、インターネット活用業務で不適切な設備調達を行っていた問題への対応に、NHKの姿勢を見ることができる。前田会長時代の不適切処理を稲葉新会長が見つけ、NHK自らで公表。再発防止策の策定だけでなく、当時関係した役員への厳重注意や、前田前会長への退職金減額提言なども行っている。このような規律ある姿勢を何事においても続け、視聴者からの信頼を高めていくべきだろう。
前述した民業圧迫など、NHKのネット業務拡大には考えるべき問題が他にも多いが、何よりもエンドユーザーである視聴者にとって有意義な形になるよう議論が進むことを期待したい。
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