AVアンプが持つ新たな可能性、そして課題
- 目的を叶える対応力が腕の見せ所
大切なのはお客様を幸せにすること
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ホームシアター工房
東京支店 チーフインストーラー
- 鈴木 博賀
音楽や映像の楽しみ方が多様化していく中で、そこでのAVアンプの用途や可能性の広がりを指摘する鈴木氏。お客様の願望を叶える新たな提案の商機を見いだす。長らく指摘される課題とともに、AVアンプのビジネスに迫る。
お客様との温度差拡げる
メーカーの狭い視野に懸念
ホームシアター市場の近況をどのようにご覧になられていますか。
鈴木変わらず忙しい毎日ですが、市場そのものに活気が見られるのかというと、ちょっと違いますね。“サラウンド”というかしこまった枠を取り払えば、映画をもっといい音で楽しんでみたいという人は増えています。しかし、手を伸ばして実際に行動に移す人も、簡単にできるミニマムなシステムで落ち着いてしまうケースが少なくなく、市場の二極化が一層顕著になっている印象です。
先にはまだ物凄い世界がある。何よりそれを知っていただくために道程を提示したいのですが、店舗が単独でできることには限界があります。皆さんにもっと目を向けてもらうことを業界の課題と今一度強く認識し、潮目と言える今のチャンスを活かしていけないと、市場は先細りになるばかりだと思います。
そこで、主力商品のひとつとなるのが「AVアンプ」です。マニアックな印象も強く、無骨なスタイルはまず女性からは受け入れていただけません。
鈴木内容面からも懸念されるのは、いかに安くするか、多機能にするかと狭い視野でしか考えられていないことです。明らかなオーバースペックは、ユーザーからすればうれしいことかもしれませんが、実際には機能を使い切れていないため、無用の長物とも言えます。目線を転じ、質感がとてつもなく素晴らしいとか思い切り安いとか、余計な分を他に振り替えるアイデアが必要ではないでしょうか。しかし、メーカーの方に指摘しても、考え方が変わる気配はありません。お客様との温度差はますます広がるばかり。お客様目線とよく言われますが、メーカーのそれは“価格”でしかないようです。
先日、ホームシアターをシステムで購入されたお客様が、後日、「こんなに凄い商品が10万円しないって、作っている会社は潰れないの?」とAVアンプのパフォーマンスに驚かれていました。会社を経営されている方なのですが、「僕なら価格を20万円に設定して、20万円を払ってもらえる方策を考える」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
どこかボタンの掛け違えがあるようですね。
鈴木買う方も売る方も自分の財布の事情でしかものを考えられず、誰も幸せになっていないように思えます。安ければお客様が得をしているようにも表面上は見えるのですが、先ほどのお客様は「今、こんな素晴らしいものが10万円を切る価格で手に入るのは幸せなことだけど、そのメーカーが潰れてしまって次の商品が買えなくなったり、魅力ある商品開発の資金が十分に得られなかったりするのであれば大変不幸なことかもしれない」と思い巡らされていました。
多様化する楽しみ方
商機は確実に広がっている
そのようななか、「ホームシアター」のニーズからは少し脇道に逸れたAVアンプの用途の顕在化に注目されています。
鈴木これまで想像していなかったような楽しみ方を、お客様から相談されるケースがここに来て増えています。先日いらしたのは、音楽配信をもっと自由に楽しみたいという若いご夫婦のお客様です。メインゾーンとサブゾーンで楽しまれていて、どの部屋でも同じ音楽を流しておきたいのだそうです。それならば、AVアンプ1台で9台のスピーカーを鳴らせる“強み”を活かさない手はない。コストもかなり安く抑えられました。
他のホームシアターショップに先に足を運び相談したものの、希望を叶えてはくれなかったそうです。「ショップさんは“モノ”に酔い過ぎているように思います」と指摘されていました。確かにわたしたち販売店の役割は、製品の性能や機能がどうこうではなく、お客様の目的を実現するためにどのような環境を提供できるかです。腕の見せ所でもあるわけですし、肝に銘じなければなりません。
柔軟な発想、対応が必要ですね。
鈴木さらにその若いご夫婦が今度は、リフォームした実家のおじいちゃん、おばあちゃんにも手軽に音楽を楽しんでもらいたいと、同様のシステムを導入させていただきました。私たちがインフラをきちんと整えさえすれば、後はスマホで簡単に楽しめる。おばあちゃんは70過ぎなのですが、お孫さんとLINEもしているそうで、「こんなに簡単に音楽を聴けてうれしいわ」と大変喜んでいただけました。使い方がわからない時はお子さんに電話をかけて確認するなど、コミュニケーションが活発になる効果も生まれているようです。
お客様のニーズはどんどん細分化していくばかりです。
鈴木家電量販店は確かに身近な存在ですが、細かなニーズにまでは対応してくれません。普通のお客様は、そこで解決策が見つからないとあきらめてしまうため、なかなか接点を持てません。「音楽配信をもっと気軽に楽しめないか」というさきほどの若いご夫婦は、さらに一歩踏み込める行動力を備えた数少ないケースです。しかし、踏み込めずに悩みを抱えたままの人が数多くいらっしゃるのですから、業界としてのそこへの発信力が大きな課題と言えます。
AVアンプの力量ももっと発揮できる。いろいろな用途がありそうですね。
鈴木式場やスポーツバーなど、イベントでAVアンプを使用されるケースも目につきます。「アパートの一室をコンサートホールのようにしたいのだが、業者に見積りを頼んだら数百万円もかかると言われた」と相談に来たお客様がいらっしゃいました。必要な条件をお聞ききすると、業者が当たり前のように提示したセレクターやスイッチャー、何チャンネル分ものパワーアンプなどは不要で、10万円を切るAVアンプを中心としたシステムで数分の一の価格で構築でき、大変驚かれていました。AVアンプの潜在能力の高さ、対応用途の広さにもっと注目すれば、需要をさらに掘り下げていけるはずです。
設計から施工まで高い信頼を得るホームシアター工房
高い次元で要望に応え
新しいお客様を創造する
新しいニーズを汲み取っていくために、どのような視点が大切になりますか。
鈴木大切なのはお客様に楽しんでもらうこと。メーカーはいまだ技術オリエンテッドな面が否めませんが、お客様にすればそこは黒子に過ぎません。お客様がやりたいことをどのようすれば形にしてあげられるのか。そのためには、入って来る情報に対し、先入観で判断しないこと。その点ではかなり柔軟性や対応力があるのではないかと自負しています。「楽しめれば何でもいい」、これは凄く大事です。「やってみたら楽しいじゃん!」、それでいいんですよ。
店名に「ホームシアター工房」と掲げているのですが、最近、“ホームシアター”という言葉についてよく考えることがあります。店名を聞いて何をしている店かわかることは大事ですが、やることはますます多岐にわたり、今では手掛けていることの半分がホームシアター以外のことになります。商材の潜在能力や自分たちの強みを活かし、新しいお客様を創っていくこともまた、とても大切なテーマになります。
特にこれからの若い人たちの気持ちをどう掴むのかは大きな課題です。変化やヒントは垣間見えていますが、若い人たちは生まれ育ってきた環境がそもそも私たちの世代とは大きく異なります。自分自身であれこれ考えることも重要ですが、若い人の声をどんどんインプットしていくことの方が明らかに早いことも少なくない。だから、飲み屋でもよく若い人に声を掛けたりします。変なおやじだと煙たがられているかもしれませんが(笑)。そういう意味からも、次代を担う若い経営者やスタッフは、目線や考え方が彼らに近いわけですから、大変貴重な人材です。
最後に、市場創造へ向けての意気込みをお聞かせください。
鈴木大事なのはお客様が何をしたいかです。単純にあてはめてしまえば凄く楽なのですが、それでは家電量販店と変わりありません。新規のお客様のほとんどはAV機器には興味がなく、「大きいテレビで映画を見てみたい」との願望からスタートされます。そこへ何となくではなく、きちんと情報をお伝えして、土台をしっかりと作った上で答えを出してもらえば、お客様の本当にやりたいことが何なのかより明確になってきます。そうするとこちらかの提案にも深みが増してくる。売り手は何か買ってもらえれば損はしませんが、お客様が幸福に感じてくれなければ、“次”はありません。
お客様の理解の仕方は千差万別です。どのような説明をすれば、お客様が頭の中で思っていることを拾い上げていくことができるのか、試行錯誤がますます重要です。面倒くさいことではありますが、その積み重ねが明確にその後の差となって表れてきます。