[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第73回】「ニセレゾ」疑惑の真相とは − K2HDのハイレゾは本当にハイレゾか?
情報を補足すると、「CDフォーマットの16bit/44.1kHzなど下位フォーマットでのみマスターが現存する音源」の例としては、デジタル録音黎明期の音源が挙げられる。具体的には、1989年発売のソニー製デジタルマルチトラックレコーダー「PCM-3348」が業界標準レコーダーだった時期がしばらくあった。そのPCM-3348無印の録音スペックの上限のために、それでデジタル録音された当時の音源は、いまでいうところの非ハイレゾなのだ。…1976年生まれの僕の世代の青春音源が思いっきり該当している。
つまり、「非ハイレゾ音源を基に生成したハイレゾ音源である」という範疇においては、K2HDによるハイレゾ音源も最初に述べたような非難の的になり得る。というか実際にされている。しかしその非難の一部には、誤解や情報不足に基づくものが混じっているというのも事実だ(正しく理解した上での批判もあり、それはひとつの見識だと思う)。
今回の記事は、その誤解、情報不足を解消するためのものだ。記事が長くなるのでまずは、記事の主旨と最小限の要点を以下にまとめさせていただいた。ともあれここだけでも読んでいただければと思う。
まず理解が必要なのは、「K2HDはアップサンプリング&ビット拡張を行うが単なる無意味なアップサンプリング&ビット拡張ではない」ということだ。具体的な手法については次頁からのインタビュー部分を読み進めてほしい。
またビクターがK2HDを用いてハイレゾ化してe-onkyo musicで販売している音源については、それがK2HDによるハイレゾ音源であることは全て明記されている。なので、「ただアップサンプリング&ビット拡張してスペックだけハイレゾにしたデータをハイレゾと偽って売るのはおかしい」というような話は、K2HDに対しては当てはまらない。その点は押さえておかないと、誤解からのいちゃもんになってしまう。
しかし、K2HDとは何かということを正しく理解した上で「自分としてはやはり納得できない。ハイレゾとは認められないからK2HD表記のある音源は買わない」と判断するのであれば、それはそれでひとつの見識であり立場として成立する。どのような考えや立場を採るにしても、まずはK2HDに対する正しい理解が必要で、そのためには情報が必要だ。今回の記事の目的はそれをサポートすることにある。
■ビクターとe-onkyoの担当者に直接訊いてみた
では、本題を進めていこう。K2HDについての理解を深めるためには、K2HDについて最も理解している人に話を聞くのが手っ取り早いし正確だ。
そこで今回は、K2HD技術を開発した技術者の方、そしてその技術を積極的に活用しているレコーディングエンジニアの方へのインタビューを行った。「いやいやそれはそっちの立場の人の話なんだからそっちに有利な話になるでしょ?」というツッコミはあるかとは思う。ならばそこは各自でバイアス補正をかけて(内容を各自で考察検証して)受け取っていただきたい。
インタビューに答えていただいたのは、ビクターエンタテインメント株式会社にてK2ラボラトリー/ソフト開発担当を務める鈴木順三氏、そしてビクタースタジオの名エンジニアでK2HDを活用したハイレゾ音源の作成も積極的に手がける高田英男氏だ。
またe-onkyo musicの黒澤拓氏にも同席していただいたのだが、黒澤氏からも興味深いお話を伺うことができた。
次ページいよいよ次頁から、K2HDの詳細にせまる直撃インタビュー!