[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第73回】「ニセレゾ」疑惑の真相とは − K2HDのハイレゾは本当にハイレゾか?
■K2HDはどのような手法で原音再生を可能とするのか?
−− 話を戻しますと、原音を再現するような処理を施すアップサンプリング/ビット拡張であれば好ましい効果を得られるということですから、それを行えるのがK2HDであるということですよね?
鈴木さん: そうです。
−− 非ハイレゾで録音/マスタリングされた時点でデータ内には存在しなくなってしまっている原音の成分・情報を、具体的にどのような手法で推測して再現するのですか?
鈴木さん: 楽器の音は基音と倍音で構成されています。CDフォーマットに収めるためにローパスフィルターで20kHz以上の音をカットしたとしても、基音はそのまま残っているわけです。K2HDはその基音を基に、3倍音や4倍音などの高調波を生成します。本来の倍音構成を想定して復元することで原音に近付くことができるというわけです。
基礎的なところを補足しておこう。楽器に限らず声であっても何でもそうなのだが、固有の「音色」を形作る要素のうち、特に影響の大きい要素のひとつが倍音構成だ。
例えば基準「A」という音程の音は、現在の標準的な調律だと440Hzという周波数だ。しかし実際に楽器が鳴らす音は、その440Hzの音を「基音」として、その上に880Hzの「二次倍音」や1.32kHzの「三次倍音」など、理論上は整数倍となる周波数の「倍音」が積み重なっている。その各倍音の強さの割合、倍音のブレンドが、楽器の固有の音色を生み出している。
ちなみに音色を決めるもうひとつの大きな要素はアタック(音の出始め)の瞬間の波形の立ち上がり方。例えばピアノとギターで同じ音程の音を鳴らして録音してアタックを編集でカットすると、両者の残された音はかなり似通ったものになるという。
■倍音を復元するアルゴリズムにせまる
−− 楽器にせよ声にせよ、音色を形作っているのはアタックと倍音構成ですから、その重要な要素である倍音の復元は大きな意味がありますね。そこでその復元を行うアルゴリズムが鍵になります。
高田さん: 高調波を生成するアルゴリズム自体はK2技術の開発者である桑岡俊治氏が開発しました。高調波の発生の仕方は極端に言えば楽曲ごとに異なるため、どれくらいの割合で生成すべきかは桑岡氏でも判断が難しいものです。そこで倍音を加える割合を「パラメータ」として定義しました。そのパラメータの設定には、我々ビクタースタジオのマスタリングエンジニアの感性・経験が生かされています。これは機械的ではない「音・音楽づくり」の部分です。
また補足しておこう。桑岡俊治氏はその後クリプトンに移籍。クリプトンのハイレゾ配信サイト「HQM STORE」においても、K2技術をベースにした「HQM GREEN」技術によるハイレゾ音源が配信されている(http://www.phileweb.com/news/d-av/201102/15/27932.html)
高田さん: 例えば、ビクタースタジオには膨大なアナログマスターテープが保管されています。それを様々なフォーマットでデジタル化してその波形データを分析して、それぞれのフォーマットに変換した際の波形の変化の仕方の違いについてデータを蓄積しているんです。また様々なサンプリング周波数で実際にレコーディングを行い、そのデータをCDフォーマット(44.1kHz/16bit)に落としてからK2HD処理を行い、元のサンプリング周波数の音質に近付けられるようにアルゴリズムを調整していいます。
−− いま「元の波形に近付ける」「元のデータに近付ける」ではなく、「元の音質に近付ける」という言い方をしていましたが?
高田さん: 波形やデータだけではなく、日常的に録音に携わっている各エンジニアが音質評価を担当することで、録音時の音色感を基準にして補正アルゴリズムを開発することができました。
−− ビクタースタジオとその人材を擁するビクターならではの強みですね。