[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第73回】「ニセレゾ」疑惑の真相とは − K2HDのハイレゾは本当にハイレゾか?
■高橋敦の直撃インタビュー! K2HDプロセッシングの詳細にせまる
−− まずは単刀直入に、K2HDによるハイレゾ音源について「既存の非ハイレゾ音源データをアップサンプリング&ビット拡張してスペックだけハイレゾにした音源」という声が上がっていることを把握していらっしゃいますか?そもそもそのような批判を受ける恐れをあらかじめ考えていましたか?
高田さん: 把握していますし、その恐れについてもあるだろうなとは思っていました。実はそもそもe-onkyo musicさんからの反応も当初は芳しくなかったんですよ。
黒澤さん: K2HDのお話をビクターさんからいただいた当初は、正直なところできれば避けたいなと思いました。でもスタジオで音を聴かせていただいて技術的な説明も受けて納得しました。とは言ってもやはり、ユーザーさんから誤解を受けることは危惧していましたが…。
高田さん: 不安をお持ちの方にまずお伝えしておくと、ビクターのハイレゾ音源でCDフォーマットのマスターをK2HDでハイレゾ化したものについては、しっかり販売ページに表記してあります。「そういう音源だったら買わない」という方もいらっしゃると思いましたので、そこはちゃんと伝えていこうと。
■K2HDによるハイレゾ化と単なるアップサンプリング&ビット拡張の違いは?
−− 誤解や非難も覚悟した上で、しかりメリットが大きいと判断しての採用だということですね。ではその誤解を解いていければと思うのですが、K2HDによるハイレゾ化と単なるアップサンプリング&ビット拡張との違いはどこにあるのでしょう?
鈴木さん: 単なるアップサンプリングというのは、サンプリングレートを倍にする場合だと、ふたつのサンプル点の間を線形補間するだけです。サンプル点1の値が10でサンプル点2の値が20だとしたら、その中間にサンプル点1.5を15という値で入れるわけです。
−− ふたつのサンプル地点の中間点を中間値で穴埋めするだけということですか?
鈴木さん:そうです。この処理を行っても、例えば音の周波数には変化はありません。
−− ではビット拡張の方は?
鈴木さん: 16bitを24bitにする場合だと、単なるビット拡張では各サンプルの音量レベルを256倍します。音量レベルが10の場合は10×256=2560、20の場合なら20×256=5120。16bitのデータの下に8bit分を足すだけです。これはアンプでボリュームを上げたのと同じことですので、例えば音の広がりであるとか、そういった音質向上はこちらでも得られません。
つまり、全体をただ拡大しただけで、ダイナミクスの解像度・階調表現としては16bitのままです。音質において利点はありません。対して原音を再現する処理を伴うアップサンプリング/ビット拡張では、アップサンプリングによって音にアナログの様な柔らかさを出せますし、ビット拡張によって音に広がり感や奥行感を出すことができます。
−− そういえば、ハイレゾというとサンプリング周波数に注目が集まりがちですが、ビット深度の意義も大きいですよね?
高田さん: 音響学的に言っても、ビットに対しての方が人間の感覚は感度が高く反応が鋭いようです。滑らかさや分解能として感じられます。サンプリング周波数については、高い方が透明感は出ます。でも一概に高い方が良いというわけではなくて、強い音楽との相性はいまひとつかもしれません。例えば音の芯やパワー感といった要素は少し薄まる傾向がありますので。
−− 「サウンド&レコーディング・マガジン」誌のインタビュー記事によると、山下達郎さんは早い時期に96kHz/24bit録音を実践していましたが、次のアルバムでは48kHz/24bitに戻していました。達朗さんも「僕の音楽にはこっちの方が合う」といったようなことをおっしゃっていたように記憶しています。
高田さん: ミュージシャンの方もそういう感触を受けているのかもしれませんね。
次ページK2HDはどのような手法で原音再生を可能とするのか?