【開発者特別インタビュー】
“世界初”ドライバー搭載イヤホン・オーディオテクニカ「CKRシリーズ」が生まれるまで
イヤホンの音を、ヘッドホンの音に近づけたい
中林:「ATH-CKR10」「ATH-CKR9」はどのようなサウンドを目指して開発されたのでしょうか?
小澤:常々考えているのですが、ヘッドホンに比べるとイヤホンはまだまだ伸びしろがあるなと思います。だから私としては、イヤホンの音を、大型ドライバー搭載ヘッドホンのようなヌケが良くパワフルな音に近づけていくことが使命だと考えているんです。もちろん、振動板やダイヤフラム系が弱いので限界はありますが…。
そういう点で、今回の「ATH-CKR10」「ATH-CKR9」では、従来のイヤホンと比較してヘッドホンに近い音を実現できたと自負しています。
平野:音楽性を高めるために歪みを低減しているのも特徴ですね。
小澤:はい。普通、低域というのは振幅で稼ぐものなのですが、オーディオテクニカの場合はドライバーユニットの前面と後面を限りなく密閉に近いかたちにし、ダイアフラムの振幅を抑えつつ低音を増強しています。これが、歪みを減らすのにいちばん効果的だと考えているんです。
また、低域の音を調整する「ベース・アコースティック・レジスター」をATH-CKR10/9/7に搭載しています。配置する場所などは各モデルで違いますが、考え方は全機種共通です。
中林:音決めの際いつも使っている音源などはありますか?
小澤:そうですね、20年間同じ曲しか聴いていないんですけど……イングリット・ヘブラーの弾くモーツァルトのピアノソナタですね。ヘッドホンやイヤホンは、特に低域で、音階が下がっていく際の表現力が弱いんですよ。そこをポイントにしています。
サウンドと装着感のバランスを見極めた外観デザイン
平野:“世界初”機構搭載ドライバーを採用したモデルということで、デザインの決定も大変だったのではと思うのですが。
國分:デザインについては、デザイナーと膝をつき合わせて徹底的に話し合いました。今回のCKRシリーズと対極に位置するのが「SOLID BASS」シリーズなのですが、そちらはアグレッシブなデザインで音づくりも若者向け。一方CKRシリーズは、スタンダードなものを狙いつつ新しいこともやろうというモデルなので、どうカタチに落とし込むか、デザイナーも非常に苦労していましたね。
やはりふたつのドライバーユニットを搭載するとどうしても筐体が大きくなってしまうので、いかに耳の中に収めるかについては試行錯誤しました。生産用金型を起こすまでも、起こした後も、発売に間に合うギリギリのタイミングまで様々な調整を行いました。
中林:物量を投入すれば音は良くなるけれど、装着感が悪くなる……サウンドと装着感のバランスを見極めるのは非常に難しかったことと思います。