小泉今日子ハイレゾ化キーマンに訊く制作裏話と音へのこだわり
■「あなたに会えてよかった」(1991年5月)について
― 唯一のミリオンセラーであり、小泉今日子さん最大のヒット曲ですね。
田村:小林武史さんの作曲家としての初ヒット作品ですが、まだ小林さんがアレンジャーとして筒美京平さんの曲を編曲したり、プロデューサーとしてサザンオールスターズのアルバムをやったりしていた頃です。小泉今日子さんにとっては、近田春夫さんで1年、そのあとに藤原ヒロシさん、そして小林武史さんという流れ。田村正和さんといっしょにやったドラマ『パパとなっちゃん』の主題歌で本人に詞を書いてもらいました。レコード大賞で作詞賞をいただいて、以降、小泉さんの作詞については文句を言えなくなりました(笑)。
高田:ミックスの時に小林さんから緻密でかなり細かいダメだしをされましたね。自分ではドラムとベースという柱を立てて音作りをするスタイルなんですが、この作品では細かいフレーズと楽器の聞こえ方を意識した繊細な作り方でした。ラジオミックスみたいな小さなボリュームで聴いても全部の音が聞こえます。できるだけ小林武史さんの音を忠実に出すように、悩みつつ、迷いながらやりました。
― 音の質感がここまで聴いてきたのと違いますが、デジタルコンプレッサーのかかり方が深いということはありますか。
川崎:どうでしょう。ある程度はコンプをかけている気はしますけど、冒険するまではやっていないと思います。
■まとめ
高田:今日は代表的なヒット曲を聴きながら話してきましたが、音的には自分が担当した作品でのオーディオ的なもの、たとえば「艶姿ナミダ娘」とか「ヤマトナデシコ七変化」とか「夜明けのMEW」とか「水のルージュ」とかはサウンドとしてはポップな感じで、とても心地よいハイレゾサウンドが作れていますので是非、聴いてみてほしいなと思います。
時代によってマスタリング技術は進化していきますし、感覚的なものも変化していきます。今回のハイレゾ版を聴いて、「今の時代のオリジナルマスターができた」と感じましたね。制作当時は色々な試行錯誤を繰り返しましたが、実は、今聴くとちょっと直したい部分もあって。でもハイレゾ化にあたって、そういうものを全部盛り込んで出してもらえたなと思います。自分がこういう風に作りたかったというのを実現してもらって、これが今の時代の小泉今日子のオリジナルマスターという位置づけになったと思っています。
田村:小泉今日子さんと最初に会った時は『スター誕生!』の楽屋でした。デビュー1年目で取材の人が来ていたけどマネージャーがいなくてもテキパキと対応。とてもクレバーな人だなぁと思っていたんです。たぶん16〜17歳の頃なんですが、最近でもそのイメージも距離感も変わりません。作品に対しても冷静で、そんな人なのでいろんなことができて来たのでしょう。それは現在ににまで続いていると思います。
80年代のアイドルの輝き方は尋常ではなかった。そこに携わったディレクター、エンジニアの、緻密でもあり大胆な戦略や録音、試行錯誤を訊けたインタビューだった。また、これほどに作り手もアレンジも、音の捉え方もミックスもマスターも違うものを、違和感なく聴かせるマスタリングも見事。ハイレゾということをいい意味で意識させず、黒子に徹している。多くの人に楽しんでもらいたい小泉今日子の42曲だ。