<山本敦のAV進化論 第62回>
「新しい音楽文化をつくりたい」。「LINE MUSIC」担当者インタビュー
「音楽ストリーミングまわりの技術については、既に全世界でMAU2億人を超えるユーザーにLINEのコミュニケーションサービスを提供してきた当社の強みを活かすことができています。音質を向上させるために特段変わった取り組みはしていませんが、聴感上の違いを感じられているのであれば、おそらくエンコードの技術で差が生まれているのではないでしょうか。320kbpsのAACというフォーマットは、CDに引けを取らない音質を配信プラットフォームで提供するためにベストの形だと考えています。これ以上になると、今の技術ではデータの伝送が不安定になります。回線を効率よく使いながら、ストリーミングの品質を安定させる技術についてはLINEのノウハウが役に立っているのだと思います」。
■ラジオ型サービスや世界展開への計画
インタビューの最後にLINE MUSICの今後の展開を訊ねた。LINE MUSICには、ユーザーの好みに合った楽曲をインターネットラジオのようにBGM感覚で楽しめる「ラジオ型」の配信サービスが、今のところまだ組み込まれていない。今後の計画を高橋氏は次のように語る。
「ユーザーから多くの要望があれば、追加する可能性はゼロではありませんが、当面のところは考えていません。ただ、一方でLINEは昨年、マイクロソフト傘下のラジオ型ストリーミングサービスであるMixRadioを買収していますので、世界展開を拡大するために、例えば地域によってはラジオ型のサービスだけを展開することも選択肢として考えています。戦略的なリソースは既に持っていますので、ユーザーの動向を見ながら検討していくつもりです」。
LINE MUSICの海外展開については既にタイでは日本とほぼ同時期にスタートしている。今後はLINEのサービスが普及するアジア地域を中心に音楽配信も積極展開していくようだ。そのためにはまず、日本でサービスの成功モデルを築き上げることが大事と高橋氏は強調する。
ストリーミング型定額制音楽配信サービスの魅力は、膨大な音楽アーカイブの中から好きな音楽をシャワーのように聴ける贅沢さにある。ところが一方で、自分の知らない音楽との「出会い」が活性化されないことには、知っている音楽をお気に入りに登録して、プレイリストを作成するだけで終わってしまい、結局は音楽を聴くことの楽しさが広がることなく、お金を払ってまでサービスを使い続ける意味も失われてしまう。
これから音楽配信サービスの事業者にとってはアーカイブの楽曲数や種類を充実させていくことのほかに、ユーザーと未知の音楽をつなぐための、独自性豊かな仕組みを整えることが求められてくる。
LINEによるコミュニケーションを活性化させていくことが、音楽の新しい楽しみ方をつくっていくというLINE MUSICのスタンスは、他の定額制音楽配信サービスにはないものだし、これからの音楽文化そのものを発展させる大きな可能性がそこに秘めていると思う。新曲だけでなく、ユーザーが求める新機能を攻めの姿勢で追加していくスピード感にもぜひ期待したい。