“ハイレゾには密閉型が有利”は本当か
クリプトン渡邉氏がスピーカー開発キャリアを総括。「密閉型」「2ウェイ」にこだわる理由とは?
クルトミューラー製コーン紙による
スピーカーユニットを使い続ける理由
■ペーパーコーン・ユニットこそ最上のウーファー
ーー KX-5Pをはじめ、クリプトンのスピーカーは一貫してウーファーユニットにクルトミューラー製のペーパーコーン・ウーファーを使っています。
渡邉氏 私はペーパーコーンが最上のウーファーユニットだと考えています。どんな新素材が出てきても、紙という素材に回帰していくと思います。これも人間の耳が本来持つ感覚に対して、紙という素材が出す音が合致しているからなのでしょう。
また、カーボンクロスやアルミといった新素材で作ったユニットは、素材の固有音がどうしても出てしまいます。また、カーボンクロスはエポキシで固めてユニット形状に成型するのですが、このエポキシの固有音も入ってきてしまうのです。エポキシも当然人工材ですから、こういった素材の固有音は抑えるのに苦労します。
ーー 結局、新素材の固有音を消すために努力するわけですね。
渡邉氏 新素材をモノにするには10年以上の年月がかかるでしょう。ビクター時代には、ダイアモンド振動板に至るまで様々な新素材でユニット開発を行ってきました。なのでその苦労は身に染みてわかっているつもりです。
ーー そしてたどり着いたのが、というか回帰していったのが、紙という素材だったのですね。
渡邉氏 ただ、紙ならば何でも良いというわけではありません。気をつけなくてはいけないのは、音の良いコーン紙を探し出さなくてはならないということです。ヴァイオリンで木材を選ぶのと同じです。クリプトンがスピーカーで採用しているクルトミューラー製コーンユニットの素材となる紙は、スプルースという木からできています。この紙は長繊維と短繊維の割合や厚み分布が詳細に決められているのですが、数年間かけて素材から吟味して開発されたコーン紙です。SX-3を開発した際にクルトミューラーと協同開発したものを、今でも使っています。
ーー いまだに同じ素材を用意することができるのでしょうか。
渡邉氏 40数年前に開発した際の仕様書がきちんと保管されているので、クルトミューラーは同じものをいまだに作ることができるのです。これはすごいことだと思います。スピーカーの銘機にクルトミューラー製ユニットが使われている理由も頷けます。クルトミューラーはコーン紙を作るためのスプルースを、自社で保有している山林から切り出して使うことで品質を保持しています。これはほかのコーン紙メーカーではまず考えられないことでしょう。
ーー 一度究めたものを現在も継承して使っているということなのですね。
渡邉氏 コーン紙は、接着剤を一切使っていません。そして紙の品質の決め手となるのが紙を製造する際の水のph管理なのですが、この水だけで繊維を貼り合わせ、ユニットに成型するのです。だから余計な音色が乗りません。
解析も重要ですし、私もスピーカーづくりにおいて当然行うのですが、解析では現れない要素もまだたくさんあるのです。それを解決できるのは、もはや職人的な勘というべきものになるでしょう。素材の組みあわせで「こういう音になるだろう」と予想ができるようになってくるのです。
ーー ヴァイオリンの職人は楽器を作るうえでおそらく測定はしないでしょうが、それと同じことなのですね。
渡邉氏 測定は有効なのですが、様々な素材を複合的に組み合わせた結果を計算や解析で導き出すのは、現在の技術でもってしても難しいことです。しかし、人間の耳はそれを瞬時に聴き分けてしまう。人間の感性はすごいと思います。だからこそ、ここに職人の生きる道があると思います。刀鍛冶が、熱した鉄の色を見て温度を判断するのと同じことです。
ーー 測定や素材で研究を重ねてきた渡邉さんからこのような言葉を聞くと、重みがありますね。
渡邉氏 技術が進歩すればいつか解析できるのかもしれませんが、現時点では、最後は感性なのです。そして私の感性で捉えたものは、私自身だけが形にできます。
だから当然の結果として、私の感性と相容れない方は、クリプトンのスピーカーの音に同意はしてくれないでしょう。しかし感性はまさに十人十色ですから、10人に1人が私の感性に同意してくれれば良いのです。そして10人中5人の感性に沿うものを作ろうとすれば矛盾が生じます。10人のうち3人すごいと思えるスピーカーを作ることも、それはそれですごいことだと思います。
スピーカーユニットを使い続ける理由
■ペーパーコーン・ユニットこそ最上のウーファー
ーー KX-5Pをはじめ、クリプトンのスピーカーは一貫してウーファーユニットにクルトミューラー製のペーパーコーン・ウーファーを使っています。
渡邉氏 私はペーパーコーンが最上のウーファーユニットだと考えています。どんな新素材が出てきても、紙という素材に回帰していくと思います。これも人間の耳が本来持つ感覚に対して、紙という素材が出す音が合致しているからなのでしょう。
また、カーボンクロスやアルミといった新素材で作ったユニットは、素材の固有音がどうしても出てしまいます。また、カーボンクロスはエポキシで固めてユニット形状に成型するのですが、このエポキシの固有音も入ってきてしまうのです。エポキシも当然人工材ですから、こういった素材の固有音は抑えるのに苦労します。
ーー 結局、新素材の固有音を消すために努力するわけですね。
渡邉氏 新素材をモノにするには10年以上の年月がかかるでしょう。ビクター時代には、ダイアモンド振動板に至るまで様々な新素材でユニット開発を行ってきました。なのでその苦労は身に染みてわかっているつもりです。
ーー そしてたどり着いたのが、というか回帰していったのが、紙という素材だったのですね。
渡邉氏 ただ、紙ならば何でも良いというわけではありません。気をつけなくてはいけないのは、音の良いコーン紙を探し出さなくてはならないということです。ヴァイオリンで木材を選ぶのと同じです。クリプトンがスピーカーで採用しているクルトミューラー製コーンユニットの素材となる紙は、スプルースという木からできています。この紙は長繊維と短繊維の割合や厚み分布が詳細に決められているのですが、数年間かけて素材から吟味して開発されたコーン紙です。SX-3を開発した際にクルトミューラーと協同開発したものを、今でも使っています。
ーー いまだに同じ素材を用意することができるのでしょうか。
渡邉氏 40数年前に開発した際の仕様書がきちんと保管されているので、クルトミューラーは同じものをいまだに作ることができるのです。これはすごいことだと思います。スピーカーの銘機にクルトミューラー製ユニットが使われている理由も頷けます。クルトミューラーはコーン紙を作るためのスプルースを、自社で保有している山林から切り出して使うことで品質を保持しています。これはほかのコーン紙メーカーではまず考えられないことでしょう。
ーー 一度究めたものを現在も継承して使っているということなのですね。
渡邉氏 コーン紙は、接着剤を一切使っていません。そして紙の品質の決め手となるのが紙を製造する際の水のph管理なのですが、この水だけで繊維を貼り合わせ、ユニットに成型するのです。だから余計な音色が乗りません。
解析も重要ですし、私もスピーカーづくりにおいて当然行うのですが、解析では現れない要素もまだたくさんあるのです。それを解決できるのは、もはや職人的な勘というべきものになるでしょう。素材の組みあわせで「こういう音になるだろう」と予想ができるようになってくるのです。
ーー ヴァイオリンの職人は楽器を作るうえでおそらく測定はしないでしょうが、それと同じことなのですね。
渡邉氏 測定は有効なのですが、様々な素材を複合的に組み合わせた結果を計算や解析で導き出すのは、現在の技術でもってしても難しいことです。しかし、人間の耳はそれを瞬時に聴き分けてしまう。人間の感性はすごいと思います。だからこそ、ここに職人の生きる道があると思います。刀鍛冶が、熱した鉄の色を見て温度を判断するのと同じことです。
ーー 測定や素材で研究を重ねてきた渡邉さんからこのような言葉を聞くと、重みがありますね。
渡邉氏 技術が進歩すればいつか解析できるのかもしれませんが、現時点では、最後は感性なのです。そして私の感性で捉えたものは、私自身だけが形にできます。
だから当然の結果として、私の感性と相容れない方は、クリプトンのスピーカーの音に同意はしてくれないでしょう。しかし感性はまさに十人十色ですから、10人に1人が私の感性に同意してくれれば良いのです。そして10人中5人の感性に沿うものを作ろうとすれば矛盾が生じます。10人のうち3人すごいと思えるスピーカーを作ることも、それはそれですごいことだと思います。
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