<山本敦のAV進化論 第104回>
VRに映像配信国内最大手のdTVが進出。関係者が語る詳細と将来展望
実際に配信されている映像を見ると、一つ一つの完成度がかなり高いので、非常にアグレッシブな試みだと言えるのではないだろうか。近藤氏、石ヶ谷氏に課せられているミッションがいかに過酷なものか想像できる。
今回配信されている作品はどんな機材で撮影されているのだろうか。石ヶ谷氏に聞いてみた。
「3台のGoProに、250度の画角をカバーするEntaniya Fisheyeレンズを装着した『3 Cameras Kit』というカメラを使っています。dTV VRアプリには2D映像を視聴するための『ノーマル』と、左右の目で見る映像を分割した『VR』の2つのモードを搭載していますが、VRモード用の映像は2Dの映像データを3D変換して生成しています」
dTV VRアプリのリストに並ぶコンテンツは、今までのところ室内スタジオで撮影されたものが中心だ。撮影時に苦労したことを二人にうかがったところ、最適な撮影現場を見つける“ロケハン”の作業だったという意外な答えが返ってきた。
「被写体となるアーティストとカメラとの間を均等に離せて、邪魔なものが映り込まないような“狭くて小ぶりなスペース”が理想です」(近藤氏)
VRヘッドセットで再生した時に、被写体として写る人物の細部を見せようとすると、だいたい5メートル以内の距離感が限度なのだと石ヶ谷氏が説明を続ける。「それ以上離れてしまうと、顔の表情がわからなくなってしまうので、アーティストの魅力を見せたい作品には不向き」なのだという。
3台のカメラを使って撮影した映像は、後からデータをスティッチ(貼り合わせ)して360度の映像を合成する。その際に、全天球に近い250度の画角をカバーする魚眼レンズで撮った映像が、それぞれに重なり合う箇所に映像の破綻が生じてしまう。
最悪のケースでは、レンズが捉えた映像のつなぎ目のところにアーティストが映り込んでしまい、体は見えているけど顔がわからないという映像ができあがってしまう。ミュージックビデオの場合、これでは致命的だ。そこで石ヶ谷氏ら、制作スタッフが撮り終わった映像をひとコマ単位で補正していく作業が発生する。とんでもなく手間のかかる作業だ。
最終的にはVR版が2,304×2,304画素×2(左右片目ずつ)、2D版が4,096×2,048画素の高精細なMP4形式の映像ファイルが出力される。サーバー上に公開された映像作品は、配信時には視聴するデバイスのスペックに合わせてビットレートを下げて提供される。
■スタジオとライブステージ、それぞれの現場でVR撮影の課題が異なる
アプリの配信開始当初はミュージックビデオが中心のラインナップになった理由を近藤氏に訊ねた。
「VRの魅力を多くの方に味わってもらうためには、ファンが憧れるアーティストの姿をストレートに格好良く伝えられるコンテンツを揃えることが最適と考えました。8月下旬に開催される音楽フェス『a-nation stadium fes.powered by dTV』との連動がテーマだったこともあります。ミュージックビデオと位置づければ、その内容はアーティストが歌って踊ったり、ストーリー仕立ての作品でも面白い表現が可能です」