<山本敦のAV進化論 第104回>
VRに映像配信国内最大手のdTVが進出。関係者が語る詳細と将来展望
近藤氏は、VR映像を制作する際に奥行き方向の立体表現を演出の際に重視しているという。
「VRと3Dは、ともに人工的につくりだした視差を利用して、飛び出てくるような映像が見せられるところに特徴を持っていますが、VRの場合は単に飛び出るだけではなく、ユーザーを360度映像の中に引きこみながら、あたかも映像の中に存在しているようなリアリティを感じてもらうことが理想と考えています。そのために、前後方向の動きの見え方を気にしながら、自然な立体感を映像上で演出することを大事にしています」
エイベックスでは今後、音楽のライブステージもVRで映像化する試みに力を入れていく。ライブ映像を収録する場合は、室内スタジオでの撮影とはまた異なる課題をクリアしなければならないだろうと石ヶ谷氏が指摘する。
「なぜなら360度映像を撮る場合、アーティストが立つステージにカメラを置く必要があります。しかしそうなるとライブに足を運んだお客様からアーティストの姿が見えにくくなってしまいます。
また、先ほど触れた通り、多くの360度カメラの場合、被写体となる人物が5メートル以上離れてしまうと顔の細部が認識できなくなってしまいます。
カメラに近づいてパフォーマンスしてもらうとなれば、グループのアーティストの場合はステージ上でのフォーメーションにも影響が出てしまうし、ダイナミックなステージの魅力が失われてしまいます。だからといって、カメラが意思をもって移動すると、VRヘッドセットで視聴された方が“VR酔い”してしまう原因になります」(石ヶ谷氏)
「音楽ライブの場合、ただ360度の映像が撮れたら良しというものではありません。VRヘッドセットで視聴される方々が、リアリティあふれる空気感を味わいながら没入感を得られることが大事です。ミュージックビデオの撮影ノウハウを積み重ねていくほど、余計にライブ収録の難しさが身に染みてきました」(近藤氏)
dTVでは、8月27日(土)・28日(日)に東京都内・味の素スタジアムで開催される夏の音楽フェスイベント「a-nation stadium fes. powered by dTV」のライブステージの一部をVR映像で収録し、9月下旬から「dTV VR」アプリで無料配信を行う。大規模なスタジアムで繰り広げられるa-nationのステージが、どのような形でVR映像化されるのか、近藤氏たちの指摘を踏まえながら映像の完成を心待ちにしたい。
■VRの魅力を広く伝えるためのイベントにも注力していく
dTVではa-nationのようなイベントを契機として、リッチなVR映像体験をユーザーに広く知らしめていくことに今後も力をいれていくとしている。
村本氏も「VRはあくまで魅力的な映像を制作するための一手法だと捉えていますが、音楽ライブのようにユーザーに新しい映像体験の魅力を伝えられる、親和性の高いコンテンツとは積極的に結びつけていきたいと考えています」と、その可能性を前向きに捉えているようだ。
2日間にわたって実施されるa-nationの会場では、集まった来場者約11万人全員に無料でオリジナルのVRスコープを配布するという大胆な試みが実施される。その狙いを村本氏は、「VRがスタートダッシュの時期には、とにかく大勢の人々が手軽に体験できる場をつくることを優先したいから」だと説明する。
「ゲームやモバイルなど、いくつか先行するかたちで専用のVRヘッドセットが商品化されていますが、まだ一般の方が気軽に購入できるような価格ではありません。VRという言葉に初めて触れる方も多く、気負わずにスマホとアプリさえあれば楽しめるdTV VRのコンテンツを楽しんでいただけるよう、a-nationのに集まる方々に無料でVRスコープをお配りすることから始めたいと思いました。とにかく、VRに興味を持つ方の裾野を広げていくことが今の私たちに求められている使命だと考えています」
今回のイベントを皮切りに、今後も潜在的なVRユーザーを開拓していくために、dTVとして様々な取り組みを続けて行くことに対しても村本氏は積極的だ。例えばdTV会員向けのVR体験イベントなども視野に入っているようだ。
またコンテンツのラインナップについても、現在はdTVオリジナルのものが中心だが、今後はパートナーとの連携も広げながらバラエティ豊かな品揃えを増やしていきたいとした。
村本氏は「dTVでは今後も豊かな映像体験をより多くのユーザーにお届けしていくことをミッションとして、新しいことに前のめりでチャレンジしていきたい」と意気込みを語ってくれた。