物理学者が生み出した「ユニーク」
アナログターンテーブルブランド「ウェルテンパード」の“独創性”とは? ― フランク・デンソン氏に訊く
■ピボットを持たない独創的なトーンアーム
しかしもっと重要なのは、その機構が極めて独創的であることだろう。特にトーンアームがそうだ。
ウェルテンパードのトーンアームは非常に軽量で、しかもピボットつまり支点がない。アームパイプの根元はゴルフボールを貫通して、それが細い糸で吊り下げられてオイルに浮いている。固定されていないため、ゴルフボールは自由に動きやすい。
なぜゴルフボールかという理由は後で触れるとして、支点を固定しないこの構造はある理論から引き出されたものである。
それは1977年にデンマークのB&Kが発表したホワイトペーパーにあるもので、サイドバンド歪みを抑えるためトーンアームは軽量でなければならず、またQ=0.5以下にダンピングする必要がある。ところがワンポイントやジンバル、ナイフエッジといった従来の構造では根本的にこれは不可能で、そのためあえてこのことが無視されてきたという。
支点を浮かせるという発想は奇想天外にも見えるが、実は適切なダンピングを行うために必須の構造であった。ウェルテンパードの第一の特徴は、このような発想によって形成されている。
ところで支点が定まらなくて本当に大丈夫なのだろうか。カートリッジは正しくトレースできるのだろうか。心もとなく思えるのも無理はなさそうだ。
これについては私に仮説があって、デンソン氏に直接訊いてみた。カートリッジの針先は放っておくと、ひとりでに正しい方向を向くのではないかということだ。ちょうどクルマのタイヤが自然に真っ直ぐ走るように調整されているのと同じ理屈で、針先は音溝の両側から同じように力を受けているので、どうしても真っ直ぐになろうとするのではないか。
その通りだ、とデンソン氏は言う。だから支点を固定する必要はないわけである。
因みになぜゴルフボールか。これには大変合理的な理由があって、まずプレーに使うものだから精度が非常に高いということ。さらにダンプが高く、ディンプルによって一層それが強くなっているという。おそらくコストが安いというのも理由のひとつかと思われるが、それは言うまでもないことだろう。
■滑らかな回転を実現する三角形のスピンドルホール
特徴の第二。ターンテーブルのスピンドルホールが三角形になっていて、スピンドルはこの三角形の2辺と底部軸受けの凹部の3点で接触する。このためクリアランスが全くなく、しかも接触抵抗が最小に抑えられている。ベルトがなくても回るくらいの滑らかさだという。
この機構によって、ベアリングにエネルギーの全てが入ることになり、回転すると中心が自動的に出ることになる。また振動も分散される。極めて合理的に考えられた構造ということができる。
駆動は糸ドライブである。径0.004インチという極細のポリエステル・ストリングで、一箇所で結んである。結び目は影響がないというが、こういう実際的なところがウェルテンパードらしい。無用なこだわりとは無縁なのである。
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