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「ハイレゾで出す意味があるならやろうと決めた」

【連続インタビュー(上)】「アイドルマスター」のハイレゾはどうやって作られたのか? コロムビアに聞く制作の舞台裏

公開日 2017/04/27 15:00 編集部:押野 由宇
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−−音源をハイレゾにする、というプロセスについて、詳しく教えてください。

柏谷:単純に“ポンッ”でもスペック上はハイレゾを作れますが、それだとあまり良くないと思うんです。例えば機械的にコンバートした96kHz/24bitと48kHz/24bitの音を聴き比べてみても、環境の良いところで聴き込まないと明確な違いは感じづらいと思います。

ハイレゾを数値だけで考えていない、と柏谷氏

−−ただ数値をハイレゾ相当にしてもダメということですね。それでは、どういったアプローチをされているのでしょうか?

柏谷:まずCDについては、どこの環境で聴いてもちゃんと聴こえるように作っています。例えばカーステレオで、騒音が入るなかでもしっかり聴こえるように。音量小さめで聴かなくてはならなくても、防音の部屋で高級機器を使って聴いても、“全方位に良いものを届ける”という音の作り方になっています。

−−CDというメディアが、本当に様々な環境で聴かれることを想定されているわけですね。

柏谷:また、マスタリングというのは“音を上げる”のではなく、“音を下げる”作業だと思っています。何かを聴いて物足りなければ上げる、それは相対的に何かを下げるわけです。何を選択して何を落とすか、という作業になっているんです。

−−CDではそういった、落とされてしまう部分が多かったりしたのでしょうか?

柏谷:CDの場合だと、スタジオで作ったマスター音源を派手めにしようとした時に、代わりに細かく鳴っていた音とか切り捨ててしまうものが結構ありました。ですので、そういう細やかな部分もしっかり聴こえるというアプローチにした方がハイレゾは面白いな、と思ったんです。だから、派手じゃないんですよ。

−−ハイレゾは、派手じゃない。

柏谷:はい、だから聴いて気持ち良いかと言えば、気持ち良くないと思います(笑) どうしても人間は、音が大きくなれば気持ち良く聴こえるものなんです。同じ音楽でも、そのままのものと3dB上げたものを聴けば、3dB上げた方を良い音だと皆が言ってくる。だから、レベルを上げて、音圧があれば聴こえが良いし、ノリやすいと思います。

−−たしかに、その感覚はとても理解できます。

柏谷:ただ、ハイレゾは違うアプローチにしたかった。ハイレゾの方は聴いていくと発見があるし、ナチュラルめに作っているので機材による音の違いが分かりやすく出るはずです。ヘッドホンだったりアンプだったり、再生環境によっても音がどう変わるのかがハイレゾだと如実に表れるので、そういう楽しみ方ができると思います。

−−先の通り、アイドルマスターのタイトルではBDオーディオが収録されていることもありますが、その“高音質”な音源とハイレゾにも違いはあるのでしょうか?

柏谷:BDオーディオでは、良い機器で音楽を聴くという環境も想定していますが、何より5.1chにミックスした音源も収録しましたので、空間表現を求めた2ミックス(2chのステレオ音源)を作っても、5.1chには勝てないというか、ある意味5.1chはエンターテイメントなので表現が違う。ですので、空間というアプローチはしていないんです。CDの方向性はありつつも、一つ一つの音の聴こえ、解像度を重視した作り方にしています。

−−ではハイレゾの方は?

柏谷:音楽の基本はステレオなので、正面から2ミックスで空間を作りだすものです。特にダイナミックレンジを取れるということは、楽器の定位や奥行きをマスタリングで調整できるんです。音の広がりがどのくらいになるのか、そのなかでボーカルや楽器の位置はどうなのか。CDは音圧を上げてしまうがために、凄く近いところで全部の楽器が鳴っているように聴こえてしまう。それは実は不自然なもので、楽器のそれぞれの位置を出したほうが自然に聴こえるはずなんです。ハイレゾではそれを念頭に置いてマスタリングしています。

−−CDは皆さんがどのような環境でも聴けるように、BDオーディオでは解像度を重視、そしてハイレゾ音源では空間性が感じられる、というフォーマットによる作り方の違いがあるわけですね。例えば現在ですと『Star!!』がBDオーディオとハイレゾでありますが、この曲でもそういった違いがあるのでしょうか?

Star!!

柏谷:そうですね。『Star!!』のマスターは96kHz/24bitで作っているんですが、ハイレゾではこのマスターを使って、そのテーマに沿ってリマスタリングした形でリリースしています。

−−『Star!!』もそうですが、アイドルマスターの楽曲はソロもさることながら、複数人が歌う楽曲が大きな魅力だと思います。その声の聴こえ方にも違いが出るのでしょうか?

柏谷:楽器と同じで、例えば5人並んで歌っている、というイメージで作っても、音圧を上げることで5人が集まってきて、近くで声の大きさを変えて歌っているだけでしかなくなるんです。でもダイナミックレンジを広く取ると、ちゃんと5人がもう少し遠くの方で、重ならない位置で歌っているように聴こえるはずなので、一人一人の声が分かりやすくなると思います。

−−間近で歌ってくれると言われると良い気もしますが、そういう話ではないですしね。ここまでの内容から察するに、ボリュームはちょっと上げめで聴くべきでしょうか?

柏谷:はい、もともと低めで作っているので、普段よりボリュームを上げて聴いていただけると(笑)。

瀬戸:マスタリングエンジニアもそう申しています! うちのホームページにもサラッと「ハイレゾ用としてダイナミックレンジを広くとっておりますので、通常のCDを聴かれる時と比べてボリュームを大きめにしてお聴きください。」と書いてありますね(笑)

−−ORTの表記がない、もともとハイレゾで録られた楽曲についても、リリースにあたってはハイレゾの方向性に合わせてリマスタリングされているのですね。

瀬戸:はい。迫力がなくなることを、制作者は恐れるんです。他の楽曲と比べて弱くなってしまう、ということをマスタリングエンジニアも心配していました。でも、「それで良い」と決断してくれたので、ダイナミックレンジを活かして作る、という指針を実現できました。

柏谷:目を閉じて「この鳴っている音はどこに存在しているんだろう」という部分を集中して聴いてもらえたら分かると思います。ボーカルがほかの楽器に比べて前にいるのか、後ろにいるのか。ベースなどの低音が全体を包むようになっているのか、前面に出てきているのか。ギターがほかのオケに比べてどこにいるのか。特に左右だけでなく、奥行きの部分がハイレゾは分かりやすいと思いますし、よりナチュラルになる。ORTという技術も、そういった空間が分かりやすくなるものだと思います。

次ページ倍音再構築技術、ORTとマスタリングの関係

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