【特別企画】Bluetoothオーディオの疑問をクアルコムに聞いた
FiiOのワイヤレスオーディオも採用。Qualcomm aptX/aptX HDはなぜ音が良いのか?
Q5、aptX HDでハイレゾ相当のデータを送ることができる理由
島氏 それではaptXとaptX HDの違いについても、改めて教えていただけないでしょうか。また、aptX HDは後から登場しましたが、このようなコーデックが追加された背景も教えていただければと思います。
大島氏 aptXとaptX HDの違いは非常にシンプルです。aptXは入力された信号を48kHz/16bitで圧縮しますが、aptX HDでは48kHz/24bitで圧縮します。圧縮のアルゴリズムは全く同じで、8bit分増えただけの差です。aptX HDにおいても「よりシンプルに」というコンセプトはまったく変わっていません。
ちなみに48kHz/24bitというスペックは、従来のaptXのアルゴリズムをそのまま使って伝送できるデータ量で、なおかつ、試聴評価を含めて原音に対して忠実であるという音質を実現できるということで採用されました。
aptX HDが登場した理由としては、やはりハイレゾ音源の登場があります。日本のユーザー、メーカーを中心にハイレゾが盛り上がり、ハイレゾに準じた音質をワイヤレスでも楽しみたいという要望が高まりました。それに応えるかたちで登場したのがaptX HDなのです。
島氏 aptXとaptX HDでは、ビットレートは実際にどのくらい異なりますか。
大島氏 aptXの上限が384kbpsなのに対して、aptX HDの上限は576kbpsとなります。
Q6、Bluetoothの音質は用いられるチップによって変わる?
島氏 これはオーディオマニアの方なら気になる質問だと思うのですが、Bluetoothは使われているチップによって音質が変わることはあり得るでしょうか。
大島氏 音質は変わると言っていいと思います。なぜならば、BluetoothのチップにはDSPやDACまでが含まれていて、デジタルデータのデコードやD/A変換までを行うからです。当社は様々なBluetooth用チップをラインナップしていますが、やはりよりグレードの高いチップでは、DACについてもよりグレードの高いものが組み込まれています。その点は最終的な音質に影響してくるでしょう。
島氏 オーディオ機器では、DACやDSPにどんな型番のものが使われていて、どのようなグレードなのかを、製品を選ぶ基準のひとつしている人は少なくないでしょう。同じようなことが今後はワイヤレスオーディオでもあり得るかもしれませんね。
大島氏 我々のチップでは、最終的には内蔵されたDACをパスして、外部のDACでD/Aを行うというような使い方が可能なものもあります。より高音質を目指すならば、そのような選択肢もあるでしょう。ただし、完全ワイヤレスイヤホンのようなサイズや消費電力に制限があるものでは難しいですね。
もちろん、我々のチップに内蔵されているDACも、ヘッドホンやイヤホンに用いるのには十分な、aptX HDの24bitのデータも生かし切れるクオリティのDACを搭載しています。
Q7、Bluetoothの接続安定性を高めるための取り組みとは
島氏 これまで主に音質と関わる部分についてお伺いしてきましたが、ワイヤレスオーディオにおいては、音質以上に、音切れのなさなどの使用感が非常に重要だと思います。Bluetoothの接続を安定させるための取り組みについて、特に工夫している点があれば教えてください。
大島氏 まず当社が他社と大きく異なるのは、Bluetoothの送信側と受信側、両方を手がけているということです。
オーディオ以外のジャンルも含めれば、Bluetoothだけを搭載した機器というのは少なく、スマートフォンのように同じチップの中にBluetoothとWi-Fiの両方が含まれているケースが多いです。そうなると干渉をいかに避けるかなど、ソフトウェアだけでは解決できない様々な課題があります。ハードウェアを知り尽くした上で、ソフトウェアまで自ら手がけているということも当社の強みです。
ハードウェアについてもチップだけが全てではなく、アンテナの設計、基板レイアウトや筐体構造まで、あらゆる項目を満たすことで、初めて音切れがしないということを実現できると言えます。ですから、音切れはチップだけでなくハードウェア設計全体が関係してきます。Qualcommのチップを採用していただいたメーカーに対しては、リファレンスデザインやガイダンスなどを提供して、チップの特性を最大限引き出せるようなお手伝いもしています。
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