【特別企画】Bluetoothオーディオの疑問をクアルコムに聞いた
FiiOのワイヤレスオーディオも採用。Qualcomm aptX/aptX HDはなぜ音が良いのか?
Q3、複数の種類があるコーデックの中で、aptX/apt X HDが音がいい理由
島氏 同じA2DPのコーデックでありながら、SBCやAACと比べて、aptXやaptX HDが音質面で優れている理由を教えてください。
大島氏 まず、aptXのバックボーンについてお話しましょう。aptXはそもそもがBluetoothのためのものではなく、プロフェッショナル領域のオーディオ機器のために開発された技術です。開発したのは英国立大学の教授なのですが、音声データを圧縮しつつ原音に近い音を実現するというのがそのコンセプトでした。
同じ圧縮技術でも、AACやMP3、SBCとは異なるコンセプトだと言えます。なぜなら、AACやMP3、SBCは人間の聴覚心理に基づいて、人間が聴くことのできない周波数帯域を切り捨てた上で圧縮を行っているからです。しかも、単に聴こえない帯域だけをフィルターを介して切り捨てるだけでなく、それ以外の帯域に対しても複雑な処理を行うことで圧縮を行います。ですから圧縮率は高いのですが、再生したときに原音からは遠くなってしまうのです。
島氏 aptXが業務用の音響システム向けに開発されたという話は印象的ですね。
大島氏 AACやSBCが原音からいかに離れてしまうのかがよくわかる例があります。プレーヤーでMP3を再生して、それをAACやSBCコーデックのBluetooth経由で聴くような場合です。音源自体がすでに聴覚心理に基づいて圧縮されているのに、それをいったんデコードし、PCM音声化した後、さらにBluetoothで伝送するためにエンコード/デコードするというプロセスを経ることになります。このような場合、原音ではありえないノイズや変調が起こることが多く、原音との乖離が測定結果にも顕著に表れてきます。
島氏 それではaptXやaptXはどのような処理を行っているのでしょうか。
大島氏 aptXでは、まずADPCMという非常にシンプルな圧縮を行い、その後に我々独自のアルゴリズムによる圧縮を行うという2段階の処理を行います。その際、聴感上必要な帯域だけ取り出せばよいというような処理は行わず、44.1kHzのナイキスト周波数である22kHzはしっかり確保します。圧縮率は当然ながら低めになりますが、フィルターの数も最小限として、よりシンプルに圧縮を行います。ですから、再生した際により原音に対して忠実な音になるのです。
aptXやaptX HDの音の良さのカギとなるのはやはり我々のアルゴリズムですが、その直前までは可能な限りシンプルな処理に徹することも、原音に対して忠実な再生が行える理由です。
Q4、aptXやaptX HDにおける独自のアルゴリズムのポイント
島氏 aptXやaptX HDにおける独自のアルゴリズムについて、もちろん企業秘密もあると思いますが、どのような特徴があるのか可能な範囲で教えてください。
大島氏 我々のアルゴリズムでは、CBR(固定ビットレート)でまず1/4のサイズまでデータを圧縮します。この圧縮においては様々なアルゴリズムが組まれていますが、それらをあまり動的には切り変えないということも音質に関わってくると言えます。
もうひとつ、aptXについてもaptX HDはサルフォード大学と共同で開発を行っているのですが、大学の音響の専門家や演奏家が聴感でテストを行って、それを踏まえたチューニングを行っています。デジタルの静特性を判断基準の全てとするのではなく、聴感の評価も大切にすることも重要だと考えています。アルゴリズム開発者とオーディオスペシャリスト達との共同作業によって、このコーデックは生まれたといえるでしょう。
島氏 聴感上元の信号と遜色ないかどうかを人間が聴いて確認するプロセスは、人間が音をどのように捉えているのかの研究が進むにつれ、音声信号処理の領域で改めて話題になってくるかもしれませんね。
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