「DP-400/450USB」開発者に聞く
デノン10年ぶりのレコードプレーヤーは、父娘ほど離れた開発者が「デザインと音」の両立を目指した
■音質を求めつつ、最低限の安心感も保証するバランス感覚
ーー ちなみにDP-400/450USBでは、マニュアル方式を採用して、アームを手で操作することなく自動的に再生が始まるオートスタートを排した一方で、再生が終わると自動的にアームが上がるオートリフトに対応していますね。
岡芹 フルオート方式を否定しているわけではありませんが、オートスタート機能をつけると、どうしてもアーム周りのスペースに制限が生じて設計に制約が出ます。
ーー フルオート方式には再生の手軽さや、盤面・カートリッジを傷つけにくいという利点もありますが、私はトーンアームをグルーブに落とす一瞬の緊張感がアナログ再生の醍醐味のひとつと考えていますので、その立場からもマニュアル方式を採用されたことには大賛成です。
岡芹 しかし自動的にアームが上がる機能については、これだけはどうしても実装したいという個人的な思いがありました。昔から考えていたテーマで、例えばレコードをかけっぱなしで、うっかり寝てしまったという時も安心ですから。ワウフラッターやアーム感度など、基本性能に対して極力影響を与えずにリフトアップできないか考えました。
ーー 熱心なオーディオ愛好家でも、自動的にアームが上がるアクセサリーを後付けしている方もいるくらいですので、この部分についても賛成です。先に話したフルオートの機能もあわせ、初心者からある程度のアナログファンまでを満足させるバランス感覚はさすがだと思います。
岡芹 音質を担保しながらアームを上げる機能を実装するにはかなり苦労したんですよ。最初は、アームのスプリングを上げる小さなアクセサリーを組み込もうとしたのですが、演奏終了後に起きうるハプニングは回避したいと考えました。結果、いろいろな方法を試して、アームリフター根本に専用の機構をつけるという手法に落ち着きました。
山中 マニュアル方式を採用した理由は、技術的に性能を追求しやすいというだけでなく、やはりレコードを聴く悦びをより感じることができるというのも理由のひとつです。
アームの調整も必要だし、レコードを拭いたり、針を落とす位置を確認したり何かと手間はかかりますが、その手間のおかげで、より日々の生活に溶け込んで、豊かな時間になるのではないかと思います。もちろん、フルオートも便利で使いやすいのですが、これからレコードを聴いてみたいという方や、ある程度のこだわりのあるレコードファンには、マニュアルも体験してもらいたいですね。
ーー デザインシリーズだからといって全部便利にするのではなく、アナログレコードを聴くという行為の儀式的な部分もそこに落とし込んでいくということですね。
山中 マニュアルにはこだわりたいと考えていますが、新しくレコードを聴く層に向けて、ある程度の利便性の追求もしたいと。
岡芹 このような便利な機能については、レコードプレーヤーが華やかだった頃には様々なものがありました。コイルとマグネットを組み合わせて、リードアウトになったとき、加速度検出によってリフトアップしたりとか。先人の技術にはもの凄いものがありました。
ーー 実際、DP-400/450USBのオートリフトアップはどのようなメカニズムで行われているのですか?
岡芹 実は2段階のリフトアップ機構を備えているのです。まず1段目ですが、再生が終わりスタイラスが内周まで行くと、同じパターンのノイズが繰り返されますよね。「プチ、プチ」と。その音をマイコンで検出して、“ループしてるな”と判断したときアームが上がるようにしました。
ーー これだけでは十分ではなかったのでしょうか。
岡芹 レコード再生では何があるか分からない。同じパターンの音声を検出できなかった時に備えて、トーンアームの根元にセンサーをつけています。これが2段目です。
リードアウトに入るだろうという位置にアームが来たら、センサーが反応してタイマーがかかり、もし音声を検出しないまま2分経った場合アームを上げる、という機構を備えているのです。昔あった、最後にフレーズがループするような仕掛けがあるレコードでも、アームの位置によって最長2分経てば上がるようになっています。
山中 アームが上がったら一定時間でターンテーブルが止まる機能や、回転が接触か何かで妨げられても自動で止まる機構も組み込みました。不慮の事故や、うっかりによる故障をなるべく回避できるようにという意図です。音質とは関係のない部分ですが、ライフスタイルに即した製品として考えれば、あっていいかなと。
ーー 特にはじめてレコード再生を楽しむユーザーには、針が上がったりターンテーブルが止まったりという機能は非常に有用だと思います。デザインだけでなく、使い勝手がここまでこだわられていることに驚きです。
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