フィンランド発の注目ブランド、ついに日本本格展開
世界のプロ達も認めたスピーカーブランドが考える『ハイファイ』とは? Amphion アンシ・へヴォネン氏インタビュー
――Amphion Loudspeakerは、北欧フィンランド中部に位置するクオピオという町で設立されたと訊いています。
へヴォネン それは私の実家のある町です。ホームオーディオから始めて、現在ではホームとプロと両方やっている数少ないメーカーだと思います。フィンランドの豊かな自然に囲まれた、広い住環境の影響があるかもしれませんね。私にとっては音楽だけではなく、さまざまな自然の音というのは人生において美しい物のひとつです。私自身は14歳の頃からスタジオの音に興味を持ちました。そして1987年から10年間、香港に住みつつフィンランドのスピーカ—メーカーの仕事も手伝っていました。主にマーケティングのお手伝い等でした。そこからの良い出会いが重なって、まるで何かに引き寄せられるようにAmphionの設立に携わりました。
――当初はどんな会社だったんですか?
へヴォネン その頃は、真空管アンプの制作者などオーディオ関係の知り合いが中国にいたので、自分のドリームセットを作ることができたのですが、唯一不満だったのがスピーカーで本当に欲しいものが非常に高価だったことです。とても妻や家族には言えないような値段だったので、「だったらそのお金を研究費用にして自分たちの欲しいスピーカーを作ろう」というのがスタートでした。
――開発のポリシーを教えて下さい。
へヴォネン 我々が目指しているのは、スピーカーというのはできるだけ大きな「綺麗な窓」であるべきで、聴き手がさまざまな音を受け取れるようなものを作りたいということです。最初に申し上げたように、住んでる環境によって暮らし方は変わってきます。だからこそ大事にしているのは、色んなものができるだけ自然のままであることなんです。
――日本だと音楽製作用のモニタースピーカーとホームオーディオのコンシューマー用とでは、違う傾向を持つスピーカー、という考え方がありますが、このあたりはいかがでしょうか?
へヴォネン モニターには「粗探しのための道具」という認識が、確かにありますね。ただ、音楽を聴く行為と音楽を作り出す行為は同じであるべきというのが私の考えです。まず、ひとつ大事にしているのは空間表現力です。もともと聴覚は音楽を楽しむために生まれたと言うよりも、動物として生き延びるためにもらった機能です。私が音楽を聴く時に一番楽しみにしているのは、その聴覚によってまるで別の空間に連れていってくれるような感覚です。ただ、オーディオの展示会に行くと2kHz〜5kHzといった本来耳にとって敏感な帯域で、パッシブのネットワークでクロスさせる部分の音圧(音の存在感)が高すぎるスピーカーが多いと感じています。これでは空間的な情報が再現しづらいのではないかと思います。オールドスクールのオーディオファイルの方々は、立体ではなく壁のような平面の情報での聴き方に慣れていると、私は考えています。
――日本でもそうした印象はありますね。
へヴォネン 特に若い方々はヘッドフォン世代なので、音楽の空間をいかに自分の頭の中で再現するか、ということに苦労して、高級な、良いヘッドフォンを使ってなんとか空間表現力を獲得しています。そういう方々がお店でAmphionのスピーカーを聴くと、「やっといいスピーカーを見つけた」と評価していただけることが多いですね。
――それは興味深い話ですね。
へヴォネン Amphionでは、小音量でも浸透力の高い音を再生したいと考えています。これはフィンランド人と日本人で共通してる部分から来ているのではないでしょうか。例えば、「自分が、自分が」と話すよりも、人の話に耳を傾ける性質とかですね。それと、他人に対してリスペクトを払う点などです。こうした点の延長で、日本では部屋の隣人の邪魔をするべからずというのもあると聞きました。それがオーディオにおける「小音量でも音の押し出しのいい、音の綺麗な再現性」につながります。これをオーディオファイルのものだけにはしておきたくないんですよ。仕事が終わって家に帰ってきて、大抵の場合遅い時間でそんなに大きいボリュームでは聴けない。テレビのニュースも聴き取りやすい音の方が良いでしょう? 小音量で再生するなら、立派なスピーカーなんていらない、と言われることもありますが、例えばBMWのディーラーにクルマを買いに行って「スピードを出さないから性能の低いクルマで良い」という人はいないですよね。スピーカーもしょっちゅう大音量で聴くわけじゃないけれども、そのための能力を持ちつつ、小さい音で聴いても綺麗な音で聴けるのが大事だと思います。