<山本敦のAV進化論 第174回>
「Xperia 1」は“感動”スマホ。ソニーの総力結集、最上位モデル開発者インタビュー
ディスプレイ周辺の形が整ってきた頃から、ソニー・ピクチャーズ・エンターテインメント(以下:SPE)のクリエイターと膝を突き合わせながらの画質チューニングが始まった。Xperia初の4K/HDRディスプレイを搭載したモデルである「Xperia XZ Premium」の頃からSPEとの協力関係は始まっていたが、初めて有機ELディスプレイを搭載したXperia XZ3の開発から得た知見も存分に活きたという。
松原氏のチームはソニーのテレビ、ブラビアシリーズの開発陣とも定期的に交流を重ねてきたと松原氏は振り返る。特に映像エンジンの「X1 for mobile」を本機のため、アルゴリズムを1から組み直すところに時間をかけてきたそうだ。
Xperia 1にはシリーズで初めてアスペクト比21対9のシネスコサイズのディスプレイが搭載された。同社では「CinemaWide」と名付け、スマホによる没入感あふれる映像体験として訴求する考えだ。都築氏が背景にある狙いの説明を補足している。
「映画はもちろん、モバイルゲームコンテンツの没入感を高めるワイドなディスプレイの魅力と、約6.5インチという大画面なのに片手操作も軽々とこなせるフィット感など、体験の総称としてCinemaWideと名付けました」(都築氏)
ディスプレイを21対9というアスペクト比にすることは以前から計画としてあったのだろうか。松原氏に訊いた。
「最近のXperiaまで16対9のディスプレイを搭載していました。昨年の秋に発売したXperia XZ3で18対9にも挑戦しています。ところが実際にはアスペクト比が18対9というコンテンツが少なかったため、どうせソニーがやるなら一気にシネスコサイズの21対9にしようということになりました。思い切ってやってしまえと(笑)」
「そして実際に挑戦してみたところ、うまく形にできました。21対9のディスプレイはプレミアムコンテンツとの親和性も非常に高いと考えています。製作者の方々に聞いてみても、映像のバランスと収まりがとても良く、コンテンツの上質さが表現できると好評です。コンテンツありきという考え方からハードウェアを設計するという、ソニーならではのアプローチが奏功しました」(松原氏)
ファーストインプレッションでも触れたとおり、Xperia 1が搭載するディスプレイは従来のXperiaと同じ8bit入力対応のものだが、10bitの映像信号が入力された際には「X1 for mobile」によるスムージング処理をかけて2bitの信号を補ってから、10bit相当の画質に変換処理をかける。モバイル端末向けにNetflixやAmazon Prime Video、YouTubeなどに広がっているHDRの映像ソースを高品位に楽しむことを想定した仕様であり、対象となるソースが入力されると自動的にその処理を行う。
Xperiaのチームはどういう映像をリファレンスにして画づくりを詰めていったのだろうか。「今回は厚木の業務用映像機器の開発チームが、日ごろマスターモニターの画質評価に使っている秘蔵の評価用ソースを使っています」と松原氏が嬉しそうに質問に答えてくれた。
「当社にも厚木の事業所とまったく同じ開発環境をセットアップして、同じソースをスマホとBVM-X300を並べて見比べられる環境づくりから始めました。元の映像ソースの出来映えが大変に良く、画質評価の際にポイントとなるところがわかりやすく捉えられる素材になっていますので、Xperia 1の画質を効率よく練り上げられたと思います。ただ、それでもチューニングには軽く半年はかけて取り組みました」
「BVMの開発チームとの協業はこれが初めての機会でしたが、私たちXperiaの開発者チームが得られたものは大きかったと思います。Xperia 1の画質はまだこれから発売までさらにブラッシュアップしていきますが、既に従来ならば辿り着けていないレベルにまで深く掘り下げることができていると思います」(松原氏)
Xperia 1にはディスプレイの真価を引き出す「クリエイターモード」という機能が新設されている。画質設定のパラメータをソニーの業務用マスターモニターであるBVMシリーズに合わせ込むことによって、映像のプロがこだわりを込めて制作したコンテンツの色彩・コントラスト感を忠実に再現する。画質のチューニングにはBVMシリーズの開発者が参加して一緒に画づくりを行った。